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二十三話目~乱入~

 翌朝、俺たちはルシファーと共にベルフェゴールの捜索に当たっていた。やはり昨日の影響が大きかったのか、図書室にはいなかった。その上、移動を続けているのか中々巡り会えない。

 だが、サタンとも会えないというのが厄介なところだった。彼らはこちらを狙ってくると思ったのだが、気配すら感じなかった。

 ちなみに今日の制限時間は四時間。いつもより少し長めだ。やはり闘いも佳境に入ってきたからか、制限時間を伸ばしてできるだけ潰しあえる状況を作りたいらしい。

 今はまだ四時間だが、この先半日、いやもしかしたら丸一日戦い続けるという特殊な状況が生まれるかもしれないとアスモが言っていた。

 基本的に、俺たちの能力では持久戦に向かない。これまでも何度かギリギリのところで戦闘を終えて事なきを得ている。もし半日となれば、その分だけ体力も消耗するし、相手にもよるがジリ貧だろう。

 そうならないために、早めにケリをつけたいというのが本音だった。が、やはり見つからない。

 次第に寧々さんが苛立ちを露わにしてきた。その様を見て、ルシファーが口を開く。

「寧々よ。落ち着け。急いては事をし損じるというだろう」

「でも、じれったくてなりませんわ。早く片を付けたいのに……」

 寧々さんは個人的に龍さんのことが気に入らないらしい。やはり最初の印象が悪かったせいか、それを引きずっているようだ。

 気持ちはわからないでもないが、少し焦り過ぎな気がする。寧々さんらしくもない。

 たぶん、もう終わりが見えてきたからこその焦りだと思う。彼女も早くこのゲームから脱出したいのだろう。

 俺は小さく肩を落とす。それは俺も同じ思いだが……ダメだ。頭に血が上った状態では、ろくな思考も働かない。それはルシファーも同意見だったようで、必死に彼女を宥めようとしていた。

「……今日はここらで引き揚げようか」

 アスモが時計を見ながら言う。すでに残り時間は一時間。サタンの実力から言って、その時間内で倒し切るのは難しいだろう。

 それに何より……あいつの能力は厄介だ。

 怒りによって力が増大する能力。それはつまり、ルシファーやアスモとは種類が全く違うものということであり、単発ではなく持続する可能性があるということだ。

 もし、彼が俺たちに対して怒りを覚えていたら。

 その怒りが、次のゲーム開始まで続いていたら。

 そして能力によって、それを全て力に変えられたら。

 想像するだけでゾッとする。最後にサタンが見せたあの凄まじいまでの執念は、目を見張るものがあった。奴は、相当に嫉妬深い。

 ……嫉妬?

 そうだ。忘れかけていたが奴は嫉妬を倒している。その能力についても考察を行わねばならない。

「なぁ、アスモ。嫉妬たちの能力ってわからないよな?」

「ああ、すまないが、それはわからない。第一、仮にわかったとしても人間に受け継がれるときにはそれが制限されたり規模が小さくなる。残念ながら、それはわからないね」

「むぅ……タカオミ。いい所を突くな。やはり貴様、これが終わったら正式に私の軍門に下らぬか?」

 ルシファーはニコリと笑みながら手を差し伸べてくれる。

 俺はそれに応じようとしたが、不意にアスモの言ったことが脳裏をよぎる。

 ――確かに、俺もいずれはこいつらと戦わねばならない。

 だが……今自覚した。俺はこいつらに好意を抱いている。

 できれば、戦いたくないというのが本音だ。

「タカオミ?」

 ふと、俺の様子を不審がったルシファーが首を傾げる。俺はハッとし、その握手に応じた。

「どうした? 何か気がかりなことでもあるのか?」

「……ちょっと」

「何だ。言ってみろ!」

「……仮に、もし俺たちとあなたたちが戦わなければならないとなったらどうするんです?」

「孝臣!」

 小声でアスモが俺を責めようとする。だが、俺は首を振ってそれからルシファーの目をしっかりと見据えた。

 彼は堂々と胸を張りながら、断ずる。

「決まっている。戦うに決まっているだろう」

「迷いは?」

「ない! 貴様らと一緒にいて一つ思ったことがある。確かにアスモデウスは私に比べれば非力だ。同時に、タカオミ。貴様もまだ幼く、青い。だが、その強さは私がよく知っている。貴様らは強い。だからこそ、全力でぶつかり合う。それが礼儀というものだ」

 ……そうか。こいつはやはり王としての度量と気概を持ちあわせているのだ。

 彼は再び愉快そうに笑いながら、続けた。

「確かに最初こそは貴様らは利用した後で捨てようとも思っていた。だが、理解したのだ。貴様らは真の戦士だ。だからこそ、こちらも礼儀を持ってぶつかり合いたくなった。貴様らはすでに私の友だと思っている。同盟や、家臣など関係なく、な」

「……ありがとう」

「何、礼を言うのはこちらだ。貴様らといて退屈したことはない。まぁ、少し詰めが甘いのが貴様らの悪いところだがな」

 腰に手を当てながら豪快に笑うルシファー。それから彼は近くの教室を指さした。

「さて、しばらく身を隠すとしよう。あと一時間は、下手に動くと危険だからな」

 そう言ってルシファーがドアに手をかけた直後だった。

「ルシファー!」

 寧々さんが声を荒げる。彼女は反対側の棟を指さしていた。

 そこには――ベルフェゴールとサタンの姿!

 ベルフェゴールは必死に逃げ回り、その後ろをサタンたちが追走している。

 それを見るなり、ルシファーは翼を展開させた。

「タカオミ! 貴様は寧々を頼むぞ!」

「ま、待ちなさいルシファー! 何で、行こうとしているんですの!?」

「決まっているだろう! ここでベルフェゴールを助ければ、恩を売れるかもしれん!」

 彼は一瞬俺たちにウインクを寄越し、

「それに何より、私がサタンを葬りたいからだ」

「……あぁ、もう! じゃあ、私も行きますわよ!」

「ならば、私たちも行こう。いいかい? 孝臣」

「もちろんだ。三対一なら、勝機もある」

 俺たちは互いに頷き合い、それからルシファーの背中に飛び乗って反対側の棟へと向かう。ルシファーはベルフェゴールに迫ろうとするサタン目がけて躊躇なく能力を発動した。その直撃を受けたサタンは容易に吹きとび、壁を突き破っていった。

 俺はちょうどサタンとベルフェゴールの中間地点に立ち、告げる。

「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……ありがとう」

「礼はいいですよ、ここなさん。それより、手を貸してくれませんか?」

「……わかった。私も加勢しよう」

 ここなさんとベルフェゴールが俺たちの隣に並ぶ。すでにサタンは体勢を整えつつあったが、こっちには数の有利がある。絶対的に優位にある。

 だというのに、何故だろう?

 俺は、一抹の不安を拭うことができなかった。


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