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8話 運命の出会い!?

第一の門が開かれ、広大な敷地の中をフォーガス伯爵家の紋章をつけた馬車が走る。


今日は王家主催の舞踏会だ。今までは、婚約者であるロバートがパートナーであったが、もうそういう訳にはいかない。

未婚であり、婚約者もいない私は、身内であるお兄様にパートナーをお願いするしかなかった。


大好きなお兄様がパートナーになってくれるのは嬉しいが、ダンスの時に必ずというほど足を踏まれる為、足が腫れることは避けようのないことだ。


『踏まれないようにするにはどうすればいいでしょう』と思案していると、お兄様が「今日はターシャに運命の出会いはあるかな~」とのほほんと訊いてくる。


「そうですわね。運命の出会いがあるといいですけど・・・」


運命の出会いは結構な頻度で存在する。

運命の出会いという名の計画的な出会いではあるが。

親の決めた相手と知らないふりをして、舞踏会でダンスを踊り、翌日に「一目惚れをした、運命の出会いだ」という手紙が届くというのは、お約束の展開である。


今日はニコラス王子、レオナルド様のおふたりと挨拶を交わすだろう。

ニコラス王子と挨拶するとなると、また、オリビア様に絡まれることになる。

前回たいした絡まれ方はしなかったが、彼女の意図がいまいちつかめていない為、「厄介なことにならなければいいのですけど」と愚痴がこぼれてしまう。


宮殿に到着し、馬車の扉が開く。

「ターシャなら、大丈夫だよ~」と手を差し出してくれるお兄様の笑顔に、『お兄様にかっこ悪いところは見せられませんわね』と気合を入れた。


巨大にそびえる扉をくぐると、軽やかな音楽が聞こえてくる。

会場内に入ると、女性たちの華やかで色とりどりの衣装に、今度は感嘆の溜息が漏れた。


「素敵ですわね」


「そうかな?僕は極彩色の洪水におぼれそうだよ」


今度はお兄様の方がげんなりしている様子に笑いがもれた。


「お兄様なら、大丈夫ですわ。おぼれたら私が助けてあげますから」


元気を出してもらおうと言った私の言葉に、「あはは、やっぱりターシャはかっこいいね」と笑い返してくれる。

お互いクスクスと笑いあっていると、舞踏会の始まりの合図が聞こえた。


王家の登場を告げる声に、ざわざわとしていた会場がしんと静まり返る。


会場の中央に面した階段から陛下と王妃様に続き、第一王子ニコラス様と本日社交界デビューをする第二王子のディーン様が降りてくる。登場と共に、大きな歓声と拍手があがった。


ニコラス様は王妃様似の白に近いプラチナブロンドの髪を束ね、周囲に和やかな笑顔を振りまき、ディーン様は陛下似の漆黒の短髪に鋭い表情と対照的だ。


陛下の「楽しんでいってくれ」という簡単な挨拶の後、ディーン様を含め、デビュタントの少年、少女たちが初めてのダンスを披露している。


可愛らしいダンスにほっこりしていると、いよいよお兄様と踊ることになった。

とりあえずは、最後まで踊り切ることが目標だ。どんなに痛くても顔に出してはいけない。

『痛みに耐えるのよ、アナスタシア!』と自分を鼓舞しながらダンスに臨む。




結果として、痛みに耐え、顔にも態度にも出さなかったと思う。

態度に出さなかったが、その分かばうことができなかった右足が痛みにうずいている。


「大丈夫~?休む?」と心配そうなお兄様に、「大丈夫ですわ」と強がってみるも、他の方にダンスを誘われても踊れる自信はない。

少しでも足を休めようと、お兄様に「少し外で休んできます」と伝え、テラスに向かった。



テラスに出ると、会場の熱気が嘘のように涼しげで穏やかな風が吹いている。


『確か、庭園にベンチがあったはずだわ』と誰もいないことを確認して、足を引きずりながら木々の小道を歩いていく。


少し進むと、舞踏会会場のむせ返るような香水の香りと違った、バラのさわやかな香りが届いてきた。

この小道を抜けると、広い噴水の前にはベンチがあるはずだ。


誰もいない油断していたところで、突然後ろから「お嬢さん」と声を掛けられた。


びっくりして振り返ると、そこには長い赤髪を後ろに束ね騎士の制服を着た小さな女の子が立っていた。

私の胸元くらいまでしかない小さな女の子は、戸惑って固まっている私の近くに、ゆっくりと歩いてきて「てっきり妖精さんかと思ったよ」と私の手をとった。


『キャー何が起こってますの!?』と内心パニックになりながら、彼女が小さな女の子ではなく、自分より年上の小柄な女性だと気づく。


「ジュリア様!」


思わず、彼女の名前を呼んだ私に、「おや、私のことを知っているのかい?」と花がほころぶような可愛らしい笑顔で答えてくれた。


興奮して声がうわずってしまいそうになりながらも「存じ上げております」と言う事が出来た。


この国にいて「紅の舞姫ジュリア」を知らないわけがない!

「王家主催の武道会では、小柄な体躯でありながら屈強な男たちをその剣技で倒し優勝した」という事だけではなく、「体長3mもあるオークを一人で倒した」とか、「隣国のお姫様に求婚された」とか、

その真相は謎だが、彼女の武勇伝は多岐にわたる。


「迷子になってしまったのかい?」


私の手を取りながら紳士的に話す彼女に、「隣国のお姫様に求婚された」という噂は本当かもしれないと感じた。


「いえ、少し涼もうと思いまして・・・」と濁す私に、彼女は少し困ったような顔をする。


「すまない。隠しているようだが、先ほど足を引きずっていたのを見てしまった。ケガをしているのだろう?この先にベンチがあるからそこで休もう」


彼女の申し出に、「ありがとうございます。ですが一人で・・・」と言いかけたところで、急に自分の身体が浮きあがった。ジュリア様に抱き上げられたのだ。

自分より身長が低い、しかも女性にお姫様抱っこされるとは思わなかった。


「恥ずかしいかもしれないが、すぐそこまでだから少し我慢して」


「はっはい!」


人生初めてのお姫様抱っこに、どうしていいかわからない。


夜会用のドレスを着て重量が増している私を軽々と運ぶ姿に、「オークを一人で倒した」という噂も本当かもしれないと感じた。

ありがとうございました。

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