王都へ 3
それから一行は、何日も何日もひたすら北を目指して進んでいった。山を越え、谷を越え、荒れ地を越えて、ただひたすらに北を目指した。
道程で見える景色は次第に移ろい、山々の木々が少しずつ色づいていくようになっていた。
シルフィアには四季というものが存在する。春夏秋冬。移ろう季節。温かな春に、新緑の夏、紅葉が色づく秋が過ぎれば、冷たい冬の季節がやってくる。
そしてまもなく、この国にも冬がやってこようとしていた。
「どうですか? これ」
ユヒトたちは、王都エリアスの手前にある町の服飾品店で装備を調えていた。本格的な冬がやってくる前に、着るものをそれぞれ増やすことにしたのだ。
ユヒトはクリーム色の毛織りのセーターを着ると、他の仲間に披露してみせた。
「いいんじゃないか。似合っているぞ」
そういうギムレは、熊の毛皮のベストを羽織っているところだった。
「ああ。それでいいと思うよ。ユヒトくんらしい」
エディールはというと、白いエメルという獣の毛皮のチュニックを着ている。
「というか、お前、それエメルの毛皮だろう。確か、ものすごい高級品のはず。そんな贅沢なものを買う気か?」
「これはわたしが武術大会で得た賞金で購入するのだ。それならばなにも文句はあるまい」
自信満々にそう言うエディールが気に入らなかったのだろう。ギムレは不機嫌そうにふんと顔を逸らした。
「けっ! いちいち着るものまで嫌みなやつだ」
「ギムレ。なにか言ったか?」
「なんでもねえよ!」
狭い店内でまた諍いが勃発しそうになって、ユヒトは、はらはらとしたが、喧嘩はとりあえずそこでおさまったようだった。
「相変わらずだな。あの二人は。まあ、喧嘩ができるということは、少しは元気を取り戻してきたとも解釈できるが」
店内の隅にある椅子に腰掛けていた少女姿のルーフェンが、呆れながら言った。彼女は今は、毛皮の白いコートを着ている。どうやら変身で服も自由に変えられるらしく、その白いコートは買ったものではなく、竜の魔力で出したものだ。
「そうだね。喧嘩はよくないことだけど、二人が元気になったのならそれは嬉しいことだよ」
ユヒトはギムレたちには聞こえないように、ルーフェンに耳打ちした。
「ユヒト。きみもだいぶ自分を取り戻してきたみたいだな」
ふいにそんなことを言われて、ユヒトは驚いた。
「世界に崩壊の足音が迫ってきているのだとしても、時は過ぎ、人々の生活は続いていく。止まっていてはいけないんだ。前に進まなければ」
ルーフェンの真剣な声に、ユヒトは胸を衝かれた。
そうだ。いつまでも悲しみに暮れてばかりいてはいけない。前を見て、未来をこの手に掴み取らなければ。希望を信じて進まなければ。
ユヒトはルーフェンに、こくりとうなずいてみせた。
ユヒトはあれから自分の折れてしまった剣の代わりに、今はギムレの所持していた短剣を装備していた。本来なら新たな剣を買わなければならないところなのだが、エディールいわく、王都エリアスまで我慢しろとのことだった。
なんでも王都には、冒険者の中では有名な武器屋があるそうで、武器を選ぶならそこに行けば間違いないという評判の店らしい。
なにかと入り用だが、そればかりは仕方なかった。なにしろユヒトにとって長剣は、一番の武器なのだ。またいつ魔物と戦うことになるとも限らない。得意とする武器は、きちんと身につけておきたい。
そして、朝晩の冷え込みが一層増して、朝露が霜に変わり、辺りの景色が白くなってきたころ、一行はようやく王都エリアスへとたどり着いていた。
「うわー! すごい!」
ユヒトは王都に足を踏み入れた瞬間に、その町の景色に感嘆の声を漏らした。
王都は一面銀世界に包まれていた。そしてその都は、そんな雪の静謐さに負けないくらいの荘厳な雰囲気を纏っていた。
町の中心を貫く大通りは、そのまま王宮まで繋がっている。遠くに見える王宮は、大きくて立派だった。その王宮は丸い屋根の形をしており、頂点の先が尖っていた。白亜の壁は輝くばかりに美しく、左右対称のその姿は、計算された芸術美を感じさせた。そこへと続く町並みもどこか整然としており、活気はあるが、シューレンよりも洗練された印象を受けた。
「綺麗だろう。あれがこのフェリアの聖王ナムゼの城だ。セレイアへの使者を募るおふれは、ここから発信されたんだ」
白い息を吐きながら、エディールが言う。
「あそこにこの国の聖王様がいるんですね?」
「そのはずだ。だがまあ、その前に武器屋に寄っていったほうがいいだろう。準備を万端に整えてから先に進むんだ」
ということで、ユヒトたちは、まず武器屋に向かうことになった。