三十二話目~別れ~
目覚めるとそこは白い部屋だった。そこにいるのは、俺とアスモだけ。彼女の体にはサタンたちの戦闘において負った傷はどこにもなく、いたって平然としていた。
戸惑う俺に向かって、彼女は優しく微笑みかける。
「おめでとう、孝臣。君の勝利だ」
「本当か? やったな、アスモ」
「ああ、本当だ。本当に、よかったね、孝臣」
俺たちは互いに顔を見合わせて笑い合う。彼女は清々しい笑みを浮かべながら空を見上げた。
「私は君と出会えてよかったよ。決して長くはない時間だったけど、とても楽しかった」
「俺もだよ。お前と出会えて最高に楽しかった。できるなら、こんなゲームなんか関係なく、お前とは友達になりたかったな」
彼女は苦笑しつつ、俺の方に右手を伸ばしてきた。俺もそれに応じ、固い握手を交わす。
「孝臣。さぁ、君の願いを言ってくれ」
「ああ、俺の願いは、参加者全員を生き返らせること。ただし、記憶は残してくれ」
そこで、アスモはキョトンとした表情になった。
「いいのかい? 君たちにとっては嫌な記憶だったんじゃないのか?」
「まぁな。最悪だったよ。初めて人を殺したしな。でも、嫌なことばかりじゃなかった。お前や、ルシファーや、寧々さんや、ここなさん……色んな人たちと出会えたことは幸運だったと思うんだ。だから、残してくれ」
「……君らしいね。わかった、そうしよう」
言って、彼女はパチンと指を鳴らす。直後、アスモの手からいくつもの光の弾が出現し、それは天へと上り、弾けた。彼女はそれを見終えた後で、ほぅっとため息をつく。
「これで大丈夫だ」
「そうなのか?」
「ああ、安心したまえ……さて、そろそろ私も帰らなくてはいけないかもしれないね」
「待てよ、アスモ」
俺は彼女を呼びとめ、告げた。
「なぁ、また会えるかな?」
「会えるとも。だって、私たちは悪魔だよ? いつでもこっちに遊びに来るさ」
「ならさ、少しお願いがあるんだがいいか?」
「何だい?」
「出来るなら、今度、ルシファーやベルフェゴールたちも連れてきてくれ。あいつ等とも、もう一度会ってちゃんと話したいからさ」
アスモは微笑を浮かべながら、続けた。
「ああ、約束するよ。ただし、私からも条件がある。その時は、寧々やここなを呼んでくれ。私も彼女たちのことをもっと知りたいんだ」
いつも通り、少しだけ澄ましたような顔をして告げるアスモに俺は苦笑を返す。やっぱり、こいつも俺と同じ考えを持っていたか。
と、そこで彼女の体が不意に発光しだした。かと思うと、アスモはふっと微笑む。
「どうやら時間だね。ありがとう、孝臣。君と出会えて本当に幸せだった」
「俺もだぜ、アスモ。じゃあな……いや、違うな。また、な」
「ああ、また会おう。それと、孝臣」
「何だ?」
首を傾げる俺に向かって、アスモは満面の笑みを浮かべ、
「私は君のことが大好きだ」
それだけ言って、その場から消えた。
白い部屋も、徐々に消えつつある。おそらく、アスモが消えたからだろう。
俺は彼女がいたはずの場所を見つつ――
「俺も大好きだぜ、アスモ」
そっと目を閉じて、彼女への言葉を綴った。




