同盟 1
セイラン国の王都フエンダーナには、石造りの堅牢な城を中心に、豊かな城下町が広がっていた。城下に暮らす人々も、国の気風を表すかのようにきびきびと道を歩き、はきはきとしゃべるものが多かった。
智慧に富んだ聖王ラクシンにあやかろうと、国民全体がそうした理知的な人柄を重んじていたのだった。
そんな王都フエンダーナにある知らせが舞い込んだのは、エレノアたちがレピデ村へと出立した次の日のことだった。
その書状を読んだセイラン国聖王ラクシンは、目を瞠って驚きの表情を浮かべていた。
そしてその書状を持ってきた南の国フェリアの使者に、こう言づてを頼んだ。
「了解した。一度会って、子細を話し合おう」
そうして、数日が過ぎたころ、王都フエンダーナはにわかに騒がしくなった。
そのころにはエレノアたちユクサール天馬騎士団も王都へと戻ってきており、高貴な人をお迎えする準備のために、町中の警備に励んでいた。
――そして、ついにその日を迎えた。
「ドキドキするわね」
アーニャがエルネストにそう話しかけた。城門から中に少し入った通り沿いで、観衆の前に彼らは立っていた。今は全員、警備の都合上天馬は厩舎に置いてある。ただ立っているだけなのが窮屈に感じたのか、上司の目を盗んで、アーニャはこっそり隣の同僚へと言葉を発していた。
「そうだな」
城門付近の警備には、ユクサール天馬騎士団が中心に当たることになっていた。その警備の中に入れられることとなったエルネストたちは、こうした他国からの要人警護も初めてのことで、緊張に胸を高鳴らせていた。新人騎士たちはどこか落ち着かない様子で、そわそわと城門のほうをちらちらと盗み見ていた。
「南の国は一年を通して比較的温暖で豊かな土地だと聞きます。そんな国の聖王様ご一行は、きっとこのセイランとはまだ違った文化の風をもたらすに違いありません」
アーニャとは反対側にいたリュードが言った。彼もまた、眼鏡の奥の目を輝かせて期待に胸を膨らませている様子だ。
「例のあのセレイアにたどり着いたという少年の住んでいた国とは、どんなところなんだろうな。そして、そこの聖王様とはどのようなお人なのだろう」
エルネストもまた、いつになく胸が高鳴っていた。
世界を救うために旅をした少年。そしてその国の聖王。
彼らに会ってみたい。話を聞いてみたい。到底無理なことだろうが、そんなふうに夢見てしまう。
いつか、他国に住むそんな人々と友達になることができたなら。
それはどんなにか楽しいことだろう。心が弾むことだろう。
「会ってみたいな、いつの日か」
「そうね」
「そうですね」
エルネストのつぶやきは、他の二人にも聞こえていたようで、両側の仲間がうなずいているのが見えた。
そんな話をしていた三人の様子を、遠巻きに見ていたリバゴがとうとうたしなめた。
「そこの新人三人。そろそろ要人が到着する時間が近づいてきている。無駄口は控えるように!」
その言葉に三人はびくりとし、口をぴたりと閉じた。
それからしばらくして、なにやら城壁の外が騒がしくなってきた。
「フェリア国聖王様ご一行、ご到着であらせられます!」
大きな歓声とともに門が開き、そこから異国の軍馬に乗った騎士たちに護られながら、煌びやかだが洗練された馬車が入城してきた。
その中に他国の聖王がいるのだ。エルネストは王都の通りを埋め尽くす人たちの前で警備に立ちながら、その馬車が目の前を通り過ぎていくのを見つめていた。
南の国の聖王は、人徳に優れた賢王であるとの評判である。南の国の豊かで自由な気風は、やはり上に立つ聖王の影響もあるのだろう。
(どんな人なんだろう)
エルネストは小さくなっていく馬車を眺めながら、中にいる人物のことを考えていた。




