表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/34

三話目~一日目終了~

「クソっ! 出せよ、ちくしょう!」

 俺は保健室のドアを開けようとしたが、ドアはまるで外からカギがかけられているかのようにビクともしない。蹴破ろうとしてもその分の衝撃が足に伝わってくるだけだった。

「孝臣。少しは落ち着いたらどうだい?」

「他人事みたいに言ってんじゃねえぞ! 元はと言えばてめえらのせいだろうが!」

 俺はアスモデウスのもとまでより、その胸ぐらを掴みあげた。けれど彼女は臆することなく、どころか強いまなざしを持って言う。

「ああ、そうだ。だからこそ、私はこれを終わらせたいと思っている。だが、今君がここで騒いでどうなる? それに、君はさっきの憶測を述べたが、確定ということではないのだろう?」

「それは……でも!」

「気持ちはわかる。でも、私たちにできることは現状を嘆くことじゃなくこれからどうするかではないのかい?」

 悔しいが、正論だ。だからこそ、むかっ腹が立つ。

 こいつは俺よりもよっぽど冷静にこのゲームを見据えている。だが、それは冷淡とも取れる考えだ。

 大方、死んでも生き返らせればいい、とでも思っているのだろう。そういう問題ではないのに。

 人が死んだのだ。例え生き返らせることは可能だとしても、冷静でいられる方がおかしい。やはりこいつは紛う事なき悪魔だ。

 俺はアスモデウスを突き飛ばしつつ、近くの壁に背中を預けた。すると、彼女は近くの椅子に腰かけながらゆっくりと語りだす。

「最初にも言ったが、私はこの戦いには反対だ。その上、君以外の誰か……仮にあのマモンのチームが生き残ったとしよう。果たして、死んだ人間を生き返らせると思うかね?」

「思わねえな……少なくとも、あいつらはそんなことはしない」

「そう。その通りだ。他のメンツも断言はできないがそういった考えを持つ者は少数だろう。だとすれば、やはり君が。君こそが勝ち残らなければいけないのだ。私はそのためならどんな助力も惜しまない」

 俺は舌打ちを返しつつ、壁を殴りつけた。走る痛み。俺はそれを感じながらも問いを投げかけた。

「アスモデウス。お前、本当に力を貸してくれるのか?」

 返されるのは首肯。彼女はしっかりと答えた。

「もちろんさ。私は悪魔だが、嘘はつかないよ」

「……なら、ひとつ教えてくれ」

「何だい?」

「お前ら悪魔を打ち倒す方法はあるのか?」

 それはマモンたちと遭遇した時から感じていることだった。

 悪魔の能力は強力だ。それが勝利のカギになるのは間違いない。しかし、もし悪魔を打ち倒すことができれば残るは能力を持たない人間。武器はあれども基本スペックにそこまでの差異はないだろう。

 アスモデウスはしばし無言であごに手を置いていたが、やがて諦めたように口を開いた。

「本当なら教えたくないんだけどね。あるよ。一応ね」

 言いつつアスモデウスは自分の心臓部分に手を置いた。

「悪魔を殺すには、一つだけ方法がある。君たち人間が持っているような心臓や肺などは私たち悪魔も持っているのだが、一つだけ。悪魔固有のものがある」

 彼女はニッと唇を不敵に歪めた。

「『悪魔の心臓』さ。これはね、普通の心臓とは違う。これがあることによって能力が使えたり、それぞれの権能が使用できる。いわば、悪魔が悪魔たりうるために必要な臓器ということさ。つまるところ、これを破壊されれば悪魔は悪魔でなくなるのさ」

「それはどこにある?」

「それが厄介なんだ。この悪魔の心臓は普段は私たちの体にはない。けれど、本物の心臓が破壊された時だけ、回復するまでの緊急措置としてこれが心臓の位置に現れる。だから、孝臣。君はそこを叩け」

「簡単に言ってくれるな……実際二回殺すのと手間はほぼ同じじゃねえか」

 それを聞くとアスモデウスは苦笑を浮かべてギッと椅子の背にもたれかかった。

「まぁね。しかも、三十分以内に悪魔の心臓を破壊しないと本来の心臓が再生する。実際のところ悪魔を殺すよりも本来の目的である人間を先に殺した方が手っ取り早いということさ」

「そうか……あくまでも俺たちが戦い合わなくちゃいけないってわけだな。ああ、クソったれだ」

 だからこその、人間を使っての代理戦争か。なるほど。やはり悪魔どもは伝承通り腐っているようだ。

 と、そこで俺は一つため息を吐き、アスモデウスの方を向いた。

「なぁ、そう言えばお前の能力。ありゃ何だ?」

「ああ、あれかい? 私の能力は幻覚。いつの時代も色欲は人を惑わせるからね。いい能力だろう?」

「いいから肝心なとこだけ話せ」

「……そうだね。まず、私の能力は対象に幻覚を見せる。相手は私の目を見るか、手を打ちあわせた音を聞くだけで強制的に引き込まれる。ただし、対象の精神力によってその効果はまちまちだ。精神力が弱いものならそれこそ死ぬまで幻覚に囚われるが、強いものはそもそもかからない可能性の方が高い。有能だが、万能じゃないのさ」

 いや、だが攪乱としては十分だ。緊急時にも役立つ。最悪逃走の時の時間稼ぎにでもなればいい。

 問題は、俺が戦わなければいけないということだ。

 マモンのように直接的攻撃力を有するのであればとどめだけ俺がさす方針にしたかったのだが、そうはいかないらしい。俺は自分の両手を見つめながら目を細めた。

 果たして俺にやれるのか……?

 もちろん生き返らせるつもりだ。

 だが、もし俺が途中でやられたら?

 俺はただの人殺しになってしまう。

 じゃあ、最後まで逃げるか?

 無理だ。結局は戦わなくちゃいけない。

 少なくとも、俺は一人は確実に殺さなくてはいけないのだ。生き残るのであれば。

 胸糞悪いことを考えているな、と自分でもわかっている。気づけば俺は力なく笑っていた。

 もう始まってしまったのだから。

 この狂ったゲームは。

 そして、もう止まれないのだから。

 誰かが勝ち残るまで。

「……今日はもうないだろう。君も早く寝たまえ。流石に疲れただろう」

 アスモデウスの言葉を聞いてようやく俺の体が疲れという概念を思い出したらしい。どっと一気に疲れた感覚が襲いかかってくる。俺はふらつく足取りでベッドに向かい、ごろんと寝転んで天井を見上げた。

「ああ……クソ」

 俺は毒づきながら目を閉じる。

 これが全て夢だったらいいのに。

 そう思いながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