最終話~課外活動~
それから一か月後、俺たちの生活には平穏が訪れていた。
けれど、あの戦いの記憶はしっかりと残っている。全てが元通りになったわけじゃない。
紫はしばらく登校拒否をしていたし、無蓋さんや龍さんはあれから一度も学校で見ていない。健吾もこの間ようやく学校に顔を出してきたばかりだ。
でも、あの選択が間違ったものだとは思っていない。
何故なら――
「孝臣」
ふと、隣から声がかけられる。俺はそちらに目をやりながら、ふっと口元を緩めた。
「何だよ、アスモ」
隣にいる彼女――アスモデウスはニッコリとほほ笑んだ。
「早く行こう。皆待っているよ」
「わかってるって。そう急かすなよ」
言いつつ、俺は近所の喫茶店に足を踏み入れた。そうしてぐるりと視線を巡らせ、すみにいた一団を見て笑みを浮かべる。
そこにいるのは、寧々さんとルシファー、そしてここなさんとベルフェゴール。彼女たちは皆すでに集まって談笑していた。
そう、あの戦い以後悪魔たちはよく俺たちの元を訪れるようになった。それ以降、こうやってたまに集まって一緒に話し合っている。
「おぉ、タカオミ。遅いではないか」
ルシファーが言うと、ここなさんが相槌を打った。
「全くだよ。こっちは眠いのに……」
「俺も俺も」
やっぱりこの二人は相変わらずだ。そんなことを思いながら、俺は寧々さんの横に腰掛ける。
「それにしても、いまだに信じられませんわ。私たちがこうやってまた会える日が来るなんて」
「そうだな。どこぞの誰かがおせっかいを焼いたせいだ」
ルシファーが何か言いたそうな視線でこちらを見てくるが、俺はそれを鼻で笑った。
「別にいいだろ、俺が勝者だったんだから」
「よく言いますわ。ギリギリだったくせに」
寧々さんの言葉で笑いが起きる。まぁ、その通りだ。俺はここにいるみんなの力がなければ勝てなかったのだから。
「まぁ、私が本気を出せば一瞬だがな」
「いやいや、俺だって負けねえぜ?」
ルシファーとベルフェゴールは互いに顔を見合わせて火花を散らす。
と、そこでアスモが口を開いた。
「じゃあ、今度は別のゲームで決着を……」
『やめろ!』
ベルフェゴールとルシファーだけでなく、その場にいた全員が叫んだ。
それから数秒後、俺たちは互いに顔を見合わせて笑い合う。
この光景だけを見れば、誰も俺たちが命を懸けて殺しあった仲だとは思わないだろう。
そんなことを考えながら、俺は窓の外を見やる。
悪魔の寿命は永遠に近いが、人間は違う。きっとこいつらとは長い付き合いになるだろう。でも、いつまで一緒に入れるかわからない。
しかし……今はそれでいい。
今を楽しもう。
俺たちと悪魔たちの課外活動はまだまだ続いていく。
きっと、死んでも、続いていく。
そんな気がしたんだ。




