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銃の帰還  作者: sniper
入学編
1/22

帰国

かっこいい女の子を書こうと思ったけど、男の娘でもいけそうだなぁ~と思った今日この頃。

未だに性別を明確にしてないのはそのせいかもしれません。いや、なんでもないです。

活動報告にもあるとおり、これは合間に書いたものです。

ごうごう、と強い風が頬を叩き、遅れて聞こえた爆音が腹の底に響いた。

頭上を通り過ぎたジェット機を眺めながら、私は深い感慨に浸る。

あんなに大きくて、見るからに重そうなものでも空を飛べるなんて。ついさっきまで乗っていたものなのに、不思議に思ってしまう。

腕時計に視線を落とす。『先生』に貰った、デジタル電波ソーラーの腕時計。そこに表示された時刻は午後四時過ぎだが、今見える太陽は南東方向に位置している。腕時計の時間座標がずれているのだ。表示時刻を日本時間に設定すると、午前十時半だった。

私はスーツケースをがらごろと引き摺り、携帯電話のナビ機能を頼りに歩き出した。


バスと電車を乗り継いでたどり着いた場所は、銀杏の並木が道を作る、閑静な散歩道だった。

「いるかな・・・・・・」

見知らぬ土地に、少しばかりの心細さを感じながら、辺りを眺める。

定期的に掃除でもされているのか、雰囲気に比して綺麗なものだ。

「歩いてれば見つかるかな」

不安もあるけど、ちょっと好奇心があるし。

待ちきれずに、道沿いに歩こうかと思っていたところで、後方から足音が聞こえた。

「あら、早かったわね」

「───リンさん」

歩かないでよかった。待ち人を待たせちゃうところだった。

「久し振りね。どう?久々の日本は」

「まだちょっとわからないです」

時差ぼけで頭が回らなくて。

「長旅はやっぱり疲れるみたいね。でも、もうちょっとの辛抱よ?」

「はい。じゃあ早速連れてってくださいな」

リンさんはふふっ、と笑ってから先導し出した。近くのコンビニの駐車場に停めてあった軽自動車に乗り込み、シートベルトを締めた。なんだか、懐かしい座り心地・・・・・・。

エンジンが静かにかかり、車体を微かな振動が覆う。向こうで乗った車とは随分違う。

クラッチを切る音の後、車は走り出した。

リンさんの運転は丁寧で、今のところ急ブレーキは全くない。

「そういえば、ここで重大な発表があります」

「えっ?」

何度目かの赤信号に引っかかったとき、リンさんは突然そんなことを言い出した。

「・・・・・・そういえば、っておかしいですし、重大なことなら前触れぐらい作ってくださいよ」

もしも聞き逃しちゃったりしたら、どうするおつもりですか・・・・・・。

「おっ、帰国子女にしては日本語にうるさいわね」

「それってどういう意味ですか?」

偏見だと思いますよ。帰国子女だからってことは、あまりないと思うんですけどね。まぁ、私は中学三年から今日までの三年間、日本にはいなかったので。影響があると思われても仕方ないのでしょうが。

「とにかく大事な話なんだけどね?」

「っはいはい」

リンさん。私に整理する時間をくれませんかね・・・・・・。

「あなたの大学への入学ね。出来なくなったのよ」

・・・・・・え?

「どういう意味ですか!?」

狭い車内に、私の声が反響する。

「待って落ち着いて。順を追って説明するわ」

そう言われて、自分がいきり立っていることに気付いた。そうね、落ち着かなきゃ・・・・・・私が私じゃなくなる。

「まず安心して欲しいわ。あなたの居場所は、ちゃんと設けられるから」

え?大学への転入がなくなったのに、私は日本にいられるの?どうして・・・・・・。

「それは入学出来なかった理由とも関係するんだけどね。───あなた。最終学歴は?」

「最終、学歴?確か、中学三年の冬だから───・・・・・・」

もしかして、小学校卒業まで?

