Mission2-4
「こちら白百合……本部、応答せよ」
冷静なまでに冷静な白百合は、ダガーを見た目小学生くらいの男の子に突き付けたまま、端末で火星の本部に呼び掛ける。まったく、仕事スイッチ入ってると、厄介だな。この白百合は仕事スイッチが入ると、普段の感じでは無くなる。本当に別人のように……よくスポーツ選手が、試合中とプライベートが全然雰囲気違うみたいなもんだろうな。仕事スイッチ入った白百合は、まず容赦を知らなくなる。命乞いする相手でも、ターゲットならば問答無用で消す……。病人だろうが、怪我人だろうが、子供だろうが、老人だろうが、味方だろうが、親族だろうがーーー恋人だろうが。彼女の手は、歳の数以上に、血塗れになってきているのだった。
[こちら、本部のルート……どうした?白百合]
「作戦現場にて、謎の少年発見……だが、ターゲットではなく部外者……しかし、この場にいるには怪しすぎる少年……抹殺許可を」
[ダメ!あんた末恐ろしいわ……子供殺したら、この先の未来を切り開く足が無くなるでしょ!まあ、とりあえず警戒しながら同行させて連れ帰りなさいな……命令よ]
「了解です……」
ピッと端末の電源を切り、少年に向けていたダガーをしまって、笑顔で「よし、じゃあお姉さんについてきてね☆」と言い切った白百合を誰かどうにかしてくれ。
「このお姉ちゃん……いろいろやべぇ」
と、アマギ少年は言う。なんというか、アマギ少年はとても可愛らしくて、とても虫なんか殺せないようなそれはそれは優しそうな少年みたいな見た目をしている。だけどなんでだろう?だからこそのギャップなのかもしれないけど、こいつは注意すべき相手だと、俺の直感が言っている。見た目に騙されるなーーーそれが、ルート隊長の教えだ。なにせ、この世界は不老不死の薬を完成させた世界ーーー年齢とか見た目なんてあてにならなくて当然なんだよね。だから、もしかしたらこの少年も見た目通りの年齢ではないかもしれない。ショタではなく、よぼよぼのジジイかも知れない。だから、警戒を怠ってはいけないのだーーー。
俺たちは、最上階へと来ていた。というのも、先程出会った少年アマギによると、最上階にて神話に相応しくない現代的設備を見かけたと言うのだ。本来ならばその話を鵜呑みにするのは良くないのだが、なにせ情報の少ない場所である。いずれ誰かが見なくてはならない事ならば、俺たちが開拓しなければならないだろう。元より、地下へは溶岩の影響でもう少し装備を揃えなければ辿り着くことが出来なさそうなので、装備を転送してもらうか、または溶岩をどうにかする方法を考えなければと思っているーーーなので、最上階に現代的設備がもしあるならば、溶岩をどうにかする装置なんてものがあるかもしれない……とも考えている。どのみち、全てのフロアを探索するのだから、最上階だけ後回しになんてそんな理屈は通らない。むしろ、地図を塗りつぶし、パズルを完成させることこそ任務完遂に繋がるのだ。
「ここが、最上階……」
不気味な悪魔が牢屋に閉じ込められて拷問を受けている様子の絵ーーーそれが、扉の前に飾られた部屋の前に俺たちは来ていた。この扉の奥には何があるのだろうかーーーそれは、扉を開けてからのお楽しみと言うことだろう。いや、本当の事を言えばこの扉は開けてはいけないような気がする……。なにか、祟りに合いそうだと言うか……なんというか、不気味だ。不気味すぎて、怖いのだ。
「んじゃ、開けるわよ」
っと、怖がる様子もなく白百合は扉を開ける。扉の先から光がこぼれ、光景がやがてはっきりと分かった。そこに広がっていたのは、合成獣の入った大きなポッドと、そのとなりに一人の青年が寝かされている……あれは、天野翔琉博士?