影との死闘 4
シャドーは、広場の中心で黒いオーラのようなものを身に纏いながら佇んでいた。その広場の周囲だけ、黒い霧のようなものに包まれており、それが太陽の光を妨げている。周辺では、何人ものエルフたちが倒れており、低いうめき声がそこかしこから響いていた。
駆けつけた魔法兵士たちは、一斉にシャドーに攻撃を仕掛けたが、シャドーは彼らの魔法の力をものともせず、代わりに黒い一閃を周囲に飛ばして次々に兵士たちを倒していた。
合流したギムレとエディールが広場の近くまでやってくると、彼らの視線の先に、仲間の姿が飛び込んできた。
「マリク! ミネルバ!」
シャドーから身を隠すようにして、建物の陰で双子のエルフが身を寄せ合いながら座り込んでいた。見ればマリクは全身にかなりの重傷を負っており、ミネルバがそんなマリクの負った傷に手をかざし、魔法の呪文を唱えていた。ミネルバもミネルバで、顔や手足に多くの傷を負っており、顔色は酷く疲労困憊して青ざめている。
「ギムレさんにエディールさん……。ご無事だったのですね」
「ああ、なんとかね。だが、きみたちのがかなり重傷のようじゃないか。……それは癒しの魔法?」
「ええ。ですが、私の魔力では回復が追いつきません。王宮の薬倉庫に行けば、もっと強力な魔法薬があるのですが……」
「王宮の薬倉庫か。あとで近くにいた兵士に取りに行ってもらうよう頼んでおこう」
「マリクのやつは気を失っているのか? もしかすると、シャドーのやつに?」
「はい。私たちも懸命に戦ったのですが、シャドーの力の前に、ここまで逃げるだけで精一杯でした。先程から魔法兵士たちが果敢に戦いを挑んでいますが、みなあの魔物の前に手も足も出ない様子。いったいどうすれば……」
ミネルバの言葉に、さすがのギムレも返答することができなかった。エディールも同様に難しい表情を浮かべて考え込んでいる。
「こういうときにルーフェンがいれば、なにか俺たちでは思いつかないような策を編み出したりしてくれるんだが……」
「そうですね……。ルーフェンちゃん、いったいどこにいるのでしょう」
それからミネルバは、もう一人姿のない少年の名前も口にした。
「そういえば、ユヒトさんは無事だったのでしょうか。あれからシャドーとの戦いの混乱でこちらのほうまで来てしまって、彼の行方を捜せていないままなのですが」
「では、きみたちもユヒトの姿をあれから見ていないのだな。実はわたしたちもなんだ。ルーフェンのことも気になるが、ユヒトは無事でいるだろうか。一応は王宮にいた兵士らに捜してもらうよう手配はしておいたが……」
彼らはユヒトの姿がそこにないことに、一様に暗い顔をした。
希望の少年。
風の竜の加護を受け、世界を救う運命を担った、まだあどけなさの残るかの少年の顔が、彼らの脳裏に飛来した。
彼ならなにかをやってくれる。彼ならこの危機を乗り越えて、運命を切り開いてくれる。
なぜかそんなふうに、彼の仲間たちは感じていたのだった。
第七章終了です。お疲れ様でした。