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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第五章 雨の降り続く町
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雨の降り続く町 1

 ヒュインテ街道を馬で北上していくこと二日。そろそろ次の町が見えてくるというころだった。


「怪しい雲行きだな」


「向こうのほうは雨が降っているのだろうな」


 馬を止めて、ギムレとエディールが言った。二人の言うように、その先の空は、暗い色に覆われていた。


「外套を羽織っておいたほうがよさそうですね」


 ユヒトは脱いでいた外套をさっそく広げた。ギムレたちもフードを目深に被る。


「ルーフェン。こっちにおいで」


 ユヒトは纏った外套を広げ、ルーフェンをその中に包むようにした。顔だけを外套の合わせ部分から出してやる。


「なんだか嫌な感じの雲だな」


 ルーフェンのつぶやきは、ユヒトの思っていたことと同じだった。なんだか先に待ち受ける暗雲が、不吉な色に感じていた。


「とにかく早いとこ、今日は町に入ったほうがよさそうだ。急ぐぞ」


 ギムレがそう言って先に馬を走らせた。エディールとユヒトもそれに続く。

 街道の先は、真っ直ぐ暗雲に向かっていた。




 雨はまもなく降り出した。最初はぽつぽつとだったそれも、すぐに激しいものに変わっていった。

 町へ着くころには三人ともずぶ濡れで、外套はすっかり重くなっていた。


「まいったな。これはすぐに宿を探さないと」


「そうだな」


 雨が降り続けているせいなのだろう。その町はどんよりと暗く沈んでいるように見えた。辺りにも人の姿は見当たらない。みなこの雨で、屋内に避難しているのだろう。

 そこはスーレという町だった。山の麓に位置する町で、近くには川が流れている。ヒュインテ街道の要所ともいえる、それなりの規模を誇る町だった。


「ユヒト」


 ユヒトの外套の中にいたルーフェンが、突然こんなことを言った。


「すまないが、オレは少し眠ることにする」


「あ、うん。それはいいけど、どうしたの? 疲れた?」


 ユヒトの問いに、ルーフェンは気怠そうに顔をあげた。


「実はこの体、本体から無理遣り分身として切り離したせいで、とても疲れやすいみたいなんだ。本体の風の竜であれば、ほとんど寝なくたってどれだけでも空を舞えるんだけど、どうも今の状態ではそうもいかないらしい。だから悪いが、このまましばらく休息に入らせてもらう」


「そうか。わかったよ」


 ユヒトのその返事に安心したのか、ルーフェンはそのまま目を閉じ、眠りへと誘われていった。

 三人が宿屋を探すために、町の通りを馬をひきながら歩いていると、一軒の建物の扉が開き、そこから一人の少女が飛び出してきた。歳の頃はユヒトと同じ、十四、五歳といったところだろう。ポニーテールの利発そうな少女である。


「こらっ! お待ちよ、レミ」


 その少女を追いかけるように、少女の母親らしき人物も、建物から外へと出てきた。そして、レミと呼ばれた少女の腕を掴んで止めた。


「嫌よ! あの堤には父さんがいる。父さんを呼びにいかないと危険だわ!」


「駄目よ。お父さんだって言っていたでしょう。あの堤は大丈夫だって。あれがある限り、この町は安全よ。それにこの町は水の竜の加護を受けた土地。水の災害なんてこの町で起こるわけないの。だからお父さんを信じて、わたしたちは家で待ちましょう」


「これまでが大丈夫だったからって、今度もそうだとは限らないわ。こんな何日も雨が降り続いているというのに、川のそばに居続けるのは危険よ! いくら父さんが責任者だからって、命までかけることないわ!」


 レミという少女はそう言うと、母親らしき女の腕を振り払って通りの向こうへと駆けていった。


「レミ!」


 そんな様子を見ていたユヒトは、思わずその女性に声をかけていた。


「どうされたんですか?」


 呼びかけられたことに驚いた様子で、その女性はユヒトのほうを振り向いた。


「もしかして、旅のお方ですか? 今の、見てました?」


 反対に質問にあい、ユヒトは少しだけ面食らった。


「ええ、まあ」


「あの、いきなりでなんですけど、よかったらわたしの代わりにあの子を止めてきてもらえませんか? わたしは足が悪くて、とてもあの子には追いつけません。あの子の父親は川の堤の責任者をしているため、そちらのほうに行っています。そのことをレミは過剰に心配しているんです。けど、あの立派な堤が切れるなんてことは、到底あり得ません。水の竜がこの町を護っているんですから。このままだと危ないなんて、あの子の考えすぎなんです。どうか旅の方。あの子を連れ戻してきてくれませんか? 夫の仕事の邪魔をされては困るんです」


 それを聞いたユヒトは、後方の二人の顔を見やった。ギムレもエディールも、無言のままうなずいてみせた。


「わかりました。僕たちで行ってみましょう」


 そうしてユヒトたちは、川のある方へと向かうことになった。

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