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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第一章 ユクサール天馬騎士団
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ユクサール天馬騎士団 2

 すらりと伸びた石造りの尖塔の先に、セイラン国の国旗が月明かりに照らされながら垂れ下がっていた。しかしその旗は、ぴくりとも翻る様子はない。風の竜が活動を停止して、一年以上が経ったが、まだ世界に風は消えたままだった。


 すでに辺りは陽が落ちて、静かなる夜の闇が満ちている。

 季節はまだ冬を抜けきっていないが、春が次第に近づいてきていた。そんな季節だ。当然ながら、まだまだ夜は寒い。そんな凍てついた空気が王城を包みこんでいた。


 セイラン国の王都であるフエンダーナ。その王城の廊下を、カッカッカッと、規則正しい足音を鳴らしながら、颯爽と歩く人物がいた。


 ユクサール天馬騎士団長エレノア。

 白銀に輝く甲冑に身を包み、毅然とした表情で真っ直ぐに正面を見つめている。

 赤き旋風と異名をとる彼女は、セイラン国随一の槍使いであり、女ながらに団長に抜擢されるほど、聖王からの信頼も厚かった。

 廊下の先にいた王の側近の一人であるエクバムが、そんなエレノアの姿を認めて声をかけてきた。


「これはこれはエレノア殿。無事の帰投なによりです」


 小太りのエクバムとエレノアが並ぶと、その差が歴然とする。


「当然だ。我がユクサール天馬騎士団がダムドルンドの魔物などに遅れをとるわけがない。ところでなにか用か?」


 エレノアの言葉に一瞬卑屈な表情を浮かべたエクバムだったが、気を取り直したように言った。


「ええ。これから聖王様に謁見されるおつもりのようでしたので、わたくしめがお取り次ぎをさせていただこうかと思いまして。まだ、そのお手続きはされてませんでしょう?」


 エクバムがもみ手ををしながらそう言うが、エレノアの返答は冷たいものだった。


「結構。聖王様にはすでに帰投次第、手続きなしでの謁見を許されている。聖王様も一刻も早く現状を知りたいのだ。我が国が今、どうなっているのか」


 エレノアはそう言い捨てるように言うと、エクバムを置いて、さっさと謁見の間のある方向へと足早に向かっていった。

 石造りでできた王城は、煌びやかではないが、武を重んじる国家としての威信と誇りが現れた堅牢な城だった。

 灰色の石の廊下の先に、赤い色の扉が見える。その先にこの国の聖王のいる、謁見の間がある。扉の両脇に控えていた二人の兵士たちが、エレノアの姿を見て敬礼の姿勢を取った。


「扉を開けよ! ユクサール天馬騎士団が団長、エレノアが帰還した。聖王様への謁見を賜りたい!」


「はっ!」


「ははっ!」


 兵士たちはエレノアの言に従い、観音開きとなっている扉を両側からゆっくりと開いていった。

 そして、兵士の一人が言い放つ。


「ユクサール天馬騎士団長、エレノア殿、ご帰還であらせられます!」


 エレノアはその言葉を聞きながら、謁見の間へと足を踏み入れていった。






 正面の壁面に、この国の国旗が飾られている。赤地に金の縁取り。その中央に描かれているのは、この国のシンボルともいえる天馬の姿。

 その国旗の前に、その人はいた。


 セイラン国聖王――ラクシン。


「よくぞ戻ったな。エレノア」


 エレノアが正面で跪いたのを見て、落ち着いた声でその人は言った。

 長い黒髪を後ろでまとめ、聡明な切れ長の目をエレノアに向けている。少し面長な顔は、しかし理知的で深い叡知を思わせた。その瞳の色は赤みを帯びた黒色で、静かな見た目に反し、その奥に熱いものを感じさせる、そんな印象を見るものに与えていた。

 そしてその額には、琥珀色に輝く竜玉が埋め込まれている。

 それは、この世界、シルフィアの女王より賜った聖王の証である。


「聖王様。まずは我がユクサール天馬騎士団が無事、全団員が一人も欠けることなく帰還いたしましたことを、ここにご報告致します」


 エレノアは片膝を立て、片方の拳を床につけてそう声を発した。


「して、アルバール山脈の麓の村での首尾はどうであったか」


「はい。やはり、ダムドルンドの魔物の発生により、村は壊滅的な被害を受けて

おりました。我が天馬騎士団の掃討作戦により、村を襲っていた魔物八体を撃退し、とりあえずは安寧を取り戻したところでございます」


 エレノアがそう言うと、ラクシンは右手で顎を覆うように持ち、かすかに眉間に皺を寄せてみせた。


「まずはご苦労であった。天馬騎士団の活躍上々である。……がしかし、魔物八体か……。前回の掃討作戦のときよりも魔物の数が増えているな。これは、これまで以上にダムドルンドの世界の力が増してきているということだろうか……」


「……はい。そのように思います。日に日に魔物の発生する頻度も増えてきております。そこで、部下よりも天馬騎士団増強の申し出がありました。今後のことも踏まえまして、さらに要員を増やしたく思いますが、よろしいでしょうか?」


 ラクシンは鷹揚にうなずいた。


「構わぬ。良きように手配するがいい」


 エレノアは頭をさげると、その場を辞去した。



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