Mission6-1
時を監視する時の監視者ディル。
彼女は、油断していた。
確実に相手を倒せたと、そう判断してしまっていた。
もちろん周りの登場人物たちもみな、そう錯覚してしまっていたことが、本来ならば誤りであり、過ちであったと言わざる負えない。
さも、世界は自分の御都合のように回っていると、勘違いしてしまっていたのだ。
だが、現実的な意味合いを込めれば、こういう解釈が正しい。
【人生、そう甘くない】
だからこそ、その人生を甘く見てしまった彼女は、刺され、地に伏しているのだ。
「うふふふ……ディル……天野翔琉に尻尾振ってる雌豚女が……僕私の天野翔琉に気安く尻尾振るんじゃねーよ、クズ……」
そう言って、何度も何度も夜弥はディルを蹴る。
傷口付近を蹴られ、刺された部分からは血が滲んでいる。
「白百合!武器を!」
と、俺は彼女の名を呼ぶ。
白百合が、俺に向かって武器一式を投げようとした瞬間、2匹の獣が白百合目掛けて攻撃を開始した。
「「邪魔はさせないよー」」
そう言って2匹一斉攻撃で、白百合はぐさりと、巨大な光の剣によって刺された。
ように見えたが……。
「「なんだと!」」
2匹の獣の剣には、白百合の代わりに布が刺さっていた。
「変わり身の術、成功っと」
白百合は、気がつくと俺の前にいた。
流石は、近接戦闘のプロ……伝説上の忍の技まで……。
「ほらジェット、いつまで寝てるの?さっさと、殺るわよ……」
「やれやれ、物騒な女だな……」
俺は彼女から拳銃を受けとり、白百合の隣に立つ。
そして、俺たちは獣どもに向かってこう言った。
「「任務開始……」」
そう言って戦闘を開始したのだった。
「アハハハ、ディル、ディル、ディル‼」
もう、肉片とまで言える状態の女の死体を蹴り続ける斬神夜弥。
蹴る、蹴る、蹴る……。
「アハハハ……は?」
斬神夜弥は、目を丸くしていた。
そして、頭の上にはクエッションマークが浮かび上がっていたことだろう。
何故なら、彼女がずっと蹴っていたのは、なにを隠そう……彼女が脱ぎ捨てた本体である、獣に殺された方の斬神夜弥の肉体だったのだから。
「自分を殺して、楽しいかな~?夜弥ちゃーん」
と、ディルは全くの無傷で、彼女の肩にポンと、手をおいていた。
夜弥は、すかさず彼女を刺し殺そうとするが、再び自らの元の肉体を刺していた。
「え?あれ?」
夜弥は、戦慄していた。
時間を操る魔法……ディルが、それを使えることを、天野翔琉クローンの記憶から、それは知っていた。
クローンの記憶は、オリジナルに起因する。
故に、クローンが完璧に近づけば近づくほど、オリジナルと同等の記憶を持っているものだ。
遺伝子レベルの記憶……そこから読み取っていたディルとは、明らかに強さの次元が違った。
「夜弥ちゃーん、大丈夫かなー?」
「ディル‼」
夜弥は、叫ぶが声がするだけで、何も居ない。
また、先程までいたライたちの姿さえも見失ってしまっていた。
「時空間魔法:独離墓地……私は、時と空間を操る【時の監視者】。貴女ごときを、強いては偽物の翔琉を封じ込めるくらいならば、造作もないことよ……」
「ディル……甘く見すぎじゃないかな?天野翔琉には、魔法が通用しないんだよ」
「確かに、天野翔琉には魔法に対する強力な耐性が備わっている。もちろん、それはオリジナルの翔琉だけどね……」
「ふん。クローンだから、その耐性は弱いのか?ってことか?んなら、絶対滅亡操作で、魔法を拒否してしまえばいい話じゃない」
「やってみなさいよ、天野翔琉が好んで使う拒否系魔法……絶対滅亡操作を」
夜弥は神魔法の光を凝縮させて、絶対滅亡操作を発動しようとした……が。
神魔法の光が高密度になった瞬間、神魔法は彼女に牙を向いた。
「な、な、なんなのこれ!」
純白の光は、天野翔琉……いや、斬神夜弥を包み込んでいく。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ熱い熱い熱い熱い熱い‼光が光がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」
「神に欺いた、罰なのかもね……斬神夜弥。神魔法とは、神をその身に宿し、神が認めた者が使うことのできる魔法……例え、偽者だろうが、神魔法を使う以上……神に認めさせなければならない。あなたには神に認められる要因が、皆無である。故に、神の光によって、戒めと、魂の浄化を浴びせられるでしょう……」
「嫌だ嫌だ嫌だ‼こんな、こんなことで、こんなことで、この僕私が……」
みるみると、光の中に身体を吸い込まれていく斬神夜弥。
そして、気がつくと彼女は光の中に消え去ったのだった。




