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それでも俺は哭き続ける  作者: しゃぶしゃぶ
二章 広樹/裕也
11/23

第八話 地獄への入り口

今回の書き方は少し特殊です。

個人的には嫌な書き方なので、大幅に訂正する可能性があります。

ご了承下さい。

 さて、唐突ではあるが、広樹が学校を親の仇のように嫌っている理由について語らせてもらおう。

 根拠として、主に二つある。実際は数え切れない程に嫌な出来事が広樹を襲ったのだが、この二つに敵う程のものではない。


 まず、一つ。

 学校の生徒の大半が、醜く、狡猾な生き物で構成されてあったからだ。

 海寄高校は、今の日本では珍しいようで珍しくもない典型的な権威主義で動いており、生徒は周囲からの面目を施そうと躍起になっている。時には教師の前で派手な事を起こして周囲の耳目を集めたり、また時には"周囲を落とせば自分が上がる"の要領で弱そうな生徒から徹底的に嬲ったり。十人十色、多種多様、千差万別のあらゆる方法で自身の体裁を保とうとする。

 さて、この"面目を施す"とは、具体的には何をすることを指すのか。


 周りから「気さくで明るく、何より面白い人」という評価を得る事。これ一つに限るのだ。

 浅山市は田舎と言うにも生温い程のド田舎。都会の方々には理解できないかもしれないが、田舎というのは面白ければ面白い程に評価が上がる。真面目で陰気臭くて、周囲と距離を置いて生活している奴に「寡黙の令息みたいで格好いい」という評価を下す頭がメルヘンチックな少女漫画のヒロインなど存在しないのだ。だから、少しでも面白い事をしようと、真剣な雰囲気なんて消し去ってしまおうとする。


 こんな者達にとって、「夢がある」なんて格好の餌である。

 今から将来の事なんて考えてんのか真面目かよ、せっかく遊んでやろうと思ったのになー残念だなー、馬鹿馬鹿しいな、どうせなれないなれない。ほんの一例だが、これは全て広樹の、広樹達プログラミング部に対する言葉である。広樹は、今まで面と向かって言われた言葉から、ひそひそと言われたのを小耳に挟んだだけの言葉まで一言一句余さず記憶している。それだけ、否定され続けてきたのだ。人の人生に口を挟める程偉くもない、夢の「ゆ」の字の欠片も無い輩に、夢の何たるかを語られたのだ。それは決まって同じだった。


 どうせ夢は夢、と。


 だが、これはあくまで一つだ。この一つだけであればまだ耐えれていただろう。自分の中で仕方ないと片付けられていたのだ。

 一つだけであれば。


 二つ目。これはある事件から起こったものだ。

 それは、広樹の制服の胸辺りで他とは違うと豪語するかのように光輝く、学級委員のバッジについてである。

 これについては、過去を話すのが一番納得がいってもらえるだろう。

 少し長い話となるが、ご清聴願いたい。


 広樹がどれだけ理不尽を背負って来たかを。

 広樹がどれだけ不甲斐なさを感じたかを。

 広樹がどれだけ学校を嫌いになったかを。









 ◆◆◆~一年前~◆◆◆


「うわ~、俺学級委員かよ…」


 俺はクラスの投票により、学級委員となった。他の委員会は挙手で立候補なのに学級委員だけはどうやら別枠のようで、俺はそれについて内心で抗議を重ねていた。

 この学校では、優秀な奴が学級委員をやる訳ではなく、適当に良さそうな人材の名前を投票用紙に記入して決める選挙方式なため、学級委員は貧乏クジによく例えられる。俺はその貧乏クジを引いてしまったのだ。


 何の気なしに、貧乏クジを引かされたもう一人の方を見る。学級委員は基本的に男女一人ずつなので、もう一人女子がなってしまっているのだ。


「ミツ~、学級委員やだ~!」

「うんうん、頑張ってね」


 姫城友雅(ひめじろゆうあ)。七美と同じくバレーボール部所属。クラスでの印象は可もなく不可もなくといった感じで、中立を保っている。ちなみに、姫城が読んでいた「ミツ」というのは、七美のことである。これといって特徴はないが、強いて挙げるなら眼鏡をかけている事くらいだろうか。


