記憶を辿る物語2
「痛っ!」
「当たり前じゃないあんたが子供っぽいことするから」
「だからってMAX COMBOはないだろ。他の人間なら間違いなく病院生活だからな?」
けっきょく夢の国から追い出された俺は月と通学路を歩いていた。
王立イデア魔法学院。俺達はそこの2年次のFクラスだ。
学校へは寮から通っている。俺がいるのがオリジン寮の4階。
月がいるのはアテナ寮の2階だ。え?そんな事どうでもいいって?そうかよ。
とにかく俺達は学校までの道を急いでいた。
「ほら蒼急いで!今日の一限は基礎魔法学だよ」
「うげ、まじかよ忘れてた。」
基礎魔法学。俺達魔術師にとっては基礎中の基礎。しかし、俺は勉強ってやつがどうも苦手だ。しかも担当講師はあのババー。気が重い。
ガラガラガラ。
「はいみなさぁ~ん。今日も楽しい楽しい授業の始まりですよー」
クネクネしながら入ってきたのは中年女魔術師「(彼氏絶賛募集中)」のクリス先生だ。俺はどうもこの女が苦手だ。若作りが痛々しい化粧、セットにどれだけ無駄な時間をかけているか見当も付かない金の巻き毛。
基礎魔法学とは文字通り魔法の基礎だ。核になるのは5大元素である火、水、土、雷、風に特殊元素である闇、光を足したものでそれぞれの魔術師はこの7系統に分類される。ちなみに俺はこの中で珍しい闇の魔術師に分類される。できればもっとわかりやすい、例えば月みたいな火がよかった。それは今はどうでもいいか。
ジリリリリリリリリ!
1限の終了のチャイムがなった。やべぇ、ぜんぜん聞いてなかった。
まぁいいか、あとで月に聞けば。こんな感じで俺は日々の学園生活を過ごしていた。
ーーーー違うーーーこの記憶じゃないーーー
「待てよ!今なんて言った!?」
俺達の部活であるところの奉仕部には招かれざる客が来ていた。
「だから何度も同じことを言わせるな。貴様ら奉仕部は奉仕とは名ばかりの仲良しダラダラ部だ。このたび統治会ではそーいった部活の予算の切り詰め、もしくは廃部を検討している」
神木はさも当たり前のようにつまらなそうに告げた。
「ちょっと待ってくれよ、いきなりすぎんだろ?たしかに奉仕部には俺と蒼と月しかいねぇーけど実績がないわけじゃない!」
タヌキがすかさず反論した。
「そうだ。俺達は一人暮らしのご老人の見回りや学校行事の手伝いなんかを積極的にやってきただろ?なんとか考え直してくれよ。できることはすっからさ」
俺達はこの場を失うわけにはいかない。
フフっ。神木が不適に笑った気がした。
「まぁ、話を聞け。さすがに統治会もそこまで鬼ではない。だが他の部に比べて実績が地味すぎる。そこでだ、貴様らに提案があるのだが?」
ごくりっ。
「んで、俺達に何をしろって?」
神木という男は正直性格が悪いと評判だ。会長の犬。統治会の為なら何でもする。
「簡単なことさ。行方不明の生徒の調査だ!貴様らどうせ暇だろう?」
・・・・・・・正直言葉が出なかった。俺達Fクラスの人間に何ができるというのか。ちなみに神木はAクラス。統治会のメンバーは全員優秀だ。
「よしわかった。引き受けよう。おもしろそーじゃねーか」
「ちょっと待てタヌキ!簡単に受けていい話じゃねーだろこれ!?」
タヌキは正直馬鹿だ。勉強は俺とどっこいなんだが、なんていうか単純思考。
「だってよ蒼~受けなきゃ部活は廃部だぜきっと。まさか予算減額だけで済むだろうなんて甘いこと考えてるんじゃないだろうな?」
「あ、当たり前だ!」
もうすぐ聖誕祭もある。この学院ではかなり重要な行事になる。ここでいい結果を残せなければ結局は廃部になる。予算がなければそうなる確率は格段に上がる。馬鹿のくせにタヌキはこの手の計算はやたら早い。
「んで、どうするんだい?僕も貴様らといつまでも遊んでるほど暇じゃないんだが?」
「わ、わかった。具体的には何をすればいいんだ?」
ここは頷いておくしかない。
「簡単なことさ。足を使って事件を調べ統治会にそのつど報告してくれればいい。君らFクラスにはお似合いだろう?」
ちくしょう。言い返せない。神木が優秀であるとことは周知の事実だ。
「その結果次第では廃部を取り消すんだな?」
ニヤリ。神木はまた笑った。
「当然だ。統治会は嘘をつかない」
「そうかわかった。条件を飲むよ」
俺達はこの連続生徒失踪事件の調査をすることになった。
「というわけなんだ」
「というわけじゃないわよ!あたしが日直で遅れてる間に何勝手に決めてんのよ?」
月が来た部室は荒れていた。この子はわりと手が先に出るタイプの子だ。
「だってよー月。しょうがねーだろこれ?統治会からの依頼だぜ?」
「タヌキは馬鹿なんだから黙ってて!私は蒼に聞いてんのよ」
月はいつも怒ってる気がする。お前は怒ってないと呼吸できないみたいな体質なのか?と問い詰めてみたい。もちろんやらないが。
ザザッ
ーーーーー違うーーーここでもないーーーーーー