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03.運命のすれ違い

 風祭裕也かざまつりゆうやはがっしりした体躯で顔は美人な母に似てかなり見目麗しかった。


 父は厳つい顔だががっしりした体躯とは逆に頭脳派で一級建築士の資格を持っていたせいか美人な母の義父に目を付けられ、気がついたら養子にされていたそうだ。

 今はそんなこともあったのになんでか義父の後を継いでその風祭建設の社長をしている。

 もっともそのせいで裕也ゆうやの祖父は跡継ぎの一人息子を失い道場をいまだに高齢の祖父が指導していた。

 そんな時に裕也ゆうやが実家から遠い高校に通う為に祖父の所に居候することになったのだ。

 今度は祖父が裕也ゆうやに目をつけ、その道場の後継にしようと虎視眈々と機会を狙っているようだ。


 裕也ゆうや自身も道場でやっている剣術や体術は嫌いではないので黙って祖父に倣っているが今はサッカーに夢中だ。

 それが理由でサッカーで有名なこの高校に通うため両親を説得して祖父の家に居候しているのだ。


裕也ゆうやくーん。迎えに来たよ。」

 道場の前に幼馴染の朱里あかりがカバンを片手にやって来た。


「爺さん。じゃ俺、高校に行くから!」

 裕也ゆうやは道場で剣を振っている祖父に声を掛けるとカバンを片手に玄関を飛び出した。

 庭の砂利道を抜けるとそこには巨乳のくせに可愛い顔の黒髪の少女が出迎えてくれた。

 このギャップが溜まらない。

裕也ゆうやくん。遅いよ。」

「まあいいじゃないか朱里あかり。今日は朝練ないんだから。」

「そうだけど。今日でテストが終わるんだから昼からの練習はあるからね!」

「分かってるって。」

 裕也ゆうや朱里あかりの頭を撫でると歩き出した。

「待ってよぉー、裕也ゆうやクーン。」

 裕也ゆうやは揺れる朱里あかりの胸元を見ながら腕を差し出した。


 朱里あかりは嬉しそうに裕也ゆうやが出した腕にしがみ付く。

 ゆれる巨乳がムニュッと彼の腕に押し付けられた。


 内心喜びながら裕也ゆうやは表情はそのままに二人で学校に向かった。


 下駄箱に着くと裕也ゆうやは三年の下駄箱に向かった。

 朱里あかりはまだ一年だ。


 そこで別れると教室に向かう。


 すぐに廊下で同じサッカー部の連中が後ろからやって来て裕也ゆうやの首に腕を回した。

「お前朝からナニ見せつけちゃってくれんの、コノ。」

「何の話だよ?」

「一年の朱里あかりちゃんだよ。朝から腕くんで登校とかぁーなんて羨ましい奴なんだ。」

 裕也ゆうやは呆れ顔でそいつを見た。

 そいつは先程朱里あかりがしていたのと同じように今度は首に回した腕を裕也ゆうやの腕に巻き付けていた。

「俺もお前と同じ顔に生まれたかった。」

「それ何にも関係ないから・・・。」

「いや、そんなことはない。」

 そんな馬鹿なことを話しているうちに教室に着いた。


 ガラッと戸を開けて教室に入るとそこにいた人間の半数以上は殺気だったオーラを放っていた。

 ここはサッカーの強豪校というだけではなく、有名な進学校でもあったからだ。


 裕也ゆうやはカバンを置くと異常な雰囲気に黙った友人と別れ、自分の席に座った。

 目の前では何かを熱心に読んでいる朱里あかりとは真逆の雰囲気を纏った同級生がいた。


 ふと視線を彼女が読んでいる本に向けようとした所で先生が入って来た。


「よーし、テストを始めるぞぉ-。」

 先生はプリントを嬉しそうに机に置くと挨拶もそこそこに生徒にテスト用紙を配り始めた。


 はぁー、早く終わらせてサッカーがしたい。


 裕也ゆうやは筆箱から筆記具を出しながらグランドに視線を走らせた。

 風が強いが天気はよさそうだ。

 テストさえ終われば一日中ボールを蹴ることができる。

 裕也ゆうやはそう思って視線をグランドから外すと目の前にあるテストに取り組んだ。


 三時限目。


 これで最後のテストだ。


 このテストは終わり次第提出すれば教室を出られる。

 もっともあまりにも出来が悪ければ担当教師からもう少し頑張れと言われて席に戻されてしまうが逆に出来ればすぐに教室から出られるのだ。


 裕也ゆうやはこういっちゃなんだか父親に似たのか頭は良い。

 数学ほどではないが今日も一番に教室を出られると思いながら鉛筆を滑らせていると目の前に座っていた生徒が彼よりも早く立ち上がった。


 内心ビックリしていると彼女はそれを持って担当教師の元に向かった。


 俺より早いのか?

 ちょっとびっくりして彼女のことを見ていると彼女は何ごともなかったようにそれを教師に提出して教室を出ていった。

 席に戻されると思って見ていたのにそのまま出て行った姿に呆けてしまった。


 何を考えているんだ、俺。


 人を気にする前に自分だ。

 裕也ゆうやは気を取り直すとすぐにテストに取り掛かった。


 遅れること数十分。


 裕也ゆうやも問題を解いて教室を出た。

 これで練習に行ける。


 さっきの彼女は誰だったのか気になったが朱里あかり以外の女性のことはあまり気にしていない裕也ゆうやはサッカーの練習をするために部室に向かった。


 着がえてタオルを手に外に出るとボールを持った朱里あかりたちがいた。


朱里あかり!」

裕也ゆうやクーン。早かったね。」

 朱里あかりは嬉しそうに笑顔を浮かべると裕也ゆうやにボールを渡してくれた。


「ありがとう、朱里あかり。」

 裕也ゆうやはそれを受け取るとグランドに出た。


 風が強い。

 目を細めてグランドを見回した。

 グランドの砂が舞ってそこらじゅう茶色だ。

 地面に置いたボールも風で転がっていく。

 すぐに我に返って意識がボールに向いた。


 一時限ほど先にテストが終わっていた一年に混じって裕也ゆうやもグランドに出ると練習が始まった。

 練習が始まると裕也ゆうやを目当てに練習を見に来ていた一年生の少女たちから黄色い声援が飛び始めた。

 ムッとした様子の他の一年男子が裕也ゆうやからボールを奪おうと殺到し始めた。


 いい練習になる。


 裕也ゆうやはボールを追うことに神経を集中させた。

 途中からテストを終えて合流した他の三年生が加わると一・二年との試合になった。


 強い風の為かそれとも全員が白熱していた試合のせいか周囲に漂い始めていた物凄いガスの匂いに気付くのが遅れた。


 その匂いに気がついた時にはグランドにいた全員が強い風圧を感じて意識を飛ばした。


 グワァー!


 ボーン!!


 ボワーン!!!


 物凄い爆発で周囲は吹き飛ばされた。


 12月12日、午後12時12分。


 その高校の周囲で起こったガス爆発によりその近辺一帯は一瞬にして何もなくなった。


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