王都へ 2
一行が街道を馬で進んでいると、ふいに遠く後方から、誰かの呼び声が聞こえた気がした。はっとしてユヒトがそちらを振り返ると、誰かが馬上からこちらに向かって手を振って近づいてきているのが見えた。
それに気づいた一行はそこで馬を止め、騎馬が追いついてくるのを待った。
そしてその正体を知ると、エディールが声を発した。
「エントウ! モラ婆さんも! 良かった。二人とも無事だったんだな」
彼の言葉のとおり、その馬に乗っていたのは、シューレンの情報屋であるエントウとモラ婆さんの二人だった。
「あったり前でさあ! あんなとこでおっちぬわけにはいきやせん」
エントウが笑顔で言うと、同じ馬でエントウの前に乗せられていたモラ婆さんも言った。
「またこの老いぼれも生き長らえちまったよ。さっさとこっちを迎えに来ればいいものを」
「お二人ともご無事で良かったです。ほっとしました」
ユヒトが微笑みかけると、モラ婆さんは皺だらけの顔をさらにしわくちゃにして笑った。
「あんたもね」
その笑顔を見て、ユヒトは少しだけ心が温かくなるのを感じていた。
「それはそうと、どうしたんだ? こんなところまで追ってくるなんて」
「ああ、そうでやした。あれですよ。例の依頼のことで、伝えておきたいことがありやして」
ユヒトはその言葉にはっとした。依頼とはもちろん、ユヒトの父親の足取りのことに違いない。
「父のことでなにかわかったんですか?」
「ええ。まあ、たいした情報ってわけでもないんでやすけど、旦那たちが旅立つ前にとりあえず伝えておかなきゃと思ってたもんで。そしたらもう出立したって聞いて、慌ててここまで追ってきたってわけでさ」
「それで、その情報とは?」
エディールが神妙にそう訊ねると、エントウは言った。
「ええ。あれから町の宿屋をいろいろあたってみたんでやすが、そこの一軒の宿屋で、そのオーゲンって人らしき人物を泊めたっていう話を聞いたんでやす。それで、その宿屋の主人の話によると、そのオーゲンって人は北へ向かうと話していたと」
ユヒトはそれを聞き、仲間たちと思わず顔を見合わせた。
「北へ? 間違いないんですか?」
「へえ。とりあえず、王都へ向かうとか言っていたらしいでさ」
王都へ。
ユヒトはその言葉に、胸が高鳴った。
この旅で初めて掴んだ父の足取り。
しかもそれは、ユヒトと同じ道行きだったのである。
この先へ行けば、父に会えるのかもしれない。どこかで生きて再会できるのかもしれない。そんな思いがユヒトの胸にじわりと広がっていった。
「じゃあ、それだけ伝えておきたかったんで」
エントウがそう言うと、エディールが彼に向かってこんなことを言った。
「エントウ。ついでといってはなんだが、もうひとつ頼みたいことができたんだが、聞いてもらえるか?」
「へえ。あっしにできることなら。あとは報酬次第ですがね」
エントウの返事に、エディールは口角を上げた。
「報酬はもちろんその分上乗せしよう。そこで頼みだ。ユヒトの父親の件とは別に、ある剣の情報も集めてもらいたい」
ユヒトはその言葉に、はっとした。
「このシルフィアのどこかに、シームセフィアの剣と呼ばれる伝説の剣が眠っているのだという。その剣のことを知りたいんだ」
「伝説の剣……ですか」
「ああ。かなり難しい仕事になるかもしれないが、どんな情報でもいい。なにかわかったら教えて欲しいんだ」
「はあ。まあ、あっしのところには日々いろんな情報が入ってきますからね。なにかわかりやしたらまた知らせまさあ」
「頼む」
そしてエントウはこくりとうなずいてみせた。
「それじゃ、あっしらはまたシューレンに戻って町の復興の手伝いをすることにしやす。伝書鳩を王都にいる弟宛に送っておきますんで、また新たな情報はそこで聞いてくだせえ。どうかみなさんこの先もお気をつけて!」
「頑張りなよ」
モラ婆さんもそう言って、皺だらけの顔をさらに皺くちゃにした。
そうして彼らは馬首を返し、再び来た道を戻っていったのだった。