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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第六章 闇へと通じる穴
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闇へと通じる穴 2

 やはり、穴からはその後も何体もの魔物が飛び出してきていた。

 地上組はオドネルが中心となって指揮を取り、見事な連係プレーで敵を撃退していた。


「リバゴ! そっちに一匹行ったぞ!」


「よしきた! こっちは任せろ!」


 と大人たちが熟練の呼吸を見せれば、


「アーニャさんっ。僕が炎で魔物を追いやります! そこを衝いてください!」


「わかったわ!」


 リュードたち新人騎士たちもなかなかの息の良さを見せていた。

 ちなみにリュードは騎士たちのなかでも異色の存在で、セイラン国ではあまり見られない、『魔法』を操ることができる魔法騎士である。

 魔法については、説明するといろいろと長くなるが、基本、神竜の恵みの自然の力を利用して、それを魔導書や魔法石といった特別な魔力を持った鍵となる媒体から引き出し、攻撃力に変えることができるといわれている。ちなみにリュードは、魔導書を魔法の力を生み出す媒体としていた。

 魔法を使える存在というのは世界でも限られているが、世界各地のとある場所に、ひっそりとそうした魔法使いは存在していると言われている。


 リュードがどういう経緯でユクサール天馬騎士団に入ったのかは、本人も口にしないのでくわしくはわからない。だが、確実にユクサール天馬騎士団内ではその存在を確実のものとしていっていた。

 魔物は穴から多く出てくるときもあれば、ぴたりと止まることもあった。そして今、飛び出してきた魔物らをすべて片付け終えたところで、穴は一旦静けさを取り戻していた。


「とりあえず、一旦おさまったようだな」


 じわりと吹き出した額の汗をぐいっと手の甲で拭うと、オドネルは深く息をついた。全身が汗で濡れている。鼓動も高鳴ったまま、すぐにはおさまりそうになかった。

 どれだけ訓練を積み重ねても、実戦とはまるで違う。これほど緊張感を感じることはない。そして、これほど恐怖や興奮を覚えることはなかった。


「こころなしか、穴の気配が今は少し弱まっているような気がするな。もしかしたら、この穴にも安定するときとそうでないときの揺らぎ、のようなものがあるのかもしれない」


 リバゴが少しだけ穴のほうに近づきながら言った。


「気をつけろ。いつ、魔物が飛び出してくるかわからん」


「ああ。わかっている。ちょっとだけ、調べるだけだ」


 リバゴはそう言って、さらに穴のほうへと近づいていった。

 オドネルは、そんなリバゴの姿に、あきらめにも似た視線を送った。リバゴという男は、良くも悪くも好奇心旺盛なところがある。それはつまり、新しいことに物怖じしないという面からすれば長所ではあるが、怖い物知らずで警戒心に欠けているという短所でもあるということだ。

 しかし、どうせ注意したところで止められないということは、これまでの経験でよくわかっていることだった。

 オドネルは、しばしの間リバゴの背中を注意深く見つめていた。リバゴは手前に剣を構えながら、じりじりと穴へと近づいていく。

 そして、穴から数歩離れた場所で彼は止まった。もっと近くまで行くのかと思っていたオドネルは、そんなリバゴの動きに意外なものを感じていた。


「どうだ? なにか変化はあったか?」


 オドネルがそう問うと、リバゴはゆっくりと穴から離れてから答えた。


「いや、特にこれといって変化は見受けられなかった。それで安心かどうかはわからんが。……だが、あれは危険だ。あれ以上近づいたら、飲み込まれそうに思った。あれは異界へと通じている。魔物の巣窟、闇の世界。そこに人間が落ちたらひとたまりもないだろう。だが、そうとわかっているのに、奇妙なことに、あの穴には妙な引力のようなものを感じた。近づいたらきっと、闇に取り込まれて吸い込まれてしまう。もしかしたら、あのどす黒い障気が、なにか人間の深いところで共鳴しているのかもしれない」


 こちらに背中を向けたままのリバゴに、オドネルは鋭い視線を送った。そして、意外に感じていた。精悍なリバゴの横顔は、ほのかなランプの灯りのなかで、苦しげに歪んでいた。いつにないその様子は、オドネルにただならぬものを感じさせていた。


「人間の深いところで共鳴を……?」


 その言葉は、オドネルの胸にも黒くざわついたものを残していった。






 その後、夜明けまでやはり数回魔物が穴から飛び出してきた。

 ゴウッ、とアカが炎をまき散らし、飛んできたグールやノーマを焼き尽くせば、エレノアが違う場所で疾風の槍を披露する。

 エルネストもまた、襲い来る敵と果敢に戦っていた。

 そうしている間に、ようやく空が白み始めた。

 辺りの敵を掃討し終えたエレノアは、それに気づいて言った。


「よし。そろそろ地上へと戻るぞ。穴を塞ぐんだ!」


 そうして彼らは、地上へと向けて滑空していった。

 地上でも、オドネルたちの働きで魔物はすでに倒されていた。エレノアは、天馬が地上に降りた瞬間、そこから飛び降り、穴の前へと走った。


「オドネル! どうすればいい? 光を穴へと注ぐということは、この木を切り倒せばいいのか?」


 エレノアの隣にすぐに駆けつけたオドネルが言った。


「いや、それはどうやらできないようだ」


「なに?」


 エレノアは訝しむようにオドネルに視線を向けた。


「さっき試したんだが、どうやらこの木自体が魔の力に支配されていて、穴を護る働きをしているようなんだ。リバゴが斧を振ったが、触れる前になにかの力で攻撃が弾かれた」


「では、他にどうすればいい? 闇の世界と通じる穴は、この木の虚にある。大きく繁った枝葉は、この穴に光を注ぐことを邪魔するだろう。それが切り落とせないということは……」


 空が明るみを帯び、夜が明けようとしていた。闇は西へと追いやられ、東の空は朝焼けで赤く染まり始めていた。

 そのとき、キラリと彼らの周囲でなにかが光った。

 その光のもとに、みなが注目する。エルネストはさっと後方を振り返ると、その光を放った本人が目を丸くして、きょとんとしながら立っていた。


「え? どうしたんですか。みなさん」


 リュードが突然自分が注目されていることに戸惑い、焦っていると、アーニャが隣でこう声を発した。


「リュード! あなた、すごいわ!」


「でかした! その方法があった!」


 リバゴもそう大声で言い、リュードの細い背中を思い切りばしんと叩いた。

 勢いでつんのめりそうになりながら、リュードは目を白黒とさせていた。その手に丸い鏡を持ちながら。



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