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あるとき、ばあやのつかいが、ユタをよびにきました。
ユタが小さいころ、いつもおせわをしてくれたばあやは、いまでは、ベッドによこになっていることがおおいのです。
ユタが、ばあやのへやにいくと、ばあやはベッドの上におきあがり、
「よく、いらしてくださいましたね」
とうれしそうにいいました。
そして、ユタに、ほそながいつつみをわたしました。
「それは、ぼっちゃまのおかあさまから、あずかっていたものです」
ユタがおどろいてつつみをひらくと、女の人が、かたかけをとめるためにつかうピンがでてきました。
「それは、ふたつひとくみでつかうものです。もうひとつは、おかあさまがもっていらっしゃいます。
ぼっちゃまが、おかあさまをこいしくおもううちは、それをわたすことができませんでした。けれど、もう、わたすことができます。
どうして、あえないのか。
それはぼっちゃまが、おとなになったら、わかるでしょう。
けれど、おかあさまが、いつもぼっちゃまのことをおもっていらっしゃるということは、わすれないでください」
ユタはしばらく、ピンをみつめていました。
やがて、かおをあげて、ばあやにいいました。
「ぼくには、ぼくのことをおもってくれるばあやや、おにいさまや、がっこうの先生や、ともだちがいる。
そのうえ、おかあさまが、どこかでぼくのことをおもってくれているなら、こんなにしあわせなことはないよね」
それをきいて、ばあやはうれしそうにいいました。
「ぼっちゃまは、ほんとうに、大きくなられましたね」
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ユタのへやのそとには、カントゥータの木がしげっています。
むかし、はなうりのおばあさんにもらったひとえだを、へやのそとのじめんにさしていたのですが、それがねをはやし、どんどんのびていったのです。
ユタがへやにもどろうとすると、赤い花をたくさんつけたえだのかげから、赤いふくをきた女の子が、こちらをみているのにきづきました。
ユタは、女の子にはなしかけました。
「やあ。お山の上のくらしは、どう? チャスカ」
すると女の子は、いたずらっぽい目をして、こたえました。
「まあまあってとこね」
やがて、わらいごえをのこして、女の子のまぼろしは、青い空のなかにきえていってしまいました。
(おわり)
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