08.真実
「たっ・・・たい・・・たいへんでーす。」
美野里はドアを物凄い勢いで開けて入って来た若い魔術師を見て執務机の前で唖然とした。
書類を持って唖然としていた美野里は肩でゼイゼイ息を吐きながらなんとかしゃべろうとしている人物にやっと我にかえった。
この仕事についてから大変ですという言葉を聞いて大慌てで駆けつけてみれば、単に魔術式が消えただの新しい魔法が出来ただの美野里にとってはどうでもいいことばかりだった。
今回もそんなことだろうと書類仕事に戻りながら話を聞いていると今回は美野里の予測に反してとんでもない事態だった。
「さ・・・さい・・・宰相夫人とシェル様が魔術棟の前でやり合ってますぅーーー。」
「そう宰相夫人とシェル・・・!」
美野里は持っていた書類を机に叩き付けるように置くと椅子から立ち上った。
「シェルが!」
あの歩く破壊者いや爆弾男が権力者と口論とかとんでもないんですけど・・・。
「師匠は?」
「先程疲れたといって屋敷にお帰りになりました。」
「じゃ、だ・・・団長を呼び出しなさい。」
「先程屋敷に帰られたばかりです。と・・・とても呼び出せません!」
若い魔術師は涙目で床に蹲っている。
「そんなことわかんないでしょ。いいから伝言いえあなたが見た映像をそのまま送りなさい。」
「はいぃーーー。」
涙目で美野里の命令を聞いている若い魔術師をその場に残すと書類を置いて部屋を飛び出した。
目指すは魔術棟前だ。
「シェルぅ_。」
美野里は心の中でシェルがそれ以上、一言も話すなとずっと念じながら廊下をひた走って正面玄関で固まっている人物に合流するまで唱え続けた。
そしてやっとそのグループに合流してシェルの暴言を遮ろうと口を開いた美野里は逆にその場で固まった。
「なんで!」
美野里の前には数週間前に高校のグランドで見たばかりの少女が少しいやかなり年を取った姿で目の前に立っていた。
バタバタと合流した人物を見て宰相夫人は首を傾げ、他の二人も同じように首を傾げた。
「シェル。これはどういうことよ。」
「あら、シータじゃない。そんなに慌ててどうしたの?」
「どうしたって、今あなたが宰相夫人と怒鳴り合っているって・・・。」
「怒鳴り合ってる?そんなことしてないわよ。」
そこで我に返った宰相夫人がシェルの会話に割り込んだ。
「私が言いたいことは朱里がなんでこの世界にいるかってことが聞きたいのよ。」
宰相夫人は唾を飛ばして怒鳴るとシェルの胸倉をつかんだ。
「ちょっ・・・ちょっとそんなに興奮しないで落ち着きなさい。」
「これが落ち着いていられる訳ないわ。」
それまで黙って聞いていた宰相様がここでやっと的確な質問をシェルに飛ばした。
「彼女をこの世界に飛ばした人物はわかったのか?」
シェルは素直に美野里を指差した。
「えっ?」
美野里は呆けた顔でシェルを見てハッとして我に返った。
「なに・・・そうだけど、えっ!」
全員の視線が美野里に集中した。
美野里は何が起こったのかわからずその場で固まった。
「あらぁー、やだぁー。みんなして何をそんなに見つめてるの?シータが固まっちゃったわよ!」
固まらせたのはお前だろ!
美野里が心の中で突っ込んでいるとシェルはニッコリと笑っている。
この笑顔はなにを隠しているの?
美野里がシェルの笑顔に口を開こうとするより早く宰相夫人が口火を切った。
「ではこのシータという魔法使いのせいで私はこちらの世界に飛ばされたってことでしょ。なら元の世界にこの魔術師なら戻せるってことよね。」
宰相夫人の手が美野里の腕をギュッと掴んだ。
「もど・・・もどす?」
「ええ、そうよ。」
「ええ、そうね。」
シェルの言葉が宰相夫人の言葉に被った。
「死ぬ直前に戻せるわ。」
「死ぬ直前?」
「ええ、死ぬ直前。」
好い笑顔でシェルがいいきった。
「なんで死ぬ直前なの!」
「あら、聞いてない?」
「聞いてないわよ!」
「じゃ、どんな状況で飛ばされたの?」
「それは物凄い・・・。」
宰相夫人の言葉は小さく消えていった。
「で・・・でも・・・じゃなんで私たち四人は朱里と同じ時間帯にいない・・・。」
ブォー
魔術棟前に固まっていた集団に物凄い風が巻き起こってそこに黒いマントを羽織った人物が現れた。
「「「魔術師団長!」」」