Mission5-7
獣どもは狂ったように攻撃してきた。
まず、アダム……彼は、光を纏って、高速で移動して、攻撃を放つ。
イヴ……彼女は、光の波状攻撃と、回復役で、骨折程度なら10秒以下で治してしまうほどの力を持っているらしい。
というのも、あの戦闘が始まってから既に1時間くらい経過しているのだ。
「はぁ……はぁ……」
息を切らして、エンやヒョウは獣を睨み付けていた。
フィリは、地面になにやら魔法陣を書いて、必死に呪文を早口で唱えていて、その近くでファイが彼女を守っていた。
そして、俺はといえば……。
「武器……」
愛銃もなければ、遠距離攻撃の道具もないこの状況……俺は、彼らを見守ることしかできなかった。
「無力だな……」
普通の肉弾戦では、俺はたぶんこの中だと中間くらいの強さだ。
だが、中間くらいの強さならダメなんだ。
参加したところで、彼らの邪魔をしてしまう。
くそ、どうすれば……。
「……ジェットくん……」
「ん?フィリ……なんだ?」
「……これを貸してあげる」
「……なんだこれ?」
Y字型の棒切れに、輪ゴムをくっつけた、簡易型のパチンコだった。
「飛び道具であれば……あなたは、なんでもいけるはずよね?」
「まあ、一応……」
「じゃあ、よろしく……」
そういって、フィリは中断させてた呪文を再び詠唱し始める。
「……別たれし楔を施し、兆しの長よ……時を操り、時を奪う者よ……」
「なんだか、わからねーけど、ありがとうフィリ。これさえあれば……」
援護はできる。
よし、やるか。
「ふん、そんな棒切れでなにを……‼」
と、油断していたアダムには、1発の弾丸がぶち当たった。
ぐぅっと、当たった箇所である腕を押さえながら、彼は空中で一時停止した。
「アダム‼待ってて、今治す……?」
「まて、イヴ。今、治されると留まった弾丸が埋まったまま傷が癒える……」
「でも……きゃ!」
バンっと、イヴに弾丸が当たり、彼女はその場に膝をついてしまう。
「はぁ……はぁ……なぜ?」
「なにをしているんだ」
「「ジェット‼」」
獣どもは、棒切れで作られた簡易型のパチンコで自らが撃ち落とされている事に苛立っていた。
おやおや、随分と人間らしいことでっと。
「いや、なに……単純なことだ。俺は飛び道具使い。遠距離武器なら、なんでも使える男だ。そして、幸いにも……ちょうど手元に良さそうな弾丸があったから、それを撃ってるだけさ……」
「「バカな!お前の服や武器は押収した!なぜ、そんな事が……」」
「おいおい、服や武器を……引いては、体外品だけを押収した程度で、俺の道具を全部取れただなんて、思ってたなんて、浅はかだな……暗殺者は体内にも武器を隠し持ってるが、セオリーだろうに」
「体内にって……まさか……」
俺は喉の奥に手を突っ込んで、オエッと吐瀉物とともに、袋を吐き出した。
そこには、数十発ほとの弾丸が入っていたのだった。
「眠る直前に、咄嗟に飲み込んでおいてよかったぜ……さてと……んじゃ、フィナーレってことで」
弾丸を2発同時に打ち出そうとした瞬間……天野翔琉を覆っていた結界が破れた。
「ん?何事だ?」
「私たちは解除してないわよ?」
「……これは、絶対滅亡操作。ってことは、まさか……」
エンは震えていた。
そして、結晶が割れ……中から、天野翔琉が現れたのだった。
目を閉じ、ゆっくりひたひたと歩く姿は、まるで寝起きの中学生のようだった。
だが、明らかになにか違う。
あれは、人間とは呼べない……。
あれは、人間じゃない。
あれは、天野翔琉であって天野翔琉ではない。
「お前は誰だ……」
と、俺が言うと、天野翔琉と呼ばれた彼は答えた。
「俺の名前は……俺の名前は……うふふ……いいいえ、私の名前は斬神夜弥。天野翔琉に生まれ変わった、新しい天野翔琉よ♪」
斬神夜弥という男……いや、女は異常だった。
公式記録でも、そういう風になっている。
天野翔琉に憧れ、天野翔琉を憎み、天野翔琉を愛する親友的なポジション。
当時の斬神夜弥を知るものの正眼によれば、彼は天野翔琉しか目に入っていない、異常にして異常なストーカータイプの人間だったらしい。
実際、天野翔琉の悪口を言った者たちへ制裁を加えて、何度も何度と少年院に連行されかけた程のモンスターであるらしい。
さて、そんな斬神夜弥は、実は女だということは、天野翔琉以外に、彼女の両親以外誰も知らなかったことだった。
斬神夜弥は女で、天野翔琉に恋い焦がれるあまりに、天野翔琉になりたいとまで思うようになった。
天野翔琉天野翔琉天野翔琉天野翔琉天野翔琉天野翔琉……。
彼女の頭のなかは、常に天野翔琉で一杯だった。
だが見てみろ……彼女は先程殺されはずだった。
それなのに、なぜ今目の前に立っている天野翔琉は自らを斬神夜弥と呼ぶのだろうか。
また、どうして獣どもは頭を垂れて、ひれ伏しているのだろうか。
そして、どうして俺たちは一瞬でやられてしまったのだろうか。
まるで意味が分からない。




