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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第三章 白い友人
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白い友人 4

 家の中はこぢんまりとした殺風景なもので、必要最低限の家具と物しか置かれていなかった。小窓からは夕陽が差し込み、白いセクの木でできた卓を赤く染めていた。

 家の家具が白かったせいもあり、ユヒトたちは始め、そこに獣がいることに気づけなかった。ユヒトがその存在に気づいたのは、物陰からこちらを見つめる双眸が、きらりと光って見えたからだった。


 寝台の下に、その獣はいた。ユヒトがそこをのぞきこむと、獣はなにかを察したように、そこから姿を現した。


 その獣は、確かに白かった。そして、とても美しかった。毛並みは艶やかで、セクの白さよりも透明感があった。体は小型の犬くらいの大きさで、長い尾を持っている。顔も犬のそれによく似ていたが、それよりもすっと長く、耳も長かった。そして、なによりも特徴的なのは、瞳の色である。その瞳は、金色に輝いていた。それは宝石のように美しく、見たものの心を虜にする色彩をしていた。


「これはなんと……」


「美しい……」


 ギムレとエディールが、ごくりと息を呑む。

 ユヒトはその場でしゃがみこみ、白い獣と視線を合わせた。吸い込まれそうなほどの美しい瞳は、なにかを訴えるようにこちらを見つめている。


『待っていたよ』


 その声は、突然聞こえてきた。

 ユヒトの胸はどくんと跳ねあがる。その声は驚いたユヒトの心をなだめるかのように、柔らかな声色でそのまま語りかけてきた。


『オレはきみが来るのをずっと待っていたんだ』


 ユヒトは声を発しているのが、目の前の白い獣だということを、その言葉で理解した。そして信じられない気持ちでその獣を見つめていた。


「き、きみは、もしかしてあのとき僕に語りかけてきたのと同じ……?」


 ユヒトはそのとき、ゴヌードとの戦闘のときに聞こえてきた声のことを思い出していた。ユヒトの記憶違いでなければ、今聞こえたのは、あのときのものと同じ声のように聞こえた。


『そう。オレにはきみの心の声が聞こえていた。だからあのとき語りかけたんだ』


 白い獣はそう言うと、ユヒトに近づいてきた。ユヒトは正面からその金色の瞳を見ることになり、少しだけ緊張した。


「そうだったのか……」


「ユヒト……?」


 ギムレがなにが起きているのかわからないといった様子でユヒトを見つめた。


「大丈夫です。今、僕はこの獣と話をしているんです」


「この獣と……?」


 ギムレはなおも不思議そうにしていたが、ユヒトはそれには構わず、白い獣と向きなおった。


「きみはいったい誰? なにものなんだい?」


 ユヒトがそう問うと、白い獣はほんの少し目を細めてみせた。


『オレはルーフェン。きみと同じ、風に愛されしものだよ』


 ルーフェンと名乗ったその獣の言葉に、ユヒトは目をぱちくりとさせた。

 風に愛されしもの。それは、ユヒトと同じように風の声が聞こえるということなのだろうか。


『そして、これからはきみの相棒となる存在さ』


 そして白い獣ルーフェンは、ユヒトの手に頭を擦りよせた。温かい体温がそこから伝わり、ユヒトは思わずルーフェンの頭を撫でた。


「なんということだ。その獣、ユヒトに懐いているようだぞ」


「なんだ。意外に人懐こい性格なんだな」


 ギムレが安心したようにルーフェンに手を伸ばしかけると、ルーフェンは途端に牙を剥き、ギムレを威嚇した。


「うわっ! な、なんだよ。こいつ牙剥いてきたぞ!」


「ギムレでは駄目だということだろう。どれ、このわたしならば美しいもの同士、気も合うに違いない」


 エディールもそう言って、ルーフェンに近づこうとしたが、やはりギムレと同様ルーフェンの威嚇を受けていた。


「はっはっは! やはりお前も嫌われているじゃないか。どうやらユヒトにしか心を許さないようだな」


「なんという失敬な。まあ、美しいものはそのくらい気位が高いほうがちょうどいいには違いないが……」


 ルーフェンのその態度の変わりように、ユヒトは少し面食らったが、再びルーフェンがユヒトに擦りよってきたのを見て、なにやら嬉しくなった。


「ギムレさんにエディールさん。この獣の名前はルーフェンというそうです。そして、どうやら僕に一緒に連れていってもらいたいようです」


「そうなのか。しかし、さすがに勝手に連れていくわけにもいかない。ここの主に話をして許可をもらわなければならんだろう」


「そうだな。厳重な鎖もつけられているしな」


 エディールの言葉通り、ルーフェンの首には鎖が巻かれていた。そしてその鎖は寝台の足に括り付けられている。その様子から見ても、ルーフェンを勝手に外に出すわけにもいかなさそうだった。

 すると、ルーフェンがこんなことを話し出した。


『ユヒト。この鎖には、術がかけられている。普通ならばこの程度の鎖、引きちぎってしまうところだが、世界をさまよってここの森で力尽きてしまった今のオレにそんな力は残っていない。簡単な術だが、それをここの家の主に解いてもらうしか、オレは自力でここから逃げ出すことができない』


「そうか。じゃあ、その術さえ解くことができたらきみは自由になれるんだね?」


『でもユヒト。ここの主は一筋縄ではいきそうにない人物だ。そう簡単に術を解くようなことはしないだろう』


「でも、そうしないといけないんだろう? いいさ。まずはその人の帰宅を待って、話をしてみることにしよう」


 そうして三人は、外に出て家の主が帰ってくるのを待つことにした。

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