07.探し人
朱里は手に紅茶のセットを持ちながら廊下を歩いていた。
零さないようにゆっくりと歩いていると前の通路から自分より先輩のメイドが歩いて来る気配がして慌てて通路脇によってそれをやり過ごすともっていた紅茶のポットから紅茶がお盆にこぼれていた。
いけない。
慌ててそれを拭こうとして焦って今度はカップを床に落としてしまった。
派手な音に周囲を警戒していた警備兵がやって来た。
幼い容姿の朱里を見て兵士がどうしてのか心配そうに聞いてきた。
朱里は焦って零してしまったと説明するが兵士はそれを先ほど通路を通った時にすれ違った先輩メイドが何かしたせいではないかと問いただしてきた。
何度も違うと説明するが警備兵の二人は信じてくれない。
言い争いのようになった所にシャルル王子が通りかかった。
「何かあったのか、アカリ?」
「シャルル王子!いえ、なんでもありません。」
慌てて言いつくろう朱里をシャルルは怪訝な顔をしながらもそれ以上聞いては来なかった。
安心した所にいつまで立っても紅茶を届けに来ない朱里の代わりにメイド長が紅茶のセットを持ってそこに通りかかった。
「まだここにいたの!」
メイド長の声に朱里はびくりと肩を飛び上がらせた。
「メイド長!」
それを見ていたシャルルがメイド長を睨む。
メイド長も負けてはいない。
「だから言ったではないですか、まだ未成年者には早いと・・・」
「メイド長も早く働くことは悪くないと言ったじゃないか。」
二人の言い合いにオロオロする朱里。
そこに豪奢なドレスを着た貴婦人が扇を片手に通りかかった。
「何を揉めているの?」
「宰相夫人。」
宰相夫人と呼ばれた人物と朱里の視線が絡み合った。
「朱里?」
「ユリちゃん!」
朱里は宰相夫人と呼ばれた女性をそう呼ぶと彼女に駆け寄った。
「えっ、なんでここに朱里???えっ、どゆこと?」
冷静沈着と呼ばれている宰相夫人には珍しくひどく狼狽している。
そこに低い声の男の人が現れた。
「どうしたんだそんなところでユリア。」
ちょっと太ったお腹に綺麗に禿げ上がった頭。
中年のおじさんだがそれでも容姿は彫が深く昔はさぞいい男だったろうと思われる片鱗が少し残っていた。
「宰相様。」
メイド長が宰相にお辞儀をした。
「ヘンリー卿。」
シャルルは逆に虚をつかれて宰相の名だけ呼ぶ。
その周囲の呆気にとられた様子をそのまま宰相夫人は宰相を振り向くと一気に捲し立てた。
「あなた、そのちょっと休養ではないわ、急用が出来たので後で伺いますわ。」
宰相夫人はそういうと朱里の手をガシッと掴んで歩き出した。
朱里はひきづられるようにその場を後にした。
しばらく引きずられていた朱里は流石に弱音を吐いた。
「あのユリちゃん。歩くの早い。」
まだお盆を手に持っている朱里を百合は見ると通りがかったメイドにそれを渡すと何も言わずにそのまま彼女を引っ張って行った。
「どこ行くのユリちゃん?」
「魔術棟に朱里を連れて行くの。」
「えっとなんで?」
「どうなっているか聞くためよ。」
訳もわからないまま朱里は百合に引きずられた。
魔術棟に着くと早速魔術師団長を呼び出すが彼はすでに執務を終え屋敷に帰ったようでいなかった。
「じゃ、呼びなさい。今すぐ。」
「無理です。」
「緊急よ。」
「それでも無理です。」
「私を誰だと思つているの?」
「団長の奥様はメグ様です。無理です。」
「くっ・・・。」
百合が魔術棟で呻いているとシェルがそこに現れた。
「あら珍しいわね。宰相夫人がここに来るなんて。」
「シェル。もうあなたでもいいわ。どうなっているの?」
「どうなっているって何が?」
「なんで朱里たちがここにいるの?」
「朱里たち?」
「あなたが召喚したんでしょ?」
シェルは珍しく取り乱した宰相夫人の態度に首を傾げた。
そこに後ろから宰相が駆けつけた。
「どうしたんだユリア?何があったんだ?」
「あなた。何でここにいるの?」