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12話 熊との闘い

最後の方にやっと主人公が登場します。

 背筋に悪寒が走り、反射的にその場から飛び退いた。気が付いたのは二人同時だった。


 目の前に2メートルを優に超える巨大な熊が現れたのだ。


 危険を察知し飛び退かなければ、一撃でやられていただろう。通常の状態ならば近づく前に気配に気づき、対処することも可能だった。

 しかし、俺たちは一週間のサバイバル生活で疲弊しきっていて、気配どころか目の前に現れるまで存在に気がつけなかった。こちらの分が悪い。


 逃げる方法を考えなければと、熊から目を離した瞬間。


 「グレン!」


 鋭い声の後、彼女は俺を突き飛ばした。

 尻餅をついた状態で顔を上げるとそこには、赤く染まった彼女が倒れていた。


 「うわああああああああぁ」


 「非常時こそ冷静になれ」と父からいつも言われていた。「わかった」と返していたはずなのに、冷静になることなんてできなかった。

 俺は叫びながら腰のナイフをつかみ、熊の正面に立った。ジュリアを死なせるわけにいかない。


 熊の咆哮が響く。やつは血の匂いで興奮しているのだろう。ビリビリと伝わる迫力にナイフを持つ手が震える。


 一瞬だ。襲い掛かってくる瞬間、これを逃せば俺たちに勝機はない。自分の鼓動がうるさく耳に響く。


 数時間にも感じられるほどのにらみ合いが続き、やつはついに突進してきた。



 「うおおおおおおおおおぉー―――」



 俺の叫びに怯んだ一瞬の隙をつき、やつの口の中にナイフをねじ込んだ。

 どさりと重い音が鳴り、やつが倒れたのを確認した。終わったのだ。


 『ジュリアの所に行かなくては』頭ではわかっていても体は思うように動いてくれない。

 ナイフを持っていた右腕は、やつの歯で切り裂かれていた。痛みに耐えながら彼女の元に向かう。


 「おい起きろ! あいつは倒したぞ。起きろよジュリア」


 近づいた彼女は、真っ青な顔で動かなかった。『死』という言葉が頭をよぎり、声が震える。


「なんでだよ! なんで俺をかばったんだよ! おまえなら一人で逃げられただろう」


 彼女ならケガをすることなく、逃げきることができたはずだ。俺が彼女の足を引っ張らなければ…

悲しみとも怒りともつかぬ感情が体の中をうずまき、涙として流れていく…



 その時、頭上から「もきゅっ」という声が聞こえた。上を見ると先ほどのモモンガが飛んできて―――――顔面にぶつかった。顔からぼとりと落ちたモモンガと目が合う。

 

 すると突然―――――――――モモンガの身体が光を放った。


 光は俺とジュリアを覆い、温かく優しい何かに包まれていく感触がある。数秒だっただろう。強い光が消え眼を開けると、腕に感じていた鋭い痛みがなくなっていた。

 呆然と手を握っていると、「大丈夫か?」という彼女の声が聞こえた。先ほどまでの青い顔が嘘のように、いつもの彼女がそこにいた。助かったのだ。彼女は死ななかった。

 ほっとした瞬間、目の前が暗くなりそのまま意識を手放してしまった。



 目覚めたのは白い天井の下、ベッドの中だった。


 親父から聞いた話だと、あの後すぐに助けが来て俺たち二人とも救助されたそうだ。モモンガが飲み込んだ呪いの石が効果を発揮し、親父のところに救助の信号が届いていた。俺たちに傷はなかったが、俺だけ1ヵ月ほど意識が戻らなかった。

 すでにオリビアの誕生会は終わっていたが、仕留めた熊は誰よりも大きかったそうだ。


「あの生き物は、あの光はいったい何だったんだ…」


 呟く俺の言葉に、「もきゅっ」と答える声があった。


 「……!?」


 声の方を向くと、開いた扉の前にジュリアが立っていた。その肩から何かが飛んできて――――――俺の顔面にぶつかった。顔からぼとりと落ちたモモンガと目が合う。


 「こいつの名前はモモというそうだ」


 「モモ?」


 「ああ、森で生まれた魔物らしい」


 「まっ魔物!?この小さいのが?」


 俺たちが入った山には魔物が入り込むことも住むこともできないと言われている。だから野生動物には気を付けていても、魔物や魔獣は警戒していなかった。


 「魔導士長が言うには、こいつは特殊な存在だそうだよ。おまえにくっつき回復を助けているらしい」


 こいつが魔物?手の中の小さな生き物をまじまじと見る。回復を助けてくれているという事はあの光も夢ではなかったのだろう。こいつがいなければ俺たちは死んでいた。


 「ありがとう。モモ」


 頭を下げる俺に、「どういたしまして」というように小さな手でぽんぽんと二回俺の指を叩いた。


 それからこいつはずっと俺と一緒にいる。足手まといになった悔しさにきびしい訓練や修養を積んでいるときも。王立騎士団に入団してからも…


* * *


 「別にペットとして飼っているわけではない。こいつが何を気に入ってか、俺の傍に居るということだけだ」


 モモの頭をなでているグレンの姿は、親子の様であり、恋人同士の様でもあった。お互いに思いあっている様子にほのぼのとした感動が心に広がる。


 「なぜ私にこの話を聞かせてくださったの?」


 「あんた王子の婚約者候補だろう? 婚約者の近くに得体のしれない奴がいたら嫌だと思ってな」


 決まりが悪そうに頭を掻き歯を見せて笑う顔は、強面のはずなのにジュリア様とすこし似ていた。




ありがとうございました。

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