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ユタは、カントゥータの花に、なにをねがっていいのか、わかりませんでした。やがて、花はすべて、えだからおちてしまいました。
ユタがなにもできないでいるうちに、とうとう、カパコチャのおまつりの日がやってきました。
その日、ユタもあたらしいふくをきせてもらって、カパコチャをみおくるために、まちのひろばにいきました。
ひろばにつくられた、大きなぶたいの上に、やがて、ピウラとクワンチャイとオマのにいさんが、すがたをあらわしました。
三人とも、りっぱなふくをきて、たくさんのかざりをみにつけています。
ならんだ三人のまえに、王さまがすすみでると、ふかくふかく、あたまをさげました。
この国でいちばんえらいはずの王さまが、あたまをさげるのをみて、ユタは、ピウラたちが、神さまになってしまったのだと、おもいました。
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あいさつをおえて、三人は、花でかざられたこしに、それぞれのりこみました。
たくさんの男の人にかつがれたこしが、人びとのあいだをすすんでいきます。
クワンチャイは、みおくるユタのすがたにきづいて、にっこりわらって、手をふりました。ユタも、せのびをして、大きく手をふりかえしました。
たくさんの人のこえにけされて、クワンチャイのこえはきこえませんが、その口は、ユタにこうよびかけていました。
『ずっと、わすれないでね』
ユタは、クワンチャイに、大きくなんどもうなずきました。
そのあと、オマのにいさんのこしと、ピウラのこしが、とおりすぎていきました。
ユタは、ピウラのこしに、いっしょけんめい手をふっていましたが、ピウラはとうとう、いちどもふりかえらずに、とおりすぎていってしまったのです。
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ユタはいそいで、ピウラのこしをおいかけました。
けれど、人ごみがじゃまをして、まえにすすめません。
そこで、人だかりのそとがわをまわって、こしのすすんでいくほうへと、はしりました。
ようやく、こしがみえたときには、こしは、まちのそとへでていくところでした。
ユタは木によじのぼり、まちをかこむ、たかいかべの上にたちました。
そして、さけびました。
「ピウラー。ピウラー」
けれど、こしのすがたは、どんどん小さくなっていきます。
ユタは、こんどは、ピウラのほんとうのなまえをよんで、さけびました。
「チャスカー。チャスカー」
ピウラのほんとうのなまえは、あの金の絵にかかれていた花とおなじなまえなのです。
「チャスカー。
ぼくは、たくさんけいこをして、たくさんべんきょうして、つよくてかしこい、おとなになる。チャスカがお山の上で、みんなのしあわせをいのってくれるなら、ぼくは、この手で、みんなをたすけられるような、おとなになる。
だから、お山の上で、ずっと、みまもっていてよー」
すると、さいごのこしにのっているかげが、まっすぐに手をあげるのがみえました。
チャスカが、ユタにへんじをするように、手をあげたのです。
「ありがとう、チャスカー。
ずっと、ともだちだよー。
ぜったい、わすれないよー」
チャスカのかげが、こんどは、りょうてをあげて、大きくふりました。
そして、おかのむこうへと、きえていってしまいました。
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