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それからしばらくしても、ピウラはやってきませんでした。
しんじて、まちつづけるユタに、かなしいできごとが、おこりました。
あるあさ、いつものようにやってきたおにいさまが、いいました。
「きょうはユタに、だいじな、はなしがある。おののけいこは、おやすみだ。こちらへ、きなさい」
おにいさまは、そういうと、石のベッドにすわりました。
ユタも、そのとなりに、こしかけました。
「ユタ、おとうさまに、あわせてやることが、できなくなった」
おにいさまのことばで、ユタは、きゅうにかなしげなかおになって、おそるおそるききました。
「……おとうさまが、しんでしまったの?」
すると、おにいさまは、すこしほほえんで、くびをふりました。
「しんでしまったわけではないよ。ただ、けがをして、すぐにかえってくることができない」
ユタはすこしだけほっとしました。けれど、こんどは、おにいさまが、ひどくかなしげなかおになって、いいました。
「しかし、おまえにおとうさまをあわせるとやくそくしたおにいさまが、なくなったのだ」
それをきいたとたん、ユタはわっとこえをあげて、なきだしました。
「なくなったおにいさまのやくそくは、わたしがかわって、かなえてやりたいが、そのうち、わたしも、戦争にいくことになる。だから、おとうさまにあうことは、あきらめてほしいのだ」
ユタは、なきながら、いいました。
「ちがいます。おとうさまにあえないことが、かなしいんじゃありません。
ぼくは、しんでしまったおにいさまと、あえたことを、どうしてもっと、よろこばなかったんだろう。どうして、ちゃんとおはなししなかったんだろう。
ふたりのおにいさまや、ばあやや、ともだちもいて、しあわせだったのに、おとうさまとおかあさまがほしいとばかりおもっていたなんて。
おにいさまは、しなないでください。もう、かぞくがいなくなるのは、いやです」
そういいながら、なきつづけるユタをだきかかえて、おにいさまは、やさしくいいました。
「だいじょうぶだよ。わたしは、けっして、しんだりしないからな」
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おにいさまのしのしらせをきいてから、きゅうでんや、まちが、きゅうにさわがしくなったように、ユタにはおもえました。
おとなたちは、かおをあわせると、うわさばなしをはじめます。
こどもたちさえ、いま、くにでなにがおこっているのか、だいたいのことを、しっています。
「北の火山が火をふいて、むらをつぶしてしまったんだよ。むらの人たちはみんな、みやこにひなんしてきたんだよ」
「南の戦争は、なかなかおわらなくて、たくさんの人がしんだらしいよ」
おにいさまをなくしたユタは、それらのうわさをきくのはつらいのですが、それでも、なにがおこっているのか、しりたいとおもっていました。
あるとき、めしつかいたちがあつまって、なにやら、はなしていました。ちかくにいたユタは、おもわず、そのはなしに、ききみみをたてました。
「南の戦争は、どんどんはげしくなっているそうよ」
「北や南からひなんしてきた人たちで、みやこはあふれているわ。たべものがふそくして、けんかや、どろぼうもふえているそうよ」
「そういえば、ようやくカパコチャのおまつりがおこなわれるそうね」
「こんな、たいへんなことになるまえに、どうしておまつりがおこなわれなかったのかしら」
「おまつりには、ながいあいだ、じゅんびがひつようなのよ。
いまの王さまは、あのたいへんな戦争のさなかに、王さまになったんですもの。カパコチャのじゅんびなどできるはずはないでしょう」
「カパコチャのおまつりで、へいわがもどってくるといいわね」
ユタは、ききなれないことばに、くびをかしげました。
けれど、そのはなしのなかで、ひとつ、だいじなことにきづいたのです。
ユタは、いそいで、あの金のへやへと、はしっていきました。
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