Mission2-5
「天野翔琉博士?」
そう俺は言った。だが、予想していなかった返答が予想していなかった場所から返ってきた。
「いや……あれは、天野翔琉ではない」
こう言ったのは、先程出会った少年アマギだった。
「アマギ君……なんで君にそんなことが分かるんだい?」
白百合の質問にたいしてアマギは「本物に会ったことあるから」と答えた。やはり、こいつ……年齢違うのか?
「アマギ君……君は一体何者なんだい?」
「ん?言ってなかったっけ?僕はこの世界の生物ではないよ?」
「「え?」」
とんだネタばらしだった。いきなりこの少年は何を言っているのだろうか……とは思ったが、天野翔琉博士と夢での会話で、天野翔琉博士は異世界の話をしていた。むしろ、ここは納得しなくてはならないのではないだろうか?
「天野翔琉……異世界最強の魔法使い……神を宿した反則級の男……でしょ?」
これで納得した。こいつは、天野翔琉を知っている。そう、異世界での天野翔琉博士を知っている……まさか、こいつが博士の言っていた弟?いや、まだ確証がないし、そもそも神様がこんな可愛らしい子供な訳ない。というか、神様がこんなところでのこのこいるわけないでしょうに。
「じゃあ、あそこで寝てるのは……また、天野翔琉クローン?」
「後ろのは合成獣……ってことは、ここにあのイカれた科学者がいるのか?……あの、【狂喜科学者】の斬神夜弥……天野翔琉博士の幼馴染み……」
だが、周りに人影すら見当たらなかった。どうやら、やつは居ないようだな。
斬神夜弥……天才科学者である天野翔琉と同じ時代を生き、同じ頭脳と能力を持っていると言われる男……。天野翔琉博士が残した論文を読みとき、不老不死の薬を完成させたのはやつだ。そして、戦争を助長するかのように、合成獣の基礎や、機械兵器などを造り上げた狂っている男……そして、俺の祖父が一番嫌いだった男だ。俺の祖父……天野翼……幼少の頃に夜弥と出会ったらしいが、その時からすでに恐怖し嫌っていた。この男の抹殺はどんな命令より優先される最重要任務となっている。夜弥を見かけたら殺すーーーそれが、戦争終結に繋がる1歩らしいのだ。
「こちら白百合……本部、聞こえますか?」
[本部、ルート……どうした?白百合]
「タルタロス最上階にて、斬神夜弥の居た痕跡を発見した……」
[そう……もしも、夜弥がいたら……分かってるわね?]
「了解です……あと、研究資料らしきものをいくつか発見……そちらに転送します」
[了解……引き続き天野翔琉博士探索を……]
「いえ、どうやらここには居ないみたいです。天野翔琉クローンが居ましたので、恐らくその反応だったと……」
[……確かに、天野翔琉博士の反応はひとつだけみたい……あー、地下は?]
「地下は溶岩で塞がれていますので、装備を整えないと行けないみたいです」
[そう……なら、帰還していいわよ……アマギ君を忘れずに連れてきてねーーーあと、それ]
ガガーピーガー……ブツン。
突然通信が途切れた……と同時に、合成獣の入った容器に亀裂が入り、扉が閉ざされる。転送……も、出来ないようだ。ここは外界と一切をシャットダウンされている。と、その時、近くの装置から声がする。
「ようこそ……我が牢獄へ……ジェット君……そして白百合ちゃん」
「その声は……斬神夜弥!」
「おっと、そんなに吠えるなよ……犬なのかい?あー、政府の犬か……飼い犬には首輪をつけとけよなーなんて……さてさて、君たち……実験に付き合って貰おうか……この夜弥様の実験に……」
「なんの実験よ!」
「合成獣が理性を得る実験……さて、やれ……」
夜弥の指示で、合成獣は容器を破って出てきた。そして、近くに眠った天野翔琉博士のクローンを見るなり、食べてしまった。パクリ、なんて可愛らしい効果音ではなくムシャムシャボリボリと、なんとも生々しい音をたてながら。
ゴクリっと、獣の喉を通った肉塊……それら全てが獣の腹に満たされた瞬間……獣は光輝いた。
その光はやがて目が眩むほどの強さになり、次の瞬間突然消え、光の中心には【よくわからないもの】が立っていた。人間なようで人間じゃない。獣のようで獣じゃない。生物のようで生物じゃない……本当に【よくわからないもの】が立っていた。
そして、そのよくわからないものは口を開き、こう言った。
「お前たちを食い殺す」