人外扱い
この作品のネックは何なのかと?と考えながら書きました。
私は放課後を迎えてすぐに、まるで逃げるかのようにアパート―――もとい寮に帰還した。
・・・・・・実際、逃げたのだ。平和で無防備な(私から見て)幼い少女達は、常に死と隣り合わせな日々を送ってきた私にとって、目障りの一言に尽きた。
・・・・・・わかっている。自分が変わらなきゃいけない。いや───戻らなければいけない。三年前よりももっと前の、純粋で平和ボケした自分に。
「変わらなきゃな~・・・・・・───よし」
某小毬さんから引用した前向きスイッチを頼りに、私は自分に喝を入れた。
───一週間が過ぎた。
私は活を入れたにも拘らず、未だ放課後をゆっくりと過ごすことが出来ないでいた。
「はぁ・・・・・・」
今の自分の現状に、思わず溜め息が漏れる。ここ一週間を四字熟語で表すとしたら───『四面楚歌』?いや、それもある意味適切ではないか。
今日は幸い休日だ。この五日間を一言では言い表せないし、何よりこの現状から脱却したい私は、やはりしっかりと回想することにした。
始業式の後日。
この時点で回想上は二日目になるが、そんなこと気にしないでいいよね?とにかく二日目である。
慣れない制服に身を包まれて通学路を歩き、に十分かけて学校にたどり着いた。
「おはようございます」
「うん、おはよう」
校門に立っている先生に挨拶すると、見た目に合わないざっくばらんな返事が返ってきた。
脇を通り過ぎつつ振り返り、その容姿をざっと検分する。私よりも低い(私は167㎝)ながらも、女性としては高めの長身を白いブラウスとピンクのロングスカートに包み、一見、清楚な雰囲気を漂わせている。顔も若々しく、優しげな美人といった感じだ。
・・・・・・やはり見た目と先程の挨拶にはギャップがある。
私は朝から感慨深い心持ちになったのだった。
教室に着くと、昨日よりも会話の声が目立つことに気付いた。あぁ・・・・・・もう友達作りに邁進してるのね・・・・・・。
自分との差異に呆れながら、私は誰とも挨拶を交わせずに席に着いた。何せ周りは、会話中の生徒ばかりだ。自分以外に会話してない生徒がいないわけではないが、そういう彼女達は読書だったり寝たフリだったりと、各々『話しかけんなオーラ(ATフィールド)』を展開している。生憎と戦場では、そんな奴に話しかけるようなのは自殺行為に等しい。何の拍子に飛びかかられ、クビをかっさばかれるかわかったもんじゃない。
―――だからというわけではないが、私は♪同級生との朝の挨拶♪を見るだけにとどまった。
その後一日の記憶は、既にゴミ箱へと旅立った。
───三日目。
その日は午後の授業時間を丸々消費し、部活動紹介が行われた。
午前中を授業内容と自分への絶望で頭を埋め尽くして過ごした私は、昼休みを中庭の木陰でサンドイッチを食べて過ごした後に、体育館へと向かった。一年生でもないのに何故参加するのかだって?それは全校集会扱いだからだろう。まぁ他にも理由はあるが。
部活動紹介───。
昨日の夜に、リンさんが電話でざっと説明してくれたところによると。運動部が堅苦しい文句を並べ立て、たまにふざけたり。文化部がはっちゃけて、お祭り騒ぎになったりする、らしい。付け加えられたのが、試合や発表会の機会が少ない文化部にとっては、数少ないイベントなんだそうな。
そんな身も蓋も無いリンさんの説明に、私は苦笑するしかなかったのだが。
そんなことを思い出しながらパイプ椅子に座り、騒ぎの始まりを待った。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
待つこと数分。軽音楽部のドラムロールを皮切りに、幕が上がった。
途端に周囲から堅苦しさが吹き飛び、ヴォーカルの力強い歌声が、歓声を誘い込んだ。
私と云えど(別に自分のことを頭良いとかそういう風に思ってる訳じゃないけれど)全ての部活動の紹介を憶えてる訳ではないので、順番もバラバラに、気になった部をダイジェスト版でお送りしよう。一体誰にお送りするのかは知らないが。
まず文化部から。
『百人一首部』
これは実際に実演していた。かっこつけるためかどうか知らんが、上の句が詠み終わる前に合ってるかどうかも関係無く、適当に弾いてるのはどうかと思った。はいはい面白い面白い。
『手芸部』
これは部員が作った作品を発表したのだが―――とある部員が他の部員の作品を見て「ヘッタクソ・・・・・・」と呟いた為に喧嘩が勃発。毛糸やら何やらを投げ合う壇上乱闘に発展した。・・・・・・手芸部だよね?