「あ、ひろちゃんもね」

「ん~? へいへい」


 まるで今思い出したかのように俺を励ます七美に少し思う所はあったが、適当に返事をする。


 ―――ここからが地獄だというのを知る由は、まだない。










 ◆◆◆


 学級委員の仕事は、ほぼ毎日あるといっても過言ではない。教室の鍵閉めをしたり、授業態度点検表を先生に記入してもらう為に東奔西走したり。有事には呼び出され、学校行事では、実行委員に必ずならなければならない。大変である。


 異変はここからだった。


「なあなあ、高崎」

「ん? 姫城か。どしたよ?」

「ちょっとアタシ急がないといけんから鍵閉め頼める?」

「えー…まあいいか」

「あんがと! じゃね!」


 そうして姫城は逃げるように走り去っていった。








 ◆◆◆


「今日も頼める? 高崎」

「また? めんどくせーな…そら、はよ行け」

「ありがとー!」


 優しさでそう言い伝えると、やはり姫城は逃げるように走り去っていった。


 何か、面倒臭いとは違う何かが俺の心を駆け巡った。








 ◆◆◆


 何かがおかしい。

 最近、ほぼ毎日のように姫城には用事があると言われる。


「今日もお願いねー!」

「あ! おい待て―――」


 とうとう礼も言わなくなった。

 あの時の何かが、大きくなった。

 








 ◆◆◆


「おい! 最近俺に任せすぎじゃねーか!? お前が仕事してるの見たことねーんだけど!?」

「えー、いーじゃん別に、いつもの事だし。もういっそお前一人でやればー? あっはははははー!!」

「てめぇっ、何様のつもり―――あ、おい! 待て―――――」


 その声は、届かない。

 また、大きくなった。








 ◆◆◆


「…」


 もう断りも入れない。

 姫城は、ケラケラと気色悪く笑いながら七美と次の授業の教室に移動している。


 気付いた。

 この感情は、憎悪だ。怒りだ。俺の気も知らず、それが当たり前だと思っている奴に対する、どうしようもない怨嗟(えんさ)の気持ちだ。


 何故だ。何故貧乏クジを俺だけが引いた事になっているんだ。何故今、俺は教室の鍵と授業態度点検表のどちらもを握りしめているんだ。


「ああああああっ!!!」


 俺はその声に憤懣(ふんまん)の念をたっぷりと乗せて叫び、自分の胸の学級委員だけがつけているバッジを煩雑に引きちぎって手に持っていた物諸共床に叩き付けた。このバッジが、今握っている物が、都合良く利用されている雑用の証なのだと思うだけで、いてもたってもいられなかった。


「ちくしょうっ、ちくしょう…!」


 俺は、この出来事が起こるまで、優しい性格だと自負できるくらいには優しい人格だった。頼まれたら断れない、本当にただのお人好しで。

 でも、そんな奴はこの廃れきった学校では利用されるで、こんな損な性格は救われないわけで!

 急激に自分の中から熱が引いていった。その熱が何かは分からない。


「…学級委員は、嫌だ」


 だが、俺の中の「何か」は消えたのだ。








 ◆◆◆


 そんな出来事から早数ヶ月。まだ少し肌寒く感じられる風が沢山の出会いを祝福する本日。

 遂に、学級委員からの解放の時である。


「今日から二年生か…」


 海寄高校では、始業式の日に殆どの項目は粗方決めてしまう。その中には、委員会決めも例に漏れず入っている。委員が決まるということは、前の委員会はこれでお役御免ということ。あの学年の代表という名誉ある皮を被った只の雑用という立場に、もう枕を濡らすことはないのだ。

