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14話 奥義「姫落とし」

「……楽しそうですわね」


 この男ふざけているのかしら? 新手のギャグ? ツッコミを待っていたらどうしましょう? 真剣に悩んでしまう。


 「ちげーよ!! おまえが蹴ったところを癒してんだよ!」


 「…癒す? それでは、私の足もモモでよかったのではないですか!?」


 「モモが癒せるのは俺だけなんだよ。俺以外の奴には気を食うだけだ」


 モモが強面の顔を這いながら、患部を確認するようにペタペタと小さな手で触っている。

シュールな光景ではあるが、これはこれで可愛いかもしれない。

 思ったことが伝わったのかグレンにジロリと睨まれてしまった。……小さい子だったら確実に気絶していますわよ。


 「アナスタシアの傷を癒すなら、キスじゃなくて涙でも良かったんじゃないのか?」


 ジュリア様の言葉にハッとする。確かに足にキスするよりも涙の方がまだ恥ずかしくない。騎士の誓いのように手にされるならまだしも足である。ジュリア様に触れられるのでさえ、恥ずかしくて羽ばたいていたのに、よりによって足にキスするなんて……羽ばたきすぎて天に召されてしまうではないか!


「涙はダメだ」


きっぱりと言うグレンの声に、何か制約とかがあるのかしら? 涙の方が身体の負担が大きいとかなら無理は言えない……


 「泣いたら俺が恥ずかしいだろう!」


 「――――――――私はキスの方が恥ずかしいですわ!!」


 この男はきりっとした顔で何を言っているのだ!? 泣くのが恥ずかしいだと!? では、キスは恥ずかしくないの!? もしかして、慣れてますの!? 混乱した頭がぐるぐると答えを探しながらどこまでも進んでいく。


 「私は、よほど女性の足にキスする方が恥ずかしいと思うが?」


 冷静なジュリア様の言葉に、グレンはハッとした顔をして私を見た。目が合い、彼の表情がカチンと音が聞こえるほど固まったのがわかった。


 ―――――数秒……また数秒…どうしたのかしら? このひと気絶でもしたのかしら?


 「どうしまし…」


 声をかけたとたん、彼の顔が熱した鉄のように首から徐々に赤くなっていく。このひともしかして――――


 「おまえもしかして――――自分がどれだけ恥ずかしいことをしたかわかってなかったのか?」


 呆れるようなジュリア様の声に、彼は両手で顔を隠して頭を縦にぶんぶんと振っている。激しく動く度に、頭に移動したモモが必死にしがみついているのがわかる。

 「モモが可哀想だからもう止めてあげて」と言いたいところだが、彼からうつった熱で私も恥ずかしさがぶり返してきて、言葉を発することができない。平気な風なのもなんか嫌だが、そんなに恥ずかしがられたら、こちらも暴れたくなるほど恥ずかしいではないか!!!



 その時、ゴーンゴーンという鐘の音が響いた―――――――



 「こんな時間か…そろそろ会場に戻らないといけないね」


 彼女の言葉に、少しだけ外で休んでくるつもりが長い時間庭園に居たことに気づく。


 ジュリア様は私に近づき、そっと手を取り―――――


 「アナスタシア。君とここで出会えた幸運を神に感謝する。近いうちに我が家に招待したい。君の美しい瞳によく似たダリアの花を添えて手紙を出すよ。答えてくれるかい?」


 奥義「姫落とし」を使った。隣国の姫君をも夢中にさせたという彼女に、うなずかない女性なんているのだろうか?


 「はい喜んで…」


 彼女に見惚れるように呆然と返事をしながら、『どんな予定があったとしてもこの予定を最優先にさせますわ!』と胸に誓った。


 「それでは行こうか。―――――グレン、王子を起こして会場に来させろよ」


 「わかったよ…。……この王子へんたい、なんで寝てるんだ?」


 「…変態だからだろう?」


 「そうか」と納得している彼を措いて、彼女にエスコートされながら庭園を後にする。




 ジュリア様に付き添われ会場に戻ると――――会場の視線が一斉にこちらに向いた。彼女は老若男女問わず、大勢の方たちから人気がある。


 ざわざわとしている会場に『「悪役令嬢」と噂されている自分では彼女の隣に釣り合わない』そう思い、そっとエスコートしてくれる手を外す。


 そんな私の気持ちを知ってか、彼女は庭園で見せてくれた美しい笑顔をみせ…


 「君は私にとって、美しい「女神様」だよ」


 耳元にささやかれた言葉が心臓を貫き、膝に衝撃を与えた。「キャー! キャー! キャー!」頭の中で私が叫び続けている。せっかくグレンに治してもらったが、足どころか腰が抜けそうだ。

 ジュリア様は崩れ落ちそうになる私を支え、さりげなくソファーまで連れてってくれた。


 その後、お兄様が迎えに来てくれたり、ニコラス王子が会場に戻りダンスに誘われ踊ったり、レオナルド様が挨拶に来て踊ったり―――――したはずなのだが、ぼんやりとした意識がはっきりとしたのは帰りの馬車の中だった。

ありがとうございました。

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