地球に携わってきた人々 ご
これが地獄か…
僕の周りには何もなかった。闇を照らす光が、微かに見える。黒く、もやもやしたものが、光を遮っているのであった。
手を伸ばしても、光には届かない。
足掻けば足掻くだけ、深みにはまって行くような気がした。
ふと、僕を呼ぶ声がする。
懐かしい。そう思った。そうだ、これは母さんだ。母さんが、僕を呼んでいる。助けなければ。
母さんと遺書を残して、先に旅立った僕。生きている間は辛かったし、当時はこれが最善の道だと思った。楽になれる。そんな軽い考えで、母さんを絶望に突き落とした。暫くして、母さんは僕の後を追った。
そして母さんは、ここのどこかにいる。
ーどこにいるの?ー
ー洋一、よういち!ー
ああ!母さん!泣かないでよ!僕だよ、助けるんだ。これから。
母さんの方に行く度に黒の深みが増す。その間も、母さんは、鼻声混じりに、よういち、よういち、と僕の名を呼んだ。
やっとの思いで黒い霧をかきわけて、手を取った。母さん、僕だよ、こっち向いてよ。
こっちを向いた母さんは、母さんではなくなっていた。言うなれば、肉が剥がれて目や頬、腕の骨が見える。
僕は一瞬怯えて、母の元から離れようとする。途端、母さんは僕の方に襲いかかってきた。無象の黒い糸が僕を掴んで、より深く、引き摺り下ろす。
息が、できなかった。苦しみが、更に増した。さっきまでの霧ではない。黒い塊である。黒い塊が、僕を飲み込む。僕の中にあるのすべての光を吸い尽くすように、まとわりつく。
ー洋一、よういちー
ああ、まただ。黒いものが重くなる。母さんの声は、遠い。
ああ、助けに行ってあげられない。重い。重い。ああ、無理だ。もう、ぼくは。
およおよと、泣いている声が聞こえる。母さんだろうか。声が聞こえる方角、何も見えない暗闇に向かって想う。ごめんね。母さん。こんな状態にしたかったわけじゃなかったのに。別に、母さんがこっちまで来なくてもよかったのに。母さんが、ぼくという呪縛から解き放たれますように。
僕は、目を瞑った。