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67.邪竜、魔王四天王の襲撃を受ける

お世話になってます!



 シーラの生い立ちについて聞いたその数分後。


 夜。息子リュージの部屋にて。


 窓枠に、1匹の黒い蝶々が止まっている。

【見つけたぞ、邪神王ベリアル様のお力を奪った下手人を……!!】


 蝶々の方から声がする。

 それは年若い女の声のような感じがした。

 そしてカルマは……ゾクッ! と背筋が凍るような感覚を得る。


 魔なる物の気配を、その蝶々から感じ取ったのだ。


【さぁドラゴンよ。その力、われに返すが良い!!】


 ふわり、と蝶が羽ばたく。

 カルマに向かって飛んでくる。


 異様なオーラを感じる。何か良からぬことをされるような感じがした。


 蝶がシーラに、シーラに抱かれているカルマに向かって、飛んでくる。


 そのときだ。


 キンッ……!!!


 と、蝶が真っ二つに割れたではないか。


「え?」「な、なんなのです……?」


 あまりのことに、驚き戸惑う息子たち。


 動いたのは息子じゃなかった。


「大丈夫、みんな」

「チェキータさん!!」


 そこにいたのは監視者エルフのチェキータだった。


 普段はにこやかに笑っている彼女が、険しい表情をして、辺りを見回してる。その手にはナイフが握られていた。


 それでさっきの妖しげな蝶を切り伏せたのだろう。


「チェキータさん……さっきの蝶は?」


 リュージがエルフに問いかける。


「……恐らく強力な魔物でしょうね」


 チェキータは表情を硬くしたままだ。


「で、でもチェキータさんが倒したし、これでもう安全なんですよね?」


 息子がエルフに問いかけるが、彼女は首を振るう。


「そうとは限らないわ。……あの魔物。あの魔力の波長。まさか【蟲の王】……」


 チェキータがブツブツと何ごとかをつぶやく。息子たちが困惑している。だが説明をせず、


「……まさか。ありえない。あれは封印されてるはずでしょう? 封印を破ったというの? 自力で? いや、考えられない……。第三者が破った? バカな。王家の者が守っているはず」


「ちぇ、チェキータさん?」


 リュージがチェキータ尋ねる。


「リュー。それにしーちゃんも。この場から逃げるわよ」


 チェキータは息子たちの手を取る。


「逃げるって……どうしてですか?」

「あの魔物がまた来るかもってことなのです? でもでも、チェキータさんが倒したんじゃ……」


 チェキータは首を振るう。


「もしあの魔物が、お姉さんの思っているとおりの魔物だとしたら、あの程度じゃ死なない……」


 ハッ……! と、チェキータがそんな表情になる。


「るーちゃんはどうしたの?」

「え……? ルコは……あれ?」


 そう言えばルコの姿が見えない。

 自分の部屋で寝ているだろうが、このさわぎで起きてこないのはおかしかった。


 そのときだ。


 がちゃ……。


 とリュージたちの部屋のドアが開く。


 そこにいたのは、銀髪褐色の幼女、元魔王四天王のひとり、ルシファーのルコだ。


「ルコ!」


 息子が立ち上がると、駆け足でルコに近づく。


「良かった無事だったんだ……」


 ね、と言う前に、ルコがふらり……と倒れた。


「ルコッ!!!」


 リュージがルコをしっかりと抱く。


「どうしたのルコ!?」

「ぱぱ……。にげ……て。べる……ばぶ。が、来る……」


「べる、ばぶ? ルコ。一体何のこと……?」


 とそのときだった。


「リュー!!!」


 ドンッ……!


 と息子がチェキータによって突き飛ばされる。


「りゅー君!!!」


 慌ててカルマが、リュージを助けに行こうとする。だが赤んぼうの体だ。それにシーラに抱かれている状態である。


 シーラはカルマをかばうように、ぎゅーっと抱きしめている。か弱い乙女の腕力にすら、今のカルマでは押しのけることができなかった。


「か、カルマさん……。い、今……」


 今のでシーラが、カルマの声に気付いた。だがそんなのどうでも良かった。


「リュー! 逃げな……! あッ……!!」


 ガクッ……! とチェキータがその場に崩れ落ちる。どさり、と地面に倒れ伏せる。

「チェキータさん!」


 叫ぶリュージ。カルマは異常事態を感じた。監視者の女がやられた。それほどまでに相手は手練れだ。


 このメンツでは太刀打ちできない。逃げるしかない……と思っていたそのときだ。



「逃がすと思うか」



 かた……。

 かたかた……。


 と、窓が揺れた。


 がたがた……がたがた……!


 窓の揺れが激しくなる。


 窓の方を見やる。だが窓には何もなかった。いや……。


 窓が真っ黒に染まっていた。夜の景色がそこから見えるはず。だのに、そこにあったのは漆黒だ。


 ビシッ……!!


 と窓がひび割れる。


 ビシッ……! ビキビキッ……!!


 そして、激しい音を立てて、窓が割れる。

 ブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウううウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!


 入ってきたのは、無数の虫だ。


 蝶やはちはえあぶ


 そのほか名前の知っているものから、名前の知らないものまで。


 ありとあらゆる種類の虫が、窓から大量に押し寄せてきた。


「な、なんだ……!?」

「虫が洪水のようなのです……!!」


 困惑する息子たちをよそに、大量の虫が、目の前で集合していく。


 漆黒の虫たちが何かを形作る。それはヒトガタのようだった。


 やがて虫は集まると、カッ……! と漆黒の光を発する。


 目を閉じて、開けるとそこには……。


 長身の女が立っていた。


 白い肌に、緑の長い髪。

 漆黒のドレスを身に纏っている。


 片目のみを前髪で隠し、頭の上からは、虫の触角をはやしている。


 背中からは4対の、合計で八枚のはねをはやしていた。


「くく……。会いたかったぞドラゴンよ。薄汚い盗人トカゲめ」


 その女はカルマを見てドラゴンと言った。

 今のカルマは、人間の赤子の状態。正体がドラゴンであることを、なぜこの女が知っているのか……?


