表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/34

二十八話目~決意~

 戦闘開始から一時間。状況は、最悪だった。

「カハッ! おいおい、どうしたルシファーよぉ!」

 サタンは、すでにルシファーの能力けんから脱出しており、果敢に攻撃を仕掛けている。怒りが持続する限り、彼の力は際限なく上がり続けるらしい。徐々にルシファーの顔に焦りが出てきていた。

 一方で、俺も目の前にいる龍さんに苦戦している。この人も俺より強い。単純な自力でも負けているし、嫉妬の能力というのがまた厄介だ。力が上がり続けるので、長期戦になるとマズイ。幸い、まだそこまで押されていないが、それも時間の問題だろう。

 俺は舌打ちしつつ、右腕を肥大化させ、拳を繰り出した。が、龍さんはそれをひらりと躱し、こちらへと駆けだしてくる。

「チッ!」

 身体強化の能力を咄嗟に発動させ、一気に跳躍する。この人も厄介だ。俺とタイプが似ているだけに、やり辛い。

 俺はある程度まで距離を取ったところで、誘引の能力を彼が持つバットに対して発動させる。けれど、それも無駄だ。龍さんはその力を逆に利用して突進してくる。

 間一髪で躱したが、俺の頭上をバットが通過していく。正直、背筋が凍る思いだ。

 せめて、後一人。誰かがいれば状況が変わったかもしれない。

 俺はすぐさま体勢を立て直し、身体強化を発動させ、彼の懐に潜り込む。だが、龍さんは怯むことなくバットを振り下ろしてきた。

 ガギン、と硬いもの同士がぶつかり合う音が響く。衝撃が体中を駆け巡り、俺の意識が飛びかける。

 が、ここで終わってなるものか。

 俺は逆の腕で拳を放ち、龍さんの腹部を殴りつける。嫌な手ごたえだ。肉がひしゃげて骨が折れる感覚。だというのに、

「ハハハハハッ! いいじゃねえか! もっとかかってこいよ!」

 龍さんは、一切怯む様子を見せなかった。どころか、さらに狂喜してこちらに向かってくる。

 ――もしかしたら、この人はこのゲームを楽しんでいた人間なのかもしれない。いや、きっとそうだ。タイプ的には、無蓋さんが近いと思う。龍さんは、暴れられる場所を求めていたのだ。だからこそ、ここは彼にとって最高の遊び場ということか。

「タカオミ! 伏せろ!」

 ルシファーの声が響く。直後、すさまじい勢いで風が吹き抜け、龍さんの体が吹き飛んだ。ろくに踏みとどまることもできなかった彼の体は屋上のフェンスを突き破り、外に投げ出される。

「おっと、あぶねえな!」

 サタンは毒づきながら、彼の方に向かっていった。その時、不意にルシファーが俺の体を抱きかかえる。

「いったん退くぞ。寧々はどこだ?」

「すぐ、連絡を」

 俺がスマホで連絡を取っている間に、ルシファーは開いた大穴から下に降りていく。それからしばらくしたところで、ようやく通話が繋がった。

「アスモか!?」

『孝臣? ということは、サタンは?』

「ダメだ。まだ生きている。とりあえず逃げてきたんだ。寧々さんは?」

『寧々は……』

 アスモの声は重く、鬱々としたものだった。やはり、芳しくないのだろう。

 俺はふと、時計に目をやる。

 終了時間まで、あと三時間。そこまで、持つかどうか……。

「タカオミ。代われ」

 不意にルシファーが声をかけてきた。俺はすぐさま頷き、彼にスマホを渡す。

 ルシファーは近くの教室に身を隠し、それからひっそりと告げた。

「アスモデウス。一つ提案がある……タカオミに、寧々を殺してもらいたい」

「なっ!?」

 驚く俺をよそに、ルシファーは告げた。

「わかっている。もう、手遅れなのだろう?」

『……はい』

「ならば、お前らに介錯を頼みたい。私が認めた、お前たちに」

「って、いいのかよ!? お前、寧々さんが死んで辛くないのかよ!」

「辛くないわけがないだろう!」

 ルシファーは俺に対して一喝し、それから続けた。

「だがな。もうわかるのだ。寧々は致命傷を負っている。このままでは、おそらくサタンたちが殺したということになるだろう。だからこそ、お前たちに頼みたい。最終的に殺したのがお前たちならば、その能力も引き継がれるだろうからな」