「調べたら、中学校卒業、だったわ。義務教育だから、自動的に卒業扱いにされたみたいね。───さて。どうして最終学歴なんて訊いたかっていうとね。大学に入学するには、高校卒業資格が要るのよ。じゃないと、どれだけ頭が良くても、試験さえ受けさせてもらえないのよ」

あぁ・・・・・・。

じゃあ、私が『先生』に教えてもらったことは、無駄だった、ってことなのね。確かに、『先生』は教えることはできるけど、資格は与えられない。

「じゃあ、私はどうすれば・・・・・・」

「簡単よ」

力強いその言葉に、文明社会では無力極まりない私は、確かに救われたような気持ちになった。

「高卒資格なんて、取ればいいだけよ。手段はいくらでもあるけど───安心して。もう手続きはほとんど済ませたわ」

「えっ・・・・・・」

「さぁ、到着よ」

話に夢中になっていたせいで、車が動いていることに気付かなかった。

緩やかに停車した車。

リンさんが降車を促したので、それに従う。

―――着いた先は、何処かの駐車場だった。

「あっ・・・・・・」

いや、何処かはわからなかったが、どういうところなのかは一目瞭然だった。

コンクリートが壁を覆う、長方形の建物が幾つか並ぶ。時計がそこかしこに設置され、遠くにグラウンドが見える。そして、一番高い建物の天辺に翻る国旗と校旗。

「学校・・・・・・」

「そう。ここは『彼』の働いていた場所であり、私が理事長代理を勤める───千流高校よ」

千流高校・・・・・・もしかして───っ!?

