表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第五章 雨の降り続く町
22/157

雨の降り続く町 2

 ユヒトたちは馬に乗ってレミのことを追った。

 川は、町を出て少し行ったところに流れていた。サダヌ川という、この辺りでは一番大きな川だ。川の水位は、町の高さよりも高いところにあるようで、そこには大きな壁のような堤防が作られていた。その堤防の向こうでは、激しく水の流れている音が聞こえてくる。


「随分立派な堤防だな。確かにちょっとやそっとじゃ壊れそうには思えない。あの母親がああ言っていたことも、うなずける話だ」


 ギムレが言った。


「でも、あのレミという子は、危機を感じているようでした。いくら堤が立派でも、やはりこの降り続く雨の影響はあるでしょう」


「そうだな。この川の音はやはり激しすぎる。ちょっとこの堤の上に登って、川の様子を見てみよう」


 エディールがそう言ったので、登り口を探して、三人は堤防の上に行ってみた。


「これは……」


「まずいな……」


 それを見た途端、三人は言葉を失った。

 思った以上に川の水量は上がってきている。堤防の高さまではまだ達してはいないものの、それに迫る勢いで川は濁流となって流れていた。


「落ちたら確実に助かりそうにないですね」


「ユヒト。くれぐれも足を滑らすなよ」


 川は茶色く濁り、時折山から流されてきたのだろう、それなりに大きな木の枝まで流れていた。


「雨の影響でかなり川の量が増水している。あの母親は大丈夫だと言っていたけれど、これはあのレミという娘の言い分もわかる。水の竜の加護があるからと母親は過信しているようだが、この状況は異常だ」


 エディールが、厳しい表情を浮かべながら言った。


「この現状を見てないんでしょうか。水の竜への信仰心が、町の人たちの目を曇らせているんでしょうか」


「どちらもだろうな。それに、この堤への絶対的な信頼もうかがえる。たぶん、これまでこの堤防に、随分町の人たちは助けられてきたのだろう。それがあるから、住民たちも、まさかその堤防が決壊するわけがないという思いがあるのだろう」


 あの母親の様子を思い出す。レミと違って、川の危険性など、微塵も心配をしていない様子だった。


「それにしても、あのレミという子はどこに行ったんでしょう。父親を呼びに行くと言ってましたけど」


「ここいらにいないとなると、上流のほうにいそうだな。少女の足だ。そう遠くまでは行ってはいまい」


 そうして、三人は堤防を下り、上流のほうへと足を向けた。

 雨はその間も振り続け、三人の外套を濡らし続けていた。


「それにしてもよく降るな。この町に入る前は雨など全然降っていなかったというのに」


 そう言って、ギムレが空を見上げた。ユヒトも同じように空を見る。暗灰色の雲が、空一面を覆っている。しかもその雲は、まるきり動くのをやめてしまっているように見えた。


「あ!」


 ユヒトはその事実に気づき、声をあげた。エディールもそれを察したのか、「ああ……」と嘆息した。


「なんだ? 二人とも、浮かない顔をして」


 まだそのことに気づいていない様子のギムレに、ユヒトが説明した。


「雲が動いていないんです。雨雲は、この辺りに留まったままで、先程から少しも移動する様子を見せていません」


「なんだって?」


 今度はエディールが代わって説明した。


「これは単なる長雨なんかじゃない。風の竜が活動をやめてしまったことによる災害だ。風が吹かないために、雨雲はずっと同じところに留まり続けている。そのせいで、この辺りは異常な量の降雨に見舞われているんだ。このままの調子で降雨が続けば、堤が切れるのも時間の問題だろう」


「馬鹿な。じゃあ町が水に沈むのを、このまま指をくわえて見てなきゃいけないってのか」


「あるいはそうなるだろうな。しかし、その前に住民に避難を呼びかける必要がある。予想しうる災害は、未然に防がねばならない。住居は住めなくなったとしても、第一に優先すべきは人命だ。どこか高台へと住民を誘導させるよう呼びかけよう」


 三人は互いにうなずきあった。


「まずはレミという少女を捜し出し、その子の父親にも避難を説得しよう。いくら堤が立派でも、それに安心しきって現実を見誤ってはいけない。風が吹かない限りは雨雲は移動しないんだ。このままでは確実に堤防は決壊のときを迎えるだろう。そのことをみなに知らせないと」


 そうして、ユヒトたちは川の上流へと向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