第六話
本日はこれにて終了です
明日からは一日一話12時頃投稿になります
よろしくお願いします!
偽物。何をもってして偽物と判断するのか。それは個々人の常識、知り得た情報を基に判断している。自分にとっては偽物でも、誰かにとっては本物であるかもしれない。
依頼を受領してから一日と少し。今現在私たちは、依頼の発行元であるソノマ村の小さな酒場で、昼食を食べながら話し合いをしていた。
「で? バラドはこの後どうする? あたしはとりあえず村長のところに行ってから森に入ろうと思うんだけど……」
と、こちらに訪ねてくるエルネス。
「これと言って決まった事柄はないが、依頼者のところには行っておかなければなるまいな。そこまでは同行を許してやろう」
そう言いながら目の前にある【ツムガリの丸焼き】を次々に口に運んでいく(ツムガリとは鶏の品種の一つらしく、この村の特産物である。ユルダが言っていた)。
「よし、そうと決まればさっさと村長のところへ向かうとしよう」
料理の代金を置いて、さっさと酒場を出る。もちろん、エルネスの分は出していない。
「え、ちょ、待ってってばぁ~! え? 料金? ここにあるのだけだと足りない? バラド、あんたあたしの分も出しときなさいよ!」
「知らん。私に人の分を払う余裕はない。王国騎士なのだろう? 皆が憧れる高給取りがみみっちいことを言うものではない」
「ここか……」
「結構普通なのね」
村長の家は私たちのいた酒場から対して距離はなく歩いて数分の場所にあった。言われなければここが村長の家とは分からないだろう。
「すまない、この村の村長は在宅だろうか?」
家の前を箒で掃いていた使用人風の女性に声をかける。
「え? あ、はい~。村長~、お客様です~」
「……その間延びした言い方はどうにかならんかのう、ルフ」
そう言って村長宅から出てきたのは腰の曲がった白髪の老人だ。性別は声からでは判断しかねる。
「それで、お客さんはどちらに……」
「村長、目の前におられますよ~、ほら」
「あなたが村長か。私はレンダーギルド・テック支部より貴方からの依頼を完遂するためにやってきた、バラドと言う」
村長は私を見上げると、眉毛に隠れていた目を見開いていった。
「お前さん、ルフの婿にならんか?」
「ちょ、そん、おじいちゃん!?」
村長らしき老人の頭を、ルフと呼ばれた女性が持っていた箒ではたく。
「あいにくと婿に行く予定も、嫁を取る予定もない」
「なるほどのぅ。もったいないのぅ」
「……ねぇ、バラド。あたしも挨拶しときたいんだけど?」
「……勝手にしろ」
私の後ろにいたエルネスが村長をその目に映そうと体を右側に傾けた。
「あ、村長さん。あたしはエルネス・バーン。王国騎士団第6隊副隊長です。王国からの依頼でこの村の周辺と国境付近の森、それと国境の調査にやってきました。ご協力をお願いします」
そのままぺこりと頭を下げるエルネス。というよりもこいつ副隊長だったのか。知らなかった。
「お、王国騎士団って、あの!? すごいよ、おじいちゃん!」
「そうさな。王国騎士団、それはまたお偉い方が、こんな辺鄙な村まで……」
「ええ、王国も今回の件を重く見ているのです。それと先日の事件との関連も見ています」
「先日の事件というと、国境の事件のことですかな?」
なんとなく話が長くなりそうな予感がしたので、扉に手をかける。
「その話に私はいらないだろう。私は魔獣に遭遇した村人を見てくるとしよう」
「あ、バラド。あたしも話聞きたいから一緒に行くよ! それでは村長、また来ます」
エルネスは話を続けず、律儀にお辞儀までしてついてきた。
「挨拶も無しに出るのは失礼じゃないかな?」
「私は世間話をしに来たのではないのだ」
「そうだけど……」
「言っただろう? 私は早く帰りたいのだよ。それではここからは別行動だ」
「ちょっ、もう!」
不満そうにジト目でこちらをにらんでくる。ユルダもよくこうしてにらんでくるがよく分からん。
被害者の家は村長の家からさほど遠くない距離にあった。
被害者であるタカミの話によると、魔獣はお互いがお互いを攻撃していたらしい。その証言から、依頼書に書いていた大きな体躯の赤い熊――これはおそらく、鬼怒熊だろう。しかし、巨大な紫色の蛇――こちらがよく分からない。紫色の蛇の魔獣は存在している。確か名前は、毒玉蛇だったはずだ。
しかし、タカミの説明に出てきた蛇の大きさは、熊と同じかそれ以上だったそうだ。
その大きさの毒玉蛇は見たことも聞いたこともない。確実に突然変異種、もしくはその類いのものだ。仮に毒王蛇としておこう。
熊は基本的に爪での攻撃のみだそうだ。こちらは現在確認されているものとさして変わらない。
毒王蛇は元々の毒玉蛇の生態から考えて、腹付近にある毒玉を破壊することが先決だろう。
「っと、ここが国境の森か……」
「ああ、あなたがバラドさんですね? ギルドから連絡は貰っております。一応確認のためにギルド証をお見せください」
この後のことを考えていると、気付いたら国境の森の前まで歩いてきていたようだ。
森の入口には、国から派遣されているであろう衛兵の男が私に話しかけてきた。
「ああ、これでいいか? 今この森の中に誰か入っているのか?」
「……はい確認しました。えっと、今は、……誰もいませんね。それがどうかしましたか?」
何かのリストを確認してから返事をする衛兵くん。まじめで何よりだ。
「誰もいないなら好都合だ。君、私が出てくるまで絶対に誰もこの森に入れるんじゃないぞ? 入ったら死ぬと思え、くらいなら言っても構わん」
その言葉を残して森の中へと進む。
「さて、目標以外に何がいるのやら……。魔族か、はたまた皇国軍か、それとも予想だにしない輩か。まあ、何が来ようとも、私の前ではすべてが無力だがな」