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13話 初めてのキス!?

 それに――――と続けた彼の言葉に驚かされる。


 「あんた足ケガしてるだろう?」


 疑問形ではあるが確信を持っているようなグレンの言葉に、「なんで?」口が勝手に動いてしまった。ベンチから立ち上がっていないし、痛めた足はスカートの中に隠れている。後から来た彼にはジュリア様とのやり取りも聞かれていなかったはずだ。『会場で見られていたのかしら?』態度に出していない自信はあったが、自分の認識が甘かったのだろうか?


 「こいつが懐いたからな、足の方じっと見ているし…」


 こいつと出してきたモモの存在に首を傾げる。『なぜモモが関係ありますの?』今度は表情に出てしまったのだろう。


 「魔物の性質か、人の痛みや呪いとか負の感情が……好物なんだ」


 「こっ好物!?私食べられてしまいますの!?」


 出会った頃の話だと、「呪いの魔石を飲み込んでしまった」と言っていたから、私のことも丸呑みにしてしまうのかもしれない。可愛いと思っていた小さな生き物が急に恐ろしい魔物に見えてくる。そんな私の疑心と不安を彼らは笑い飛ばした。


 「モモの口ではさすがにあんた自身は食べられないよ。こいつが食うのはあんたの気だ。あんたの発している負の気をこいつは食べるんだ」


 「あはは。アナスタシアは可愛いね」


 ふたりに笑われた恥ずかしさで顔がほてっているのがわかる。恥ずかしくはあったが、『ジュリア様に可愛いって言われた!』と自分を励ますしかない。

 彼女はひとしきり笑った後、涙を拭きながら「やってくれるか?」とグレンに訊いている。


 「俺は構わないが、こいつは構うんじゃないか?」


 私の方を向いて言っているから、「こいつ」とは私のことだろう。なんのことだかわからず、ふたり顔を交互に見上げた。


 「なあ、あんたニコラスの婚約者候補なら、これからこいつと踊らなきゃいけないよな?」


 「はぁそうですわね。少なくともレオナルド様とも踊りますわね」


 「……踊れんの?」


 「気合で乗り切ろうと思っています」


 「この足で?」と指差す彼に、「気合は十分です」と拳を握りこんだ。お兄様にパートナーをお願いした時点で、当分歩けなくなるだろうという事は予想できていた。

 グレンはそんな私の顔をまじまじと見て深い溜息をつき、先ほどジュリア様がしたように私の前にひざまずいた。


 「……後で文句は言うなよ」



 言うが早いか、私の足を持ち上げ彼は――――――キスをした。



 足の甲に伝わる唇の柔らかい感触に、私の中に突風が押し寄せ、心臓の音が剣と剣で打ち合っているように身体中に響いた。「非常時ほど冷静になれ」先ほど彼が言っていた言葉が渦のように頭を流れるが……


 「―――――冷静になれるかぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」


 「ブフォアッ!?」


 グレンの手にある足を引き、彼のコメカミめがけて力いっぱいに蹴り上げた。突然の攻撃に、無防備だった彼は吹き飛び、地面に顔をつけぴくぴくと動いている。生きてはいるだろう。

 叫びに息を切らしながら、感触を消すように足の甲をごしごしと擦った。


 「足にキス!? なんで? 急に!?」パニックになりながらブツブツと呟いている私にのほほんとした声が届いた。


 「おおぉ~お見事!」

 

 王子の称賛の声と拍手に思わず睨みつけてしまう。先ほどまで膝を抱えて拗ねていたくせに、急に元気になったようだ。


 「素晴らしい蹴りだった。ちょっと僕の頭を踏んでくれな――――」


 「死ね変態!!」


 言い終わる前にジュリア様の上段後ろ廻し蹴りが王子の腹めがけて繰り出され、王子が吹き飛んでいくのが見えた。突然のできごとにポカンとしたが、その素晴らしい蹴りに思わず立ち上がり拍手を送った。


 「足はもう痛くないだろう?」


 ジュリア様の言葉に、ハッとなり自分の足の甲を見ると靴底の痕が綺麗に消えていた。痛めた状態なら、グレンを蹴り上げる事や簡単に立ち上がることはできなかっただろう。


 「モモといる時限定だが、グレンには治癒魔法が使えるんだよ。彼の涙や唇に触れると傷が治る。しかし、その反動で彼自身は動けなくなってしまう。…君のケガは骨に異常はなかったからきっとすぐに動けるようになるさ」


 「気にするな」と言ってくれるジュリア様にうなずくことはできなかった。やり方はどうであれ、自分を救ってくれた恩人に顔面を蹴り上げるというひどい仕打ちをしてしまったのだ。

 「ごめんなさい…」うなだれる私の肩にジュリア様はそっと手を置いた。


 「いやアナスタシアは悪くない。こちらが説明もなしに驚かせてしまった。本当にすまない」


 深々と頭を下げるジュリア様に慌てる。

 「いえ私が!」「いやこちらが」お互いに謝り合っている姿が、可笑しくなってり、クスクスと笑いだしたのは同時だった。私たちはお互いの手をとり笑いあった。


 「楽しそうだな」不満そうな言葉に、彼が目を覚ましたことを知る。


 『彼にもきちんとお礼とお詫びをしなくては』と彼に向き直ると――――――――顔面にモモンガが張り付いていた。


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