洞窟の夢 3
宿に入り、一度部屋へと落ち着くと、ユヒトは慣れない旅の疲れからか、すぐにベッドの上で、うとうととうたた寝をし始めた。
そこで、ユヒトは思いがけない夢を見ていた。
そこは暗く不気味な場所だった。
周囲には黒い岩肌の岸壁がそびえ立ち、その谷底のような場所の奥にはさらに暗い洞窟が口を開けていた。
ユヒトは怖くて仕方なかったが、どうしてもそこに行かなければならなかった。
その奥に大事なものがある。自分はそれを手に入れなければならない。
それがなんなのかはユヒト自身わかってはいなかったが、とにかく洞窟の中へとユヒトは入っていかなければならなかった。
恐ろしい。どうしようもなく恐ろしい。
洞窟へ一歩足を踏み入れただけで、ユヒトは恐怖で身が縮み、足がすくんだ。
絡みつくような暗闇。圧迫されそうな重圧感。
洞窟の奥にいる何者かに、ユヒトは怯えていた。
この奥に進んではいけない。これ以上足を踏み入れてはいけない。
ユヒトは全身でそれを感じ取っていた。
けれども、なぜだかそこから引き返すことはできなかった。
危険であることは承知で、それでもユヒトには奥へと進まなくてはならない理由があった。
奥へ奥へと歩みを進めていくと、ふいに人の声のようなものが聞こえてきた。それは洞窟の、ずっと奥のほうから響いているようだった。
誰だ。
そこにいるのは誰だ。
ユヒトはたまらない焦燥を感じ、奥へと進む足を速めた。
この声の持ち主に会わなければならない。絶対にそうしなければならない。
でなければ、一生後悔するだろう。
なぜだかユヒトはそう思っていた。
そして、再びその声がユヒトの耳に響いてきたと思ったところで、頭の上のほうから別の声が響いてきた。
「……ヒト。ユヒト!」
ユヒトが目を覚ますと、目の前でギムレがユヒトの名前を呼んでいた。
「起きろ。食事の用意ができたそうだぞ」
ユヒトは一瞬自分がどこにいるのか理解できず、ぼうっとそれを聞いていた。
「おい。ユヒト。大丈夫か?」
もう一度声をかけられて、ようやくユヒトはベッドから身を起こした。周囲を見渡すと、夕暮れに染まった部屋には、今はユヒトとギムレの二人しかいなかった。
「……ああ。すみません。少しぼうっとしてしまいました」
ユヒトは先程の夢の強烈な印象に、まだ自分の精神が引きずられていることを自覚していた。暗い闇の中、ユヒトはなにか大事なものを見つけようとしていた。それがなんなのかはわからない。けれどもそれは、どうしようもなくユヒトの心を揺さぶるものだった。
「なんだかちょっとうなされているようだったけど、よくない夢でも見ていたのか?」
「いえ。よくないというか、少し恐ろしい夢で……。でも、なにか重要な意味のあるもののようにも思える……そんな夢を見ていました」
「重要な意味のある? もしかしてまた風の竜が夢に現れたのか?」
「いえ。そういうのではないんです。それに、なにがどう重要かというのも、実は僕自身わからなかったりするんですけど」
ユヒトが言うと、ギムレは少し困ったように耳の後ろを掻いた。
「そうか。まあ、ユヒトがわからないんじゃ、俺がその夢の話を聞いたところでなんにもわからないだろうな。とりあえずそれはそれとして、まずはメシにしようや。エディールたちは先に食堂のほうに行ってる。俺たちもそっちに行くとしよう」