次に運動部。
こっちは試合やら何やらが騒がしく派手なので、こういう雰囲気に慣れてるらしく、比較的まともな紹介だった。だから殆ど記憶に残ってない。いや、それだけが理由ではないのだが。
そんな中、私が記憶に残った部というのは、弓道部だった。
壇上に現れた袴姿の少女達。
その凛とした雰囲気に、一年生はおろか、私達二年生も息を呑む。
まず簡単な部の説明がされ、その後に実演となった。
部長と思しき少女が壇の中央に立つ。弓と矢を携えた姿がとても目に映える。
少女は弓を引き絞り、鏃の無い先端を客席に向けた。
先程とは違う意味で息を呑む観客を嘲笑うかのように放たれた矢は、私達の頭上を通り過ぎ、いつの間にか立っていた袴姿の少女が掲げる的に命中した。どよめきが場内に響く。
続けて放たれた第二射も違わず命中し、この少女の腕が確かであると、私を含めた観客全員が安堵した。
そして、そんな安堵の中で放たれた第三射───
「───っ!」
本能的な危機に思考が反射的に加速し、二つの眼球が、矢をスローモーションで捉えた。
放物線を描いて的に向かうべき矢は、先程の二射とは異なり、高度が低い。
私は瞬時に判断した。これじゃあ生徒に当たる・・・・・・っ!
椅子を蹴倒して立ち上がり、然程離れてなかった射線に身体を割り込ませた。
左手を横に伸ばす。
自らに迫り来る矢を、引ったくるようにして受け止めた。・・・・・・摩擦で掌が熱い。
つい顔を顰めながら、辺りを見回す。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
沈黙の妖精が舞い降りていた。
「・・・・・・・・・・・・あっ」
館内脇に、額に手を当て仰け反るリンさんを発見した。「あぁ~やっちゃったかぁ・・・・・・」みたいな雰囲気が、こっちにまで漂ってくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
どうやら自分が「やらかして」しまったことを、遅蒔きながら気付いた。
それからのことは、あまり思い出したくない。
運動部からの熱烈な勧誘(何故かその中に手芸部もいた)に遭い、その際に二年生で転入生だということが知れ渡り(流石に年齢は言ってない)、知名度が鰻登りに上がった。
ちなみに勧誘については「興味無い」の一言で全て断った(辛辣な言葉だとは自分でも思うが、キッパリと諦めてもらわねばいけないと思ったからだ)。
勧誘したくなる気持ちもわからないではない。
そりゃあ飛んでる矢を素手で掴むなんて、人間技じゃない。アシタカ技だ。
そんな状況で♪同級生との楽しい会話♪なんて出来る訳がない。寧ろ自分からATフィールド展開しちゃうぐらいである。
・・・・・・私は自分のキャラがどんどんと崩れていくのを如実に意識しながら、週末までの長大な数日を過ごした。
「あぁ~・・・・・・」
振り返ると、何とも言い難い。
彼処で飛び出したのは後悔していない。
―――だが、掴まずに身体で受け止めればよかったとは後悔している。多分凄く痛かっただろうが。当たり所が悪かったら将来に関わっただろうが。いや、やっぱ掴んでよかったわ。
客観的に見れば、私は大柄で目付きが鋭い和風(偽)美人。まるでアクション映画のヒロインの様だろう。自分をそんな風に評価出来ないけど、姉が自分と同じ様な容姿だったから、どんな風に見えるかはわかる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。
「・・・・・・寝よ」
私は惰眠を貪ることにした。
どうですか?かっこいい麗奈さんは思い浮かんだでしょうか。
麗奈さんのモデルは栗山千明さんです。麗奈さんは前髪パッツンじゃないですけど。
これからも楽しくかっこいい小説を目指していきますっ!