 俺は浮かれながら学校への道程(みちのり)を進んだ。








 ◆◆◆


 何だか、体がふらふらする。足取りもどこか覚束ないのが自分でも判断できる。


「えー、であるからしまして…このようにー、清く正しい子に―――」


 周りから「校長何回同じこと言ってんの~?」「足疲れた~」という校長への罵詈雑言が発せられている。俺も無意識にそう思っているのだろうか、本当に目の前がぼや~っとし始める。


 あ、駄目だ、もう、無理―――

 俺は意識を手放した。








 ◆◆◆


「ん…?」

「あっ、起きた! 大丈夫!?」


 俺は真上にあった蛍光灯の眩しさに顰めっ面をしていると、横から七美の声が聞こえる。


「ここは…?」

「保健室だ。ひろちゃんが校長の長話の途中に急に倒れるもんだから、心配したぜ」


 ついでに晃雄の声も。あ、ついでじゃないか。


「そうか…」


 俺は項垂れた様子で息を吐く。保健室の独特の臭いが頭をつんと刺し、意識が明瞭になっていく。

 ふと、二人を見つめる。この面子なら来るはずの奴が居ないような気がして。


「ん? そういや京助は?」

「ああ、あいつなら用事で帰ったぜ」

「用事? ってことは今…」

「…うん、放課後だよ」


 放課後。その単語と先程からの七美の陰気臭い態度に少し嫌な考えが頭を過って、クラスが一緒になった七美に尋ねた。


「委員会、どうなった」

「っ…」

「…」


 その答えは、実に残酷なものだった。


「…ごめん、ひろちゃん」

「な、なんだよ。おい、お前ら…う、嘘だろ? 嘘なんだろ?」

「京ちゃんと互角になって、その後一票差で―――」

「言えよ! 嘘だって!!」


 その言葉の先は、聞くのを本能が拒否した。反射的に耳を塞いで恐怖に満ちた大声を張り上げる。


 結局俺は、まだあんな学級委員(雑用係)から抜け出せない、のか?

 あんな奴隷役を、もう一度やらされるのか?

 それを、クラスが、先生が、認めたというのか?


 二人が身をビクンと跳ね上げて顔を伏せ、それでもこちらを申し訳なさそうにチラチラと見てくる。


「ご、ごめんなさい…私があの時ひろちゃんのことを言ってれば―――」

「…悪い、一人で帰らせてくれ」


 俺は七美の後悔の言葉を遮断し、すっかり覚醒した意識で横に置かれてあった鞄を荒々しく掴んで、保健室を後にした。

 二人は、そこから三十分ほど微動だにしなかったという。








 ◆◆◆


 如何だっただろうか。

 これが、二つ目だ。


 広樹は、面倒事を押し付けられて、今でもこうして学級委員をやる羽目になっている。当時の広樹にとって生徒達は、雑用係は雑用をずっとしてろと人の気も知らずにそんな事を(のたま)う、シンデレラの姉達のような輩に見えて仕方がなかったのだ。嫌いになってもおかしくはあるまい。


 さて、広樹が学校を嫌いになった理由は、大まかに解説した。ご理解いただけただろうか。


 だがしかし、これから更なる困難が広樹とその仲間達を襲うことになる。おぞましい程の理不尽が、広樹達の心を更に蝕んでいくこととなる。


 だからここは入り口。地獄への入り口。開ければ醜く、狡猾な生き物があれよあれよと踊りながら同族を踏み潰しているような地獄。それでも、この門を開けるとなれば。


 覚悟は、出来ただろうか。

…という作者からの説明回です。

どうも、しゃぶしゃぶです。

次回は一身上の都合により、日曜日まで投稿をお休みさせていただきます。本当に身勝手で申し訳ありませんが、何卒ご理解の程をお願い申し上げます。

誤字脱字、感想などありましたらぜひお願いします。


※追記

遅れてしまって申し訳ございません。しゃぶしゃぶです。

ただいまあまり執筆の作業に入れない状況下にあります。なのでしばらく不定期更新となってしまいますが、ご了承ください。

この不定期更新は、長くて三月頃、早くて一月下旬頃に終わると思います。

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