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二十七話目~決戦前夜~

「大丈夫かい?」

 俺に怪訝なまなざしを寄越しながらアスモが問う。だが、それも当然だろう。

 先ほどの攻撃で、俺の体はボロボロだ。腕はあらぬ方向に曲がり、すでにまっすぐ立つことすらままならない。この状態では、戦線復帰は難しいだろう。

「残り時間はあと……一時間か。厳しいな」

 そうだ。しかし、サタンが襲ってくる可能性は低いだろう。今は、ルシファーと相対しているとここなさんは言っていた。あの人は、最後の最後まで場を引っ掻き回していった。

 正直、最初から本気を出していたならば、間違いなく上位に食い込むほどの実力者だっただろう。あの人は残存チームの中では最も優れた人間だった。思慮深くて、何より先を見越した戦いをしていた。

 そんな彼女の思いを引き継いだからこそ、俺は勝ち残らねばならない。

 ――が、今は厳しそうだ。とりあえず、ゲーム終了を待つとしよう。そうすれば本拠地に戻り、自動的に体は修復される。下手に動けば、それこそ終わりだ。

 俺は荒い息を吐きつつ、その場に座り込む。やはり内臓がやられていたか。激痛が走り、目の前がチカチカした。

「はぁ……クソ。ダメだ。いてぇ」

「孝臣。なら、私に任せてくれ」

 アスモは俺の目の前で手を打ちあわせる。刹那、俺の前に幻想的な風景が広がった。ここは、彼女が展開させた幻覚か。辺りには色とりどりのちょうちょが舞っている。

「私の能力の応用だ。幻覚による痛みの麻痺。こういった使い道もあるんだ」

「……すまない」

「いいんだ。それより、力を抜きたまえ」

 言いつつ、彼女は俺の目の前で手を振った。

 直後、一気に睡魔が押し寄せてきた。俺はそれに抗うことすらできず、目を閉じる。

 そして気づけば、俺は保健室のベッドに寝かされていた。

 身を起こせば、すでに治癒が終わっていたのか痛みも出血もない。腕の感覚も戻っている。これで、ひとまず安心だ。

「起きたかい?」

 アスモがコーヒーを持って俺の方へやってきた。何だか、このやり取りも慣れたものである。

 俺はコーヒーを受け取りつつ、口を開いた。

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「何だい?」

「ルシファーたちは、どうだった?」

 アスモはコクリと頷きを返す。

「もちろん。だが、やはりサタンは強くなってきているらしい。短期決戦だ。このままでは誰も彼らを止められなくなる」

「……やっぱり、あいつらの怒りとか、嫉妬は持続するのか?」

「そのようだ。ルシファーの口ぶりから察するにね」

 だったら、本当に早いうちに片付けなければ。

 しかし、方法はないわけではない。

 あいつらの怒りは、ゲームなどで言うヘイトと同じなのだろう。それは今、ルシファーたちに集中している。だとすれば、俺なら、俺たちならいけるかもしれない。

「で、アスモ。俺が受け継いだ能力は? 発表されただろ?」

「ああ、もちろんだ。君が受け継いだ能力は……『視力強化』だ」

「はぁ? それだけかよ」

 何ともしょぼすぎる能力だ。千里眼から、だいぶランクダウンしている。

 けれど、アスモは首を振った。

「単なる視力強化じゃない。暗視、透視、それらが可能になったということだ」

「つまり……先制が取れるかもしれないってことか?」

「そういうことだ。彼らも、こちらの姿が見れていなければ何もできない。そうして死角から回り込んで……叩く!」

「確かに、それが一番可能性が高いと思う。ルシファーたちの能力も合わされば、間違いなく効果的だろう」

 これで俺の能力は全部合わせて……四つか。身体能力強化、誘引、肥大化、そして視力強化。残っている面子では、最多だ。

 だとすれば、これをどう活用するかである。

 身体能力強化は言わずもがな、戦闘において必須のスキルだ。

 誘引は、前回のように対象の注意を引きつけることができる。

 肥大化は身体強化と相性がいい。これでパワーが一気に増大する。

 視力強化は……やってみるか。

 両目に意識を集中させ、前方の壁を見やる。すると、徐々に視界が霞んでいき、それからパァッと晴れ、壁の向こうが見えてきた。これは、存外使えるかもしれない。確かにこれなら一気に奇襲できる。

 しかし、まだ油断はできない。何故なら、サタンは力だけなら俺たちを軽く凌ぐからだ。だからこそ、知恵を絞らなければ。

 やはり、ここなさんがいればと思う。あの人が俺と同じ立場だったらもっとうまく立ち回れたかもしれない。

 俺は小さくため息をつきながら目を閉じる。やがて来る決戦に備えて、少しでも体を休めるために。


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