「だ、誰だお前は……!!」


 女の前に、息子が躍り出る。


 その手には剣を握られていた。


「なぜ我が人間ごとき名乗られば……」


 とそのときだ。


「……おぬし。ユートか?」


 と、女がそう言ったのだ。


「ゆーと? 僕はリュージだ!! 母さんの……カルマアビスの息子だ!!」


 息子が強くそう言い放つ。


「……くく。そうか。おぬしがあの女の言っていた保護の対象か」


 意味深に笑う女。


「まあよい。名前を聞かれたのなら答えてあげよう!」


 バッ……! と女が大仰に手を広げる。


われは【ベルゼバブ】! 魔王四天王のひとりにして、魔王様の後方を守りしもの! 【蟲王ベルゼバブ】である!」


 女は……魔王四天王の1人のようだ。


「魔王四天王……ルコと同じってこと?」


「ルコとはそこで寝転んでるルシファーの転生体のことか? だとしたら答えはそうだ。我は魔王様の、ひいては邪神王ベリアルさまの忠実なるしもべ」


 邪神王ベリアル。

 聞き覚えがある。


 かつて自分が食らった、邪神の名前だ。


 全ての元凶。自分がこんな力を手に入れることになった原因。


 邪神王は魔王を生み出し、世界に破滅をもたらそうとした。


 だが魔王は勇者によって倒された。そして邪神はカルマが倒した。


 いや、正確に言うなら、邪神を食らったのだ。


「魔王四天王の1人が、僕たちになんのようなんだよ……!」


 リュージが剣を構えながら、ベルゼバブをにらみつける。


「知れたこと」


 ベルゼバブがカルマに、ビシッ……! と指を突き立てる。


「この邪竜の体に宿る、邪神王様の力を取り戻しに来たのだ!」


「力を……取り戻す?」


 こくり、とベルゼバブがうなずく。


「魔物は相手を食らうことで、その魔物の能力を奪う。そのドラゴンが邪神王様をそうしたようにな」


「ということは……まさか……」


 にやり、とベルゼバブが笑う。


「そう……! 取り戻すとはつまり、その女をわれが食らうと言うこと!」


 ぎり……と剣を握る、息子の手に力が入る。


「それって殺すってことじゃないか!」


「決まっておるだろう。そもそもその力は邪神王様のもの、それをその女が盗み取ったまで」


 ベルゼバブがカルマに、憎々しげな視線を向けてくる。


「それは我が主の力だ。そして主の力を受け継ぐのは配下の役割。つまり我こそが、その力の正統なる後継者なのだ!」


 それを聞いたリュージは……。


「ふざけるな!! 母さんを殺させるものか……!!!」


 剣を構えたまま、ベルゼバブに突撃する。

「たぁッ……!!!」

「りゅー君! 無茶です! 逃げなさい!!」


 叫ぶカルマ。

 だが息子は止まらない。


 そこに本気の怒りをたたえていた。自分かるまを殺すと言われて、腹を立ててくれた。


 それはカルマに嬉しいことだったが、そんなことよりも、息子のみの安全の方が優先事項だった。


 相手は魔王四天王。リュージが太刀打ちできる相手ではない。一発でやられてしまうだろう。リュージの剣だって届きはしない。


 ……と思っていたのだが。


 ザシュッ……!!!


 と、リュージの剣が、ベルゼバブの体を袈裟に切る。


 あっさりと、ベルゼバブの体が両断されてしまった。


「や、やったのか……?」

「! りゅー君! 逃げなさい!」


「えっ……!」


 ドスッ……!!!


 と、巨大な蜂がそこにいた。

 息子の首筋を、蜂が刺したのだ。


「ぐぅっ……!!」

「りゅー君!!」「リュージくん!!!」


 その場でぐったりと、リュージが倒れる。

「安心せい。眠るだけだ。おぬしは殺すなとヤツから命令を受けておるのでな」


 両断されたはずの、ベルゼバブ。

 その体が、みるみるうちに修復されていく。


 ちぎれた断面に、無数の虫が集合していき、やがてキレイな体になった。


「我は蟲の王。数多の蟲を統べ、数多の蟲の集合体。我は一にしては全。全にして一。一部を切っただけでは、我は死なぬよ」


 ベルゼバブは笑いながら、リュージを蹴飛ばす。部屋の端に転がるリュージ。


「さてではドラゴンよ。我に力を返すが良い……」


 と近づいてきたそのときだ。


 ガシッ……!!


 と、ベルゼバブの足を、リュージがつかんだのだ。


「シーラっ!!!」


 渾身の力を込めて、リュージが叫ぶ。


「母さんを連れて逃げて……!!」


 悲鳴にも近いその声。そんなバカなことができるわけない。


 この場に魔王四天王のひとりがいる。その状況で、シーラが息子をおいて逃げるはずがない。


「カルマさん!!!」


 シーラは立ち上がると、部屋の隅に置いてあった杖だけを手に取る。


「シーラ!! どこへ行くのです!!」


 問いかけるカルマ。だがシーラは杖を構えて精神を集中させる。


 そして杖とカルマを抱えたまま、


 バッ……!


 と窓の外へと躍り出たのだった。

明日、日曜日も更新します。

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