Mission2-7
【よくわからないもの】を倒した直後、辺りの機器は役目を終えたかのように、一斉にその寿命を終えた。というのも、壊れてしまったのだ。斬神夜弥の計画だとこの装置内のデータにはかなりヤバイものがあったのではないかと考えられる。だからこそ、やつは機器の寿命を終わらせたのではないだろうか。そう考察すると、事前にデータを本部へ送っておいて正解だった。もちろんウイルス混入の可能性もあるので、本部の端末に一切繋がっていないミランダの研究室の方へ……これでなにか分かればいいのだがな……。
「さてさて……任務完了ってことで、本部に戻りますか……」
と、俺はふと白百合の方を見ると、白百合は鬼のような形相に変わっていた。そう……あれは、彼女が一番不機嫌なときの表情だ。その眼差しの先には、開いた後の扉と、アマギ少年の影が一瞬映っていた。そう、アマギ少年は逃げたのだ。つまりは、白百合の任務達成は阻止されてしまったのだ。
「本部……こちら白百合……斬神夜弥の生物兵器の破壊に成功……しかし、連行予定だった少年が逃走……抹殺許可を」
[こちら、ルート。抹殺はやめろっていってるでしょ!なんであんたは困ったら殺そうとするかな……とにかく、彼を捕縛して!あと、これは今さっき出た反応なんだけど、生命反応が1つ増えてるの]
「とすると、夜弥がこの場所に?」
[いいえ……夜弥の反応ではない……だから、注意しなさい]
「了解……」
白百合は目線を俺に合わせ、「行くわよ」と言ってギロリと睨んで扉から勢いよく飛び出していくのだったーーー
「離せよ!離してよ!」
そう言ってなにもいない空間にひたすら喋っている。いや、そのなにもいないはずの空間に引きずられてそのまま外へと連れ出されようとしていた。
「黙れ……邪神め……」
そう声はするものの、その姿は見えない。だが1つ言えるのは、この声の正体はアマギの正体を知るもの……つまりは、異世界からの来訪者だーーーしかも、天野翔琉と共に戦った盟友……その誰か。
「ふん……お前には分かるまいて……僕の企みなんてね……」
「ああ、だからこそ……力を抑制されている今のお前を殺すことにした」
「えー、やだやだ……これだから虎は……すぐさまに殺す殺すってね……お前の兄も殺すの好きだったもんなーーーなあ、ライ」
「……元を正せば、お前がすべて悪いんだ……ボルは悪くない……」
「ーーーさて、僕を殺すとか言ってたけど……お前はどうやって僕を殺すのかな?一応不死身だから、僕殺せないけど……」
「案ずるな……この世界には不死者を殺せる薬があるらしい……から、それをお前に投薬し続ける……その薬は不死者にとっては猛毒と言っていいほど危ないものらしいからな……」
そう言って更に連れていこうとしたとき、行く手を阻む姿があった。それは、俺と白百合だった。
「見つけたわよ!アマギ!」
「お姉ちゃん、助けて!」
そう言って無垢な風に見える少年は泣きじゃくりながら言った。その腕にははっきりと何者かに捕まれている痕を見せつけるかのようにーーー。
「え?ジェット、あそこになにかいる……」
「そのようだな……だが、見えないーーーどういうことだ?」
すると、透明の部分はやがて形を現す。そこにいたのは、虎の姿をした人……虎獣人だった。甲冑から覗かせる筋肉質な肉体と、こわもてな姿……まさしく、悪役に相応しいような姿。
「ちょっと、あなた……その子をどうする気?」
と、白百合が威嚇すると虎獣人は口を開く。
「決まっておろう?こいつは危険だ……だから、殺す」
「なんで危険なのかしら?」
「今のお前たちに説明しても意味はない……我々は我々の世界での理と信念にのっとって、こやつを殺すだけだ……」
「我々の世界?まさか、異世界から来たの?」
「そうだ……俺の名前はライ……7人の大魔導士が1人……そして、天野翔琉の親友だ」
「天野翔琉?! 天野翔琉博士のこと!?」
「ふむ……愛しの翔琉はここでは博士と言われているのか……なるほどなるほど」
今、愛しのって言ったよな?天野博士、一体別世界で何してきたんだよ!虎を懐柔してしまうなんて、なんて恐ろしい……。やはり、普通の人間だとは思えない。
「さてさて、では邪魔しないでくれよな……こいつを殺すことが現在最重要事項だからな……」
「そうはさせないわよ……ライ……私の任務を邪魔するものは誰であろうと殺す……」
「ほう、小娘……いい度胸だ」
と、ライが白百合に言うと、突如雷雲が白百合の周りに発生した。雷雲はやがて巨大な雷鳴をならし……彼女に向かって数多の稲妻が落とされたのだった。