「でも……」

「よい。これは決定事項だ。異論は認めん」

 言って、彼は保健室がある場所まで飛んでいく。その時だった。

「ッハ―ッ!」

 不意に横の壁が弾け、そこからサタンたちがやってきたのは。彼らは好戦的な笑みを浮かべながら、こちらを見ている。

「おいおい、どこに行こうとしてんだよ!」

「もっと遊ぼうぜ! なぁ!?」

 ルシファーは眉根を寄せ、それから俺の体をそっと下ろした。

「タカオミ。一人で行け。ここは私に任せろ」

「なっ!? でも……」

「いいから行け!」

 彼はそこまで言ったところで、ふっと淡い笑みを浮かべた。

「最初、お前は馬鹿な奴だと思った。だが、徐々に馬鹿だが、いい奴だとわかった。私は、個人的にお前のことが気に入っていた……タカオミ。お前は、私の戦友だ。共に戦えて、光栄だった」

「俺もだよ……お前のことを最初は偉そうなやつだと思ったけど、それだけじゃなくていい奴だとわかった。俺も、お前と出会えてよかった」

「ハッハッハッ! 礼を言うぞ、タカオミ。ならば、行け!」

「ああ!」

 俺はすぐさま駆け出そうとした、がそれをサタンたちは許そうとしない。こちらへと一気に駆け寄ってきた。しかし、

「おおおおおおっ!」

 ルシファーの方向が轟くと同時、すさまじい圧力が彼らの方へと押し寄せ、その体を弾き飛ばした。俺はその様を横目に見ながら、保健室へと向かう。

 階段を一気におり、保健室のドアの前まで全速力で駆ける。上ではルシファーたちの戦闘による破砕音が響いていた。

 ――と、そこでようやく保健室が見えてくる。俺は全速力で駆け抜け、勢いよくドアを開けた。

「孝臣! ルシファーは?」

「あいつは、時間を稼いでくれている。大丈夫、まだ生きているよ」

 アスモが血相を変えて駆け寄ってくる。俺は彼女を押しのけてから、寧々さんが寝かされているベッドまで歩み寄った。そうしてドアを開けると、そこ歯すさまじい有様だった。

 寧々さんはすでに虫の息で、腹部に包帯を巻いている。が、そこも血で染まっていた。傍から見ても、手遅れだとわかる。おそらく、もう意識もないのだろう。今はただ、心臓が止まるのを待っている状態だ。

 俺は手甲を出現させ、その爪を寧々さんの胸に当てる。アスモはそれを見るなり、ハッと駆け寄ってきた。

「孝臣! 何をする!」

「ルシファーが言ってたんだ。寧々さんは、もう助からない。だから、俺にやってくれ、と」

「だが……だとしても、だ!」

「アスモ。お前も言っていただろう。いつかルシファーたちを殺さなければいけないって。それが今日来ただけだ。それに……もし、ここで寧々さんが死ねば、サタンたちに能力が引き継がれる。それは、寧々さんも望まないだろう」

「それはそうだが……」

「悪い、アスモ。俺はやるしかないんだよ……寧々さんも、これ以上苦しめたくない」

 アスモはグッと唇をかみしめ、それから手を打ち鳴らす。幻覚を発動させたのだろう。寧々さんは少しだけ安らかな表情になったようだ。

 俺は彼女に頭を下げ、それから彼女の胸に手を置いた。

「すいません、寧々さん」

 心臓を、貫き、

「俺が、あなたたちの思いは引き継ぎますから」

 決意を、述べた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