王都へ 1
シューレンでの出来事は、人々の心に大きな暗い影を落とした。
父親や母親を亡くした子供たちの嘆き、夫や妻を亡くした人々の悲しみ、子供を失った親たちの悲痛な声が、町中に溢れていた。
魔物たちが去っていった町は、つい前日のお祭り騒ぎが嘘のように、悲しみで彩られていた。魔物たちの残した爪痕は大きく、復興までには相当な時間がかかるものと思われた。
ユヒトたちは、残された人々と町を片付けていたが、町の人々はユヒトたちがセレイアへの使者だということがわかると、すぐにでも出発して、女王に会ってきて欲しいと言った。
そうした声は、他の村から来ていた使者にも伝わっていたようで、まだ混乱から立ち直らぬ町の状態に申し訳なく思いながらも、使者たちはそれぞれシューレンを出発していった。
ユヒトたちも後ろ髪を引かれながらも、次の日には彼らも馬に乗って町を発っていた。
北の街道を進む間、ユヒトたちはほとんど誰もなにも語らなかった。
あの戦いで護れなかった町の人々のことを思うと、ユヒトは胸が引き裂かれそうな気持ちになった。きっとそれは、ギムレやエディールも同様の気持ちなのだろう。いつもは明るいルーフェンも、今は獣の姿となって、ユヒトの外套の中に潜り込んでいた。
ユヒトはそんな悲しみに暮れながら、それとは別に、ある思いに胸をあらたにしていた。
それは、シューレンの人々の望みであり、このシルフィアに住む人々の悲願でもある、女王への謁見。そこで世界の救命を願うことだった。
必ずそれを成し遂げなければならない。
それこそが自分たちに科せられた使命であり、人々の願いなのだ。
「……絶対に、セレイアにたどり着いてみせる……!」
ユヒトはそうつぶやいていた。
一行は、シューレンから少し先に行ったところにある馬宿に着いていた。
宿に入る手前で、ユヒトはギムレとエディールにあることを話しかけた。
「シームセフィアの剣?」
「それを手に入れなければならないと、風の竜は僕に言ってきました」
「しかし、それがどこにあるのかということは風の竜もわからないと?」
「はい。けれど、それがなければあのジグルドを倒すことは不可能だと……」
それを聞いたエディールは難しい顔をした。ギムレも横で、腕組みをして天を仰いでいる。
「……まあ、あれだな。今のところは、それがどこにあるかもわからないわけだから、はっきりわかっているほうの目的を優先させるしか、できることはないわな」
「そうだな。まずはとにかく一刻も早くセレイアへ向かうしかない。その剣のことは、行く先々で情報を収集していくより、今のところできることはないだろう」
そう言われることはわかっていたユヒトだが、なんだか心許ない気持ちになった。
手がかりもほぼない雲を掴むような今の状況で、シームセフィアの剣を見つけられるとは思えなかった。けれど、またいつ何時あのジグルドが現れるかわからないことを考えると、早くその剣を手にしたいと心が逸る。
しかし、ギムレやエディールの言うように、今はどうすることもかなわない。とにかくまずは、先を急ぐしか方法はなさそうだった。
シューレンからセレイアへは、ほぼ一直線に北に進んでいけばよかった。
その先にはこの南の国、フェリアの王都であるエリアスの町があるはずだ。けれどもその町の先には、大きな困難が待ち受けていた。
王都から先にあるセヴォール山の山麓に広がる樹海は、迷いの森と呼ばれ、入ったら最後、迷って出られなくなってしまうという。
それは聖地セレイアを護るための魔力がそこにかかっているせいであり、普通の人間がそこに近づくことは危険極まりないことだった。
そんなところをどうやって抜けて行けばいいのか、今はまるで見当もつかなかったが、とにかく自分たちはそこに向かうしかない。
「とにかく王都を目指そう」
ギムレの言葉に、ユヒトは重くうなずいた。