Mission1-4
火星基地「女神」―――――世界安全保障連合軍総司令部がここにある。
世界安全保障連合軍(通称:WSO)とは、地球で起きている戦争である第1次地球大戦を終結させるべく、世界中の優秀な人間を集めて組織した反戦争組織である。
秘密結社などと言うものではなく、国連の組織に該当する公式的で公な組織である。
俺はその中でも、諜報特殊任務専門課に所属している。
この課は、戦争を暗殺などの任務によって強制的に終了させようとしている機関で、WSO内で最も汚れ仕事を背負う部署である(その分、給料もいいのだが……)。
改めまして、俺の名前はツバサ。名前は祖父の名前から取られており、祖父は初代WSO総司令官である。
そんな経歴なので、祖父のコネで入隊したのではないか? と言う疑問があがると思うが、そんなことはしておらず、自分自身の努力が今を作り出していると自負している。
俺の所属している課には、総勢10名のスタッフのみであるが、全員WSO内で高位の地位であり、総司令官の次に偉い軍事司令官が俺の隊長であるルートである。
他の人たちも地位は高いが、戦闘技術が低いので、主にバックアップがメインの仕事である。
ただし例外として、ルート・俺・そしてもう一人、コードネーム:白百合は戦闘要員であるので、戦闘技術はWSO内でTOPの成績である。
さて、そんなこんなで俺は、先の潜入任務で保護した天野翔琉博士が眠りについている結晶を本部に届けた。
天野翔琉博士―――――もし本人であれば、年齢は100歳を超えているはずなのであるが、どういう訳か失踪当時の中学生の姿のままである。
この博士は、今から数十年前に人類の不老不死化の夢を達成させた要因を作ったとされる少年で、当時中学生の身ながら、様々な研究を設備が不十分ながらも行っており、ある日起きた爆発事故に巻き込まれて行方不明になるが、数年後に発見、しかし再び行方不明となりそのまま発見されることは無かった。
彼が最後に立ち寄ったとされる廃校跡地に、彼が両親などにあてた手紙が残されていた。
その手紙の中に使われていた紙は実は彼が書いた論文の1部分で、のちにある研究機関にてその理論が正しいことが裏付けされて、不老不死化の薬の開発に成功したのである。
世界化学学会は、天野翔琉に[人類の永遠の夢を達成させた]として、ノーベル特別賞(世界で天野翔琉のみが持つ特別な勲章)を授与した。
このことによって、世界中の人間は全員天野翔琉を知っているほど、彼は有名である。
天野翔琉の残した論文は全部で7つあり、その7つすべてが見つかるということはなく、いまだに不老不死の謎について書かれている1枚のみしか発見されていない。
もし他の6枚を手に入れることができれば、世界政治をひっくり返すほどの権力を手に入れることも不可能ではないということが噂されており、このことから天野翔琉の論文の事を「皇帝論文」と呼ぶ人もいる。
それだけ強大な知識を持った人が今になって現れるとは……それにこの人は俺の――――――
火星基地の中にあるカフェテラスで地球を眺めながら、コーヒーでも飲みながら俺は考え事をしていた。
すると、白衣を着た女性が近づいてきた。
「解析が終わったよ、ジェット君」
そういって、研究チーフのミランダさんが、俺の元を訪れてきた。
ミランダさんは、研究スタッフのリーダーで、俺の戦闘指導の教官でもある(俺の数十倍強い)。
さて、そんなミランダさんが持ってきた資料には驚くべきことが書かれていた。
「ミランダさん……これは?」
思わず聞き返してしまうほど、ありえないことが書かれていた。
それは、天野翔琉博士の肉体は、全くと言っていいほど成長しておらず、かつ不死になる薬なども一切使っていないらしい。更に、周りを覆っている結晶は空気の塊で、人体に全く無害であるということが判明した。また、結晶内から天野翔琉博士を救出する作業は始まっているらしく、あと1時間ほどで結晶内部から博士を救出できるらしい。
「しかし、不思議よね~」
そういってミランダさんはペンをくるくると回している。
確かに、空気を結晶化させてその中で生物が生きているだなんて、普通はありえない事である。しかしそれ以上に不思議なのが
「何故博士は老化していないのでしょうか?」
俺はミランダさんに聞くが、ミランダさんは首をかしげたまま考え込んでしまっている。
何故博士は、老化していないのか―――――それは現段階の科学や現象では説明できないということなのだろうか?
「お? 相変わらず、考えモードになると固まるんだなミランダ」
そういいながらこちらに近づいてきたのは、ルート隊長であった。
「これはこれはルート隊長。 今は司令室を離れても大丈夫なのですか?」
「ああ、その心配はいらないよミランダ。 今のところ発令中の任務は何もないわけだし。 ところで、何を悩んでたのかな?」
「ええ、実は――――――」
何やらガールズトークが始まりそうだったので、俺はそそくさと自室に戻ることにした。
「お帰り、ツバサ♪」
自室に戻ると、子猫のミアが迎えてくれた。
ミアは遺伝子操作されて作られた猫で、小学6年生程度の知能を持っている子猫なのだ。
ちなみに♀である。
「ただいまミア。 なんか疲れちゃったよ」
そういってベッドに倒れこむようにダイブした。
直後に、ミアが俺のお腹に座り込んだ。
「止めろよミア。 お腹きつい」
「大丈夫よ、私くらいの体重なら軽いものでしょ?」
「いや重……痛ててててて」
重いと言おうとしたら、爪立てられちゃった。
お腹にグサグサと、爪が食い込む。
「レディーに、重いって言うのは禁句でしょ? 全く……デリカシー無いわね」
そういってミアは俺のお腹の上から、いつもの定位置の椅子に座りに行った。
「しっかし、あんたが疲れたなんて言うのは日常茶飯事だけど、今日は特に疲れてるわね。 何かあったのかしら?」
ぺろぺろと、ミアは毛並みを整えている。
俺は背中を壁へとよせて、楽な姿勢を取ってミアの方を向く。
「実は今日、天野翔琉博士が見つかったんだ」
その言葉にミアはびっくりした様子で、ひげと尻尾を硬直させている。
「嘘~、あの天野博士が見つかったんだ。 猫業界でも有名な人間よ。 あの人、動物が好きで、優しくしてくれるって、ジジ様達が話していたもの」
「猫業界でも有名なんだ――――」
博士本当に、方々から好かれるんだな。
あれだったら、虎とかにも好かれてたりして。
まさか、さすがにそれはねぇか。
「でもこの時代で博士が発見されるなんて、ある意味皮肉よね。 博士の考えた理論が世界を狂わせたに等しいこの世界で、彼が生きていくには色々と荷が重いんじゃないかしら?」
「まあ、そうだろうな。 実際、博士が戦争の原因を作ってしまったのかもしれないし……それでも、俺はあの人の味方でいたいな。 それが祖父が初めて俺に頼んだことだし……」
「そういえばあんたの爺さんって、確か――――――」