Mission5-6
狂気にして恐怖のマッドサイエンティスト……斬神夜弥。
行方を眩ませ、幾多に及ぶ非人道的な殺人的破滅的実験を繰り返してきた、あの人類史上でも類を見ない狂った人物は、今……こうして目の前で殺されてしまった。
それも、恐らく自らが生み出したと思われる2匹の獣の手によって……。
「うふふふ……やったね、アダム」
「うふふふ……そうだね、イヴ」
「「ようやく始末できたよ、この女を」」
血まみれの手をよそに、2匹の獣は互いを見つめ合いながら、不気味な笑みを浮かべていた。
ポツポツと、手からこぼれ落ちる赤い滴が静寂になってしまった空間に響く。
「……ジェットくん。どうやら、こいつらのようだよ。【天野翔琉】を守護している獣は……」
エンは冷静に場を見つめて言ったものの、正直彼の声は耳に入ってこなかった。
何故なら、突然として起きてしまったこの惨状に対して、まだ頭の処理が間に合っていないからだ。
唐突にして、突発……。
「夜弥……?」
なんというか、不気味なまでに、こんなにもあっさりと殺されるだなんて有り得ない。
あの、斬神夜弥が……あの狂気の恐怖のマッドサイエンティストが、こうも簡単に殺られるなんて、有り得ない。
「ん?あー、これはこれは天野翔琉博士の弟の孫くん。それと、炎の大魔導士にして情報屋のエンくん」
「私たちにとっては始めまして、なのだろうけど、あなた方の事は知ってるよ」
「「始めまして」」
アダムと呼ばれる獣は、男。
イヴと呼ばれる獣は、女。
それぞれが、異なる容姿、異なる獣を混ぜられたようだった。
アダムは、龍をモチーフにした獣のようで、人型の姿に龍の尻尾……そして、珊瑚のような角を生やし、旧ローマ時代のような布を身体に巻き付けたような服装だった。
うって代わり、イヴは、まるで噂に聞く天使のような姿で、美しい純白の羽に、美しき真っ白いドレスを身に纏う女だった。
だが、彼らの服装は夜弥を殺したときについた返り血でドロッと、真っ赤に染まっていた。
「……さて、んじゃ天野翔琉博士は俺たちが……」
「私たちが」
「「貰っていくからね」」
そういって2匹は、結晶の中で眠りにつく天野翔琉博士の元へ歩み寄っていく。
だが、その瞬間、天野翔琉の結晶の周りには草木と氷……そして、炎が立ち込め、あたかも結界のように、結晶を覆い尽くす。
「……そうはいかないわよ、獣ども……」
後ろからそう声がした。
振り向くとそこには、ボロボロに引き裂かれた服装の女性が3人立っていた。
「フィリ!ヒョウ!そして、ファイ!」
炎の大魔導士エンは、そう彼女たちを呼んだ。
どうやら、お仲間のようだな。
「おうおう、旦那様。いたいた。もう、探したんだからね♪」
ファイと呼ばれる女性は、笑顔でにこやかにエンの方へかけてきて、彼を抱き締めるのかと思えば、腹パンを食らわせた。
だが、エンの強固な腹筋には勝てなかったようで、まるで鋼鉄を叩いたような音がした。
「おう、ファイ。無事でよかったぞ」
「相変わらず、冷静なんだから……んで?旦那様の愛しき友人である天野翔琉様は、あそこの結晶で眠ってて、今あそこで指を加えてる馬鹿そうな獣どもが強奪しようとしてたから、咄嗟に私たちで魔法をかけて防いだんだけど、正解だったかしら?」
「うん。はなまるをあげるよ……よしよし」
そういってエンはファイの頭を優しく撫でた。
ファイは、これ以上ないってくらいの赤みを帯びた笑みを浮かべて、えへへと言っていた。
戦場でリア充見せつけるとか、こいつらすげぇバカップルなのでは?
「あなた様が、ワタクシの将来の夫の弟のお孫様なのですね」
「っと、うぉ!ビックリした」
純白の肌をした女性は、すっと俺の前にやって来てにこりと微笑む。
「始めまして。ワタクシは、ヒョウ。氷の大魔導士にして、絶滅危惧種族である【氷の眷族】の者です。以後、お見知りおきを……」
そういって、彼女からは凄まじい冷気が流れてくる。
寒い……。
エンさんから、借りていた服がなかったら、凍死してもおかしくない寒さだ。
「おや、あなたがそうなのですね。ライ様の想い人であらせる天野翔琉様の……」
「えっと、あなたは?」
「始めまして。私はフィリ。精霊族の王女にして、雷の大魔導士ライの弟子よ。よろしくね」
「あ、うんよろしく……」
と、俺は彼女と握手を交わした。
あ、そうだ名乗るの忘れてた。
「えっと俺の名……」
「うんうん。理解したよツバサくん。いや、ジェットくんと呼ぶべきなのかな?」
「え?」
言う前に答えられた?
「あー、ジェットくん。フィリは、精霊族……彼女は、触れた相手の心を読むことができるんだ」
「へぇ……そうなんですか」
心が読めるってスゴいな……。
「うんにゃ。そうでもないのよ、ジェットくん。見たくないこととか、知りたくないこととかも全部聞こえちゃうってのは、嫌な能力なのよ」
そうなんですか……ってか、触ってる間は、心で思ったことに対して返してくれるんですね。
なんとも、便利なのか不便なのか……分からないや。
「「おいお前ら、そろそろ雑談は終わったか?」」
そう獣たちは、俺たちを睨み付けて言う。
あからさまな殺気が放たれてるな。
「ほらほら、僕の天野翔琉を……」
「私の天野翔琉を……」
「「返してもらおうか」」
そういって彼らは、獣のごとく、一斉に襲ってきたのだった。




