Mission1-7
「あんたさっき、博士になんて言われたの?」
と相棒のミアは俺に並走しながら、俺に問いを投げかける。
研究スタッフや、その他大勢の職員がなだれ込むように逃げていて、しかも雑音が多い場所では聞こえないと思ったので、取りあえずミアには”また、後で教えるよ”といい、侵入者のいるブロックまで俺たちは逆走している。川下りの逆バージョンなので、川登り、滝登りのような感覚である。
それにしても、みんな自分大事であるので、任務最優先の俺の道を開けることなく、とめどなく流れ込んでいる。正直言ってしまえば、きついな~。
人ごみが苦手なのであるが、今はそんなことを言っている場合ではないだろうな。
「ミア‼ 俺の肩に乗れ‼ 飛ぶぞ‼」
分かった、とミアは言い、俺の肩にミアはしがみつくと、俺は潜入道具の一つである、反重力装置のスイッチをオンにした。
反重力装置【グラビティ】は、発動した対象の人物のみに、反重力場を与える装置である。
俺は、天井を走って目的地へと向かう。
ミアは必死に肩にしがみついている。
爪が引っかかって、少し痛いが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「振り落とされんなよ‼ ミア‼」
俺は超特急で、侵入者のいるエリアに向かった――――
到着すると、そこには数名の侵入者の影があった。
「やあ、招かれざるお客様方……本日は、どのような用件で?」
俺はひょうきん者のような口調で侵入者に言葉を浴びせた。
Aと仮に名称を付けた奴が、その言葉に反応したようで、ピクリ、と眉を寄せている。
侵入者の特徴を言えば、
呼称Aの場合:タキシードにオレンジ色のツンツンした髪型の怖そうなお兄さん
呼称Bの場合:色っぽく胸元をオープンしている巨乳で黒髪のブスな女性
呼称Cの場合:黒いコートをは煽って葉巻を吸っているチョビ髭のダンディなおっさん
呼称Dの場合:レザースーツを着ている貧乳の白髪の美女
である。
「これはご丁寧にお迎えありがとうございます、えっと……確かコードネーム:ジェットだったかな? この基地に数人しかいない、戦闘要員であり、警戒すべき相手……うーん、クレイジー」
Cはそういって、葉巻を床に捨て足でそれを消している。
一応ここ禁煙だから、マナーを守ってくれるのはありがたいけど……端に置いてある灰皿使えよ……
するとBはセクシーポーズを取りながら、まるで何かを訴えかけるかのような目でこちらを見て
「ねえん、僕~お姉さん達にぃ~、教えてほしいことがあるんだけど~ぉん~」
「それは何でしょうか? ブス」
「ブス‼ ブスですって? あのガキ今、あたしの事ブスって言った?」
と顔を真っ赤にして、こちらを指さしながらBはDに聞く。
Dは俺の方を見て、口パクで
”こいつうざいよな。 君の気持ちは分かるよ。 こいつチームじゃなかったら殺ってるもん”
と言ってきた。
敵さんの中にも、話が通じるものもいるものだと感心しつつ、警戒は怠らない。
”教えてほしいこと”と言ったという事は、何かを探している、という事であろう。
「教えてほしいことねぇ……格下の俺なんかが知っている情報なのかな~?」
なあミア、と俺は相棒に声をかける。
ここでAが初めて口を開く。
「貴様とじゃれあっている必要もなければ、ここにとどまっている理由もない。 それに、貴様の口ぶりからターゲットは、この基地のどこかにいることが分かった。 それさえわかれば、捕獲または殺害することは容易だ。 それすらままならないようならば、我々はそもそもこの場にはいない。 そもそも――――」
と饒舌に話し始めたA……怖いな~……
「―――――という訳で、我々の目的は天野翔琉博士の捕獲、叶わなければ殺害だ。 我々の障害になるものは全て消す。 それが我々、独立暗殺部隊【荒野の熊】の任務だ」
独立暗殺部隊【荒野の熊】とは、任務遂行のために、ターゲット以外の殺人はご法度と言う、比較的良心的な暗殺部隊である。
まあ、良心的と言っても、暗殺なんてやっているのだから、非人道的ではある――――
「なるほどね―――まあ、察しはついていたのだけど」
「では、はいそうですか―――と、道を開けてもらおう」
Aは、俺の元へと歩き始める。
正面突破とは――――舐めたことをしようとしているね。
「行かせないよ―――」
そう言って、Aに向かって俺は走りだし、飛び蹴りを食らわせる。
あれ?
案外あっさりと、決まったな。
「ふふふ―――作戦通り」
Aは消えた。
どういう事だ?
Dが口を開く。
「おやおや、言い忘れていたけど、これは実体のあるホログラム―――本物はすでに、天野翔琉博士の元へと向かっているところ。 ご苦労様でした」
そして、ホログラムたちは消えた。
しまった!
やられた!
「ミア‼ 急いで、博士の元へ戻るぞ‼」
俺は急いで走る。
足が擦切れるような勢いで、駆け抜ける。
うかつ。
初めての失態。
今は、そんな事を悔やんでいるわけにはいかない‼
今最優先なのは、天野翔琉博士の保護だ‼