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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第三章 白い友人
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白い友人 3

 ホロドムは、抜けてきたアカエの森から西に続く荒野を越えたさらにその先の、白の森の麓にあった。

 ユヒトたちがそこにたどり着いたのは、その日の夕方近くになったころである。

 ホロドムの後ろにそびえているのは白の森。その森には、その名のとおり、白い木々が立ち並んでいる。その木はセクと呼ばれ、普通に木材としても使われるが、粉にして水を混ぜて乾かすと、石のように固くなる性質を持っている。その性質から、この国ではセクは建材にかかせない材料となっていた。そして、ホロドムの村人たちは、それによって生計を立てていた。

 しかし、そのセクも、風の竜が活動を停止したことにより、生命力を失いかけているようだった。

 本来持つ鮮やかな白さよりも、かなりくすんだ灰色に近い色のセクの木があちこちに見うけられる。その木はやはりどこか元気がないようにユヒトには思えた。


「まずはその、村のはずれにあるという呪術師の家を探さなければならんな」


 村の入り口付近で三人が村の様子を見渡していると、ちょうどそこに幼い少年と少女が走ってくるのが見えた。


「ちょっときみたち。訊いてもいいかな?」


 ユヒトが呼び止めると、二人はきょとんとした顔をしながら立ち止まった。


「この村に、白い獣のいる家はあるかな?」


 その質問に、少年と少女は顔を見合わせた。


「それって、あの変わった白い犬のこと?」


 少年の言ったその言葉に、今度はユヒトのほうが驚いた。


「犬?」


「うん。ハルゲンさんとこにいる犬のことでしょ? この村でもちょっと噂になってる。僕たちもこの間こっそり家をのぞいてみたんだ。そしたらいたよ。白い犬が。ちょっと変わってるけど、すごく綺麗な毛並みをしてるんだ。でも、ハルゲンさんに見つかってすっごく怒られちゃった」


 少年の言葉に、ユヒトは確信した。きっとそれが風の竜の言っていた白い獣に違いない。


「ねえ。きみたち。もしよかったら、そのハルゲンさんの家に案内してくれないかな? 僕たちも、その白い獣に会ってみたいんだ」


 ユヒトが言うと、少年と少女は喜んでと言わんばかりに大きくうなずいてくれた。そして、二人はさっそく前を走っていった。


「無邪気でいい子供たちだ」


 ギムレはそう言って笑ったが、エディールはなぜかむっつりと黙り込んだまま、難しい表情を浮かべていた。

 少年たちについて村のはずれのほうまでやってくると、セクの木々に囲まれるようにして、その小さな家は建っていた。家の壁はもちろんセクを使って作られたもののようで、白く光って見える。


「ここだよ」


 少年は家の扉の前で立ち止まると、こちらを振り返った。少女も同じようにその横に立っている。


「ありがとう。助かったよ」


 しかし、少年と少女はじっとユヒトたちのほうを見つめたまま、そこを立ち去ろうとはしなかった。


「?」


 ユヒトは少年たちのその行動が理解できず首を傾げていたが、ギムレが彼らに近づいていって「ご褒美だ」とそれぞれの手になにかを握らせると、少年たちは喜んでその場をすっと離れていった。


「ギムレさん。あの子たちになにを?」


 子供たちの姿が見えなくなってから、ユヒトはギムレに問いかけた。するとギムレは苦笑しながら言った。


「一セリム(シルフィアで使われる通貨の単位)ずつ、お礼として渡した。きっと旅人に親切にすることで、小銭を稼ぐよう教育されているんだ。まったく、抜け目がないよ」


「ふん。だから子供というのは嫌いなんだ。こちらが甘い顔をしてればつけあがってくる」


 エディールはそう言って、大きく息を吐いた。


「エディールさん。そんな言い方はないですよ。あの子たち、いい子だったじゃないですか」


「ユヒト。あの無邪気に見える子供たちの本当の姿は、身勝手で小狡い小悪魔のようなものだ。油断していると、すぐに足元をすくわれる。ああ、あの姿を思い出しただけでむしずが走る。やはりわたしは子供が苦手だ」


 エディールはそんなことを言って、体中を掻きむしった。そんな彼の姿を見て、ユヒトは思わずくすりと笑いを漏らした。


「エディールさんにも苦手なものがあったんですね。でも、それはエディールさんの主観でそう思うからですよ。僕はやっぱりあの子たちはいい子だと思いますよ」


「そうだぞ。エディール。お前はもう少し子供というものに慣れたほうがいい。これから世界を救おうとしているものが子供嫌いだというのは、どう考えてもまずいだろう」


 しかし、エディールは顔に渋面を作ったまま、それに同意することはなかった。


「すみません。いらっしゃいますか?」


 ユヒトは家の前まで進むと、扉をこんこんと叩いた。しかし反応はなく、家の中からは誰も出てくる気配はない。


「留守なのでしょうか」


「そのようだな。しかし、ここで無駄に時間を浪費しているわけにもいかん。とにかくその白い犬とやらが本当にここにとらわれているのかどうか、確かめておこう」


 ギムレはそう言うと、ユヒトをさがらせた。そして自分が扉の前に立つと、おもむろにその扉を開いていった。鍵はかかっていなかったようだ。


「い、いいんですか? 留守中に他人の家に入り込んで」


「よくはないだろうが、悠長にここで家人を待っている時間が俺たちには惜しい。まず、白い獣の姿をこの目で拝んでおくくらいは許されるだろう」


 ギムレは悪びれるふうもなく、さっさと家の中へと入っていってしまった。


「まあ、こうなっては一人入るのも三人入るのもそう変わらないだろう。行くぞ、ユヒト」


 エディールまでもが家の中へと入っていってしまったので、ユヒトも少しだけ迷いながらもその家へと足を踏み入れることにした。

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