表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/51

17.発想の転換

 二人が襲われている人間がいる岩山に駆けつけるとそこには血だらけになった兵士が魔獣に右手を喰われかけている所だった。

 グギャー

 ぎぇー

 生きながら右手を喰われている兵士はこの世のものとは思えない悲鳴をあげ泣き叫んでいた。


 克也かつやが兵士を襲っている魔獣に背後から斬りつけた。

 美野里みのりは斬り込んでいった克也かつやの周囲にいる魔獣に雷撃を浴びせ黒焦げにしていく。

 即席にしては息のあった攻撃でシェルが駆けつける頃には粗方の魔獣は二人に始末されていた。

「あらいやだ。二人とも息合いすぎ。なんだか焼けちゃう。でもこっちの兵士たちはもうダメね。」

 シェルは魔獣に貪り尽された無残な兵士を炎の魔法で焼却した。

 その間に美野里みのりは腕から先を喰われた兵士の傷口に治療魔法をかけて止血と壊死を防ぐと克也かつやにこの場所から離れるためにその兵士を担いで運んでほしいと頼んだ。

「運ぶのはかまわないけど出血多量で死なないよな。」

 克也かつやは恐る恐る血だらけになっている兵士を抱き起した。

「今治癒魔法を掛けたからそれは大丈夫。むしろ・・・。」

「むしろ?」

 克也かつや美野里みのりに話しかけようとするのを後ろからシェルが会話に割って入った。

「今日中に下山が出来なければ野宿でしょうね。」

「うーそうかもしれないけどなんでそうはっきり言うのよ。」

「だってシータ平地でしか空間接続出来ないでしょ。」

「うっ。」

 美野里みのりは黙り込んだ。


「なんだ空間接続って?」

 克也かつやは兵士を背負うと歩き出した。

「空間接続は離れている次元の空間を繋いですぐ近くに繋げる魔法よ。」

「つまり?」

 克也かつやは先頭を歩きながら後ろをついて来たシェルに先を促した。

「昨日使ったシータの異世界部屋を覚えてる。」

「ああ、あれか!でもなんで繋げられないんだ?」

 克也かつやは危なげない足取りでさらに先に進む。

「なんでって・・・建物は平たんな所で建てるものでしょ。それをどうやって斜面に建てればいいか想像出来ないのよ。」

「よくわかんないけどなんで斜面じゃないとダメなんだ?例えば山ならこう地下鉄のトンネルみたいなのを想像したらどうだ。」

「地下・・・トンネル・・・。」

 美野里みのり克也かつやに言われたことを考えてみた。

 そう言えば空間接続の魔法を使うときは無意識では出来ないので実際の地形を見てからそこに建物を構築するという感覚で魔法を創っていった。

 でも魔法は実際にそうしないと発動しないわけではない。

 魔法の基本は想像だとよく師匠であるブラッドリイには口を酸っぱくして言われていた。


「シータ、シータ、シータ!」

 美野里みのりはシェルの声にハッとして立ち止まって後ろを振り向いた。

「ちょっと注意散漫よ。辺りを見て頂戴。大分空が暗くなって来たしこの辺に防御魔法を張って一旦野営しましょう。真っ暗になったらさすがに魔獣を探知しながらの野営準備は無理があるわ。」

 美野里みのりはシェルの説明をよく聞いていなかった。

「もうシータ。聞いてるの!」

 美野里みのりはさっき克也かつやがくれたヒントならここでも空間接続の魔法が使えるような気がしてきた。

「シェル。」

「何よ。今は防御魔法を展開中なんだからちょっと待って。」

 美野里みのりは忙しそうなシェルを見て今度は兵士を地面に降ろして一休みしている克也かつやに近づくとしばらくの間、周囲の魔獣探査を変わってくれる様に頼んだ。

「別にそれはいいけどどうかしたのシータ。体調不良?」

 美野里みのりは魔獣探査を代わってくれるというのを聞いた瞬間に意識を魔法構築にかえていた。

 まずは地下街をイメージした。

 そうよく都内に行った時に見たあの景色・・・。

 そして山の中を通るトンネルを走り抜ける電車を想像した。

 斜面なんて地下には関係ないのよ。

 なら空間接続はどんなところでも可能なはず!

 美野里みのりは広々とした山の中に広がる大きな空間とそこに続くトンネルを想像した。

 彼女の中で異世界の部屋と目の前の地面が繋がった。

 パッアー!

