記憶を辿る物語4
図書館での調査に進展はなかったが、ある日を境に状況は一変した。
「どういうことだ神木?!」
放課後の部室には俺と神木の二人だけ。ったく大事なときにあいつらはいないな。俺は焦っていた。
「だから何度も言わせるな、これだから凡人は。行方不明者であった三郷明と富士宮雫が帰ってきたと言ったのだ。」
三郷は2-F、つまり俺と同じクラスだ。少し会話する知人ぐらいの間柄だ。富士宮先輩は3-B。面識がまったくない。そもそも俺が年上のお姉さんとまともに会話できると思うか?いや、応えなくていい。悲しくなるから。
「帰ってきたならもう解決したようなもんじゃねーか?三郷と富士宮先輩から何か聞き出せたのか?」
神木は心底めんどくさそうな顔をした後首を横にふった。
「それができれば苦労はないだろこれだから庶民は。二人から聞いた話をまとめるとこうだ」
そもそも自分が行方不明だったという自覚がない。
一番仲のよかった友達のことを忘れている。
自分の名前がわからない。
「ちょっと待ってくれ。記憶喪失ってことか?二人同時に起こっているってことは偶然とも思えない。」
「あぁ、俺もそう思っている。統治会もこの件には手を焼いている。」
記憶喪失を意図的に起こすなんて事は今のこの魔法が使える世の中でも不可能なことだ。水系魔術の幻惑に似たような効果があるが、それも一瞬のこと。人間という膨大な記憶を持つ生き物からそれを削り取るなんていうのはもはや神の御技だ。
「まぁ、そういことだから貴様ら仲良し倶楽部はこれからも調査を続け我々統治会に報告してくれ」
神木はいちいち勘に触る言い方をする。これさえなければいい奴・・・・・という訳でもないか。
「ちょっと待て、俺達も三郷や富士宮先輩に話を聞いていいか?」
俺は人から聞いたことを鵜呑みにするほどお人よしではない。そもそも、神木はなんだか怪しい。
「勝手にしろ。どうせ何もできんだろうがな。」
ガラガラ
神木は部室を出て行った。
「ってわけなんだよ」
「ってわけじゃないわよ!なんであたしがいない時に限って話が進むのよ?」
「そうだぜ、蒼~。俺がいない間になんてイカ臭いぞ」
神木が出て行った数分後に鉢合わせたようにタヌキと月が部室に来ていた。そして今質問攻めを喰らっているという状況だ。
「俺が悪いわけじゃねーだろ月!?文句なら神木に言ってくれ。それとタヌキ。イカ臭いのはお前の部屋のベッドだけで十分だ。」
「ちょっと待ってくれ蒼ー。ここだけの話だが、俺はベッドは使わん。専ら椅子派だ。たまに床も使」
ドン!
轟音とも言える自己主張の強い音の先には笑顔の月がいた。
「あんたのシモも事情なんてどうでもいいのよ!それより今はこれからどうするかでしょ?」
正論過ぎて反論できない。こういう時女の子って強いよね。
「待ってくれ月。女の子がそんな話題をそんなに簡単にさばくもんじゃねーぜ。そういう時は顔を赤らめて、もー馬鹿!っぐらい言えないのかまったくこれだから女子力低い系は。」
タヌキは首を振ってやれやれってやってる。
あぁーこれはタヌキ死んだな。月に女子力の話題は禁句だ。顔が可愛いのにいろいろと惜しいランキングで不動の1位の座を築いてる女だぞ。しかもそれを気にしてる。タヌキせめて安らかに・・・・・。
ドン!バキ!ダン!ゴキッ!etc・・・・・。
数秒後そこには動かなくなったタヌキがいた。
月に逆らうのはもうやめよう。俺はこころに強く誓った。
結論から言おう。俺達は三郷と富士宮先輩への接触に失敗した。
二人とも精神的負担が大きいらしく何かを聞きだせる状況じゃないらしい。
まだだーーまだ先ーーーーー