Mission5-4
ムー大陸内のとある神殿内。
ここに俺と炎の大魔導士エンは捕らわれている。
しかし、参ったな……。
武器も服も取り上げられてしまって、こちとらすっぽんぽんだよ。
こんなところ白百合に見られたら、笑われちまうよ。
「どうやって、抜けっかな……」
「……ふぅ。よし、君。少し壁際に寄って、身を伏せていなさい。今から、本来の自分の姿に戻るから、衝撃で吹っ飛ばされないようにね……」
本来の自分の姿?
もしかして、彼は人間ではないのか?
「すみません、動けないんですけど……身体が痺れてて……」
「あ、そっか。じゃあ、やめよう。力任せに壊そうと思ったけど、君が怪我する可能性があるなら、溶かすことにするよ」
そういって、エンの方から熱気が伝わってくる。
まるで噴火したての溶岩と対峙しているような気分だ。
前に訪れた【タルタロス】なんか、非じゃない。
暑いじゃなくて、熱い。
熱気が伝達してきて、壁や地面や……俺を拘束している道具にまで熱が……って!
「熱っちぃ!!!熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い‼エンさん‼エンさん‼熱い‼」
「おっとごめんよ。だけど、ほら♪」
と、エンはドロッと溶けた手錠をこちらに見せつける。製鉄関係の仕事でもしていない限り、あんなにも赤くドロッと溶けた金属を見ることは中々できないのではないのかな?
「ふむ……熱かったか。じゃあ、冷やそう……氷の魔法でな」
エンがそう微笑むと、突如として、牢獄内には霜が下り、そして……氷点下になる。
「はぁ……はぁ……」
息が白くなる……そして、同時に意識も……。
急激な温度変化。
これは、恒温動物である人間にとっては対処しきれないほどの負荷となる。
いくら身体を鍛えようとも、生命として、生態としての力には抗えない。
「うう……」
すっと、意識が少し薄れてきたところで、俺の前にはエンが立っていた。
どうやら、檻を溶かしてこちらまで来たようで、対面側に見えている檻は折り曲がっている。
「おやおや、君……丸裸のすっぽんぽんだったんだね……そりゃあ、人間の君には今の急激な環境変化は地獄だったね、ごめんね。ふむ……仕方がないな……」
よいしょっと、エンは俺を持ち上げ服を着せ始めた。
おいおい、俺は着せ替え人形じゃないぞ。
「ふーん、流石は翔琉くんの……肌質がそっくり……」
おい!
さりげなくセクハラやめろ!
「おお、立派……」
どこ見てんだ!
やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼
「はい、終わり……もう、立てるはずだよ」
「え?」
ストン、と立たされた俺は、身体にあった痺れや倦怠感が消えていることに驚きつつ、自身の身体が軽く感じるほどの力がみなぎってくることに気がついた。
「うぉ!すげぇ、なにこれ!身体が……」
「今君に着せている服は、【炎龍の衣】。僕の一族【龍族】の王家に伝わる伝承の服でね。自身の力を強化すると共に、環境に力を左右されなくなる神様が作った道具なんだよ」
「……そんな大事なもの着せてもらっていいの?」
「ん?いやまあ、恩人の身内なんだから、そのくらい当然と言えば当然なんだよね」
「そうなんだ……でも、セクハラはやめろ!」
「へーい」
天野翔琉博士……あなたのいた世界って変態の変態による変態のための世界だったんですかね……。
「改めまして……僕の名前はエン。炎の大魔導士にして、情報屋にして、炎の種族【龍族】の王族にして元族長だよ♪よろしくね」
「肩書き長い!そして、凄そう……えっと、俺の名前は【ジェット】。暗殺部隊の精鋭の一人だ。よろしく」
「うんうん。じゃあ、行こうか。ここにいる天野翔琉を守護する獣を倒しに……そして、本物の翔琉に会うためにね……」
そういって、エンはまるで見知ったように通路を歩いていこうとするのだが……。
その前に。
「エンさん‼服着てください!」
なんであの人堂々と裸で歩けるんだろうか。
怖いわ。