 眩い光が走り地面に引き戸が現れた。

「ちょっ・・・ちょっと・・・どういうこと。」

 周囲に魔獣避けの防御魔法を展開し終えたシェルが光を発した後地面に現れた引き戸に驚愕した。

「なんだ。これって昨日泊まったシータの異世界部屋の引き戸じゃないか。出来ないって言ってたのは謙遜だったんじゃないか。」

 克也かつやはそういうと躊躇なく引き戸を開いてそこに飛び込んだ。

 慌てたのは美野里みのりだった。

 空間接続が上手くいった感触で呆けているうちにまだ確認もしていない空間に彼が入ってしまったからだ。

 慌てて開いている引き戸の中を除く。

 そこは縦のトンネルが普通の人の身長より少し高くなっていてその先に横のトンネルがあってさらにその先にもう一つ同じような引き戸があった。

 すでに克也かつやはトンネルを降り通路の先にあるその引き戸の前にいてそれを開いていた。

「おお、凄いな。昨日と同じじゃん。」

 克也かつやは開いた引き戸の中に入って行ってしまった。

 美野里みのりも慌てて開いた引き戸に続く縦のトンネルを降りて横に続くトンネルを駆け抜けると彼が開いた引き戸の中を除いた。

 そこには昨晩と変わらない異世界の実家が再現されていた。

 どうやら空間接続に成功したようだ。

 ホッとして玄関で靴を脱いでいると盛大に文句を垂れながら兵士を抱えたシェルが入って来た。

 入って来た途端文句の嵐が巻き起こった。

「ちょっと二人とも何で先に行くわけ信じられない。それになんで私がこの兵士を担いでこなきゃならないのよショウ。」

「おっ悪い。ちょっと感動して忘れてたわ。それよりシェルが抱えられるんなら俺が背負う必要なかったんじゃないか?」

「はぁあ。何バカいってるわけ。魔術師が体力ある訳ないでしょ。」

「そんなの関係ない。平等に仕事はするべきだろう。」


 玄関先で睨み合いを始めた二人に美野里みのりが割って入った。

「二人ともやめて下さい。それより部屋に入って食事にでもしませんか?」

 美野里みのりの案に二人はここまでほとんど何も食べていないことを想い出した。

「そうね。確かにこの兵士の治療をするにしても先に食事にしましょう。ショウこの兵士をどこかに寝かせて頂戴。シータは食事の準備よ。」

「分かりました。」

「おう。」

 克也かつやはシェルが抱えている兵士を抱き上げると奥の部屋に運び込もうとして美野里みのりに止められた。

「なんだ?」

「先に洗浄魔法を掛けます。そのままでいてください。」

 克也かつやは頷くとそのまま兵士を抱き上げたまま突っ立っているとミントの香りがしていきなり泥だらけだったはずの兵士がきれいになっていた。

 それどころか克也かつや自身の泥もきれいになっていた。

「凄いなぁ。もしかして風呂いらない?」

「まあ確かにお風呂に入らなくても綺麗にはなっていますが気分的にはどうなんだろ?」

 美野里みのりの疑問符付きの呟きに克也かつやも確かに現実のお風呂の方が魅力的かと呟いた。


「あら、まだ二人ともそこにいたの。一緒に入るショウ?」

 二人の目の前にはいつの間に服を脱いだのか真っ裸のシェルが仁王立ちしていた。

「ちょっ・・・なんて恰好してるのよシェル。入るなら早く入って頂戴。」

「あらあら。真っ赤になっちゃって、もしかして処女なの?」

「当たり前でしょ。」

 怒った美野里みのりは叫び声をあげていた。

「まあ信じられない。成人してるのに処女なんて。貴族でもないんでしょ。でも良かったわねショウ。シータは処女ですって。」

 なんでか二人の会話を聞いているうちに兵士を抱き上げた状態のまま固まっていた克也かつやにシェルは話を振って来た。

「お・・・おれ・・・なんで・・・えっ俺が?」

「そうよ。ここは知り合いとしてちゃーんとシータの初めてのお相手をしなくっちゃ。」

「初めての相手・・・。」

 思わずベッドシーンを想像してしまいそうになっていると横にいた美野里みのりから殺気が飛んだ。

「シェル。それ以上何か言ったらこの空間から弾き出すから!」

「あらあら。じゃ後は宜しくショウ。」

 シェルはそれだけ言うとピシャッと引き戸を閉じてお風呂に入ってしまった。

 通路には真っ赤になって怒っている美野里みのりと兵士を抱きかかえた克也かつやが取り残された。

 美野里みのりは真っ赤になったまま通路の先にある部屋を指差した。

「おう、すぐに寝かせてくる。」

 克也かつやは慌てて兵士を抱き上げたまま通路の先にある部屋に向かった。

 それを確認した美野里みのりは羞恥心のあまり通路に蹲った。


 シェル、憶えていなさい。

 悪態を吐きながらも美野里みのりが復活するまでは暫く時間がかかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