「私に、ここに通えっていうんですか!?」

「そうよ」

さも当然のように告げられ、狼狽えていた心も落ち着いてしまう。

「わ、私は今年で十九歳なんですよ?大丈───」

「大丈夫だ、問題ない」

・・・・・・何故か宝塚の男役みたいに言われた。

「どっちにしても、もうあの戦場に戻ることは出来ないし、ここで生きてくなら、最低でも高卒資格はないと。人間らしい生活なんて出来ないわよ」

どうやら日本で暮らすには、それなりの面倒を覚悟しなければいけないようだ。

「はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・では、御言葉に甘えさせていただきます」

「えぇ。存分に甘えて御覧なさいな」

リンさん先導のもと、私は新しい戦場?へ向けて歩きだした。


四月の始業式までに、残った転入手続きを済ませなければいけないとのことで、私は早速テストを受けさせられた。

国語、数学、英語の三教科だけだったが、私の精神力を削り取るには申し分ない威力を秘めていた。

「はぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・」

「それ、溜め息のつもりかしら?」

疲れからくる鉛色の吐息に、リンさんが辛辣な言葉で応えた。

ついさっきまで、私とリンさんのたった二人しかいない教室でテストを受けていたのだが。

「私に、睡眠時間をくださいぃ・・・・・・」

休みがない。通常あるべき間がない。

「あのぅ~・・・・・・。もうそろそろ、具体的な説明を・・・・・・」

「そうね。じゃあ、あと制服の採寸と申請書類への捺印。それから───はもうないか。採点が終わるまでは時間あるし、終わったら理事長室に来てちょうだい」

「はっ、はは・・・・・・」

今日一日で終わらせるつもりだ・・・・・・。

私は採寸に向かうべく、床に張り付いていた足を剥がすのだった。


「はあ・・・・・・」

採寸と捺印を終え、ようやく解放された私は、リンさんに言われた通りに理事長室にやって来ていた。

ノックする。コンコン。

『入って』

「失礼します」

私は、中学校の頃に職員室へ入ったときを思い出しながら、理事長室に入った。

「あら、終わったのね」

リンさんは、私が昔テレビで見たような大きい執務机に書類を広げていた。

「えぇ、何とか今日は・・・・・・」

まだ教科書類が届いてませんので、荷物整理なんかもしないといけないでしょうし。

「ま、あと少しの辛抱よ」

リンさんは優雅にティーカップを傾けている。書類はもういいのだろうか。

「三年間をあと少しだとは、思えませんよ」

「三年間?───いえ、あなたがこの学校にいる期間は二年よ。私が上に掛け合って、一年減らしてもらったの」

「それは・・・・・・ありがとうございます」

私は頭を下げて感謝した。帰国から転入、奨学金の手配までしてくれたうえに、上───というと、教育委員会や文部科学省かな?に、談判して下さるなんて・・・・・・。

「この御恩、忘れません」

「いやいや。私にも、あなたを幸せにするだけの理由があるもの」

私を幸せにするだけの理由・・・・・・。私には『先生』のことしか浮かばないわね。

「それは、教育者としての使命感・・・・・・ですか?」

「それもあるわね」

やっぱり違うんだ・・・・・・。

「───さて。じゃあそろそろ行きましょうか」

リンさんは立ち上がると、机上の書類を手早く片付けてしまった。

「行くって・・・・・・何処に?」

「決まってるでしょ?あなたの新居よ」

「えっ、もう手配してくれたんですか?」

今日はカプセルホテルにでも泊まるつもりだっただけに、有難い。

「ふふっ、当然でしょう?」

その微笑みは、私に頼もしさを感じさせた。


歩いてでも行ける距離だったが、荷物もあるということで車に乗って向かった。

「ここが・・・・・・新居」

たどり着いたのは、見た目、結構新しい三階建てのアパートだった。

「あなたの部屋は二○五よ。はい、これ鍵」

感慨深げにアパートを眺めていた私に、何故か御守りの付けられた鍵が放られた。

両手で受け取り、しげしげと眺める。

悪霊退散の御守りに、どう反応していいかわからないが・・・・・・それにしても、鍵なんてものに触れたの、久し振りだなぁ・・・・・・。

「まだ色々と説明することはあるけど・・・・・・それは明日にするわ。今日はしっかり休んでちょうだい」

「はい。わかりました」

リンさんは颯爽と立ち去った。

───さて、と。

じゃあ、とりあえず部屋に向かいますか。

私はあらゆる疑問を脇に追いやり、ただ休むことだけを考えるのだった。


郵便受けなどが並ぶ共用エントランスを抜けて、エレベーターの前に出る。

「あら?」

使用禁止になってるわね。仕方なく階段を使って二階に昇る。疲れた足には、階段を昇るだけでも苦しい。私ってこんなに弱かったかしら。

「よっ、と」

ようやくたどり着いた。鍵を開けて中に入る。靴を揃える気も起きぬままに脱ぎ散らかし、今までガラガラと引いてきたスーツケースを持ち上げて運び入れた。

「ふぅ・・・・・・」

疲れた身体を癒すには、何をしたらいいんだっけ?とりあえず、今日から我が家となるこの二○五号室の内訳を把握しよう。

トイレは玄関から一つ目の左手のドア。お風呂場は右手。廊下を突っ切ることの正面には、台所と居間が繋がっている。寝室は、居間の奥にあるドアを開けると見える。部屋も、家具も、必要なものは殆ど備え付け。

「私がこんなとこに住んで、いいのでしょうか・・・・・・」

両親の遺産も大した額ではありませんし、何と言っても、私のような下賤な輩が・・・・・・。

「───いや、考えるのはよそう」

どうせ明日になればわかること。

「さて。ひとっ風呂浴びますか」

私はスーツケースを開け、下着と寝間着を取り出した。


「ふぁー・・・・・・」

欠伸を一つ吐き出して、大きく伸びをした。

今の格好は、修道服みたいな一張羅身に纏っただけ。かなりゆったりとした格好なので、寝るにはちょうどいいのだ。

冷蔵庫を漁ってみると、リンさんが用意してくれたのか、ペットボトルのお茶が入っていた。心の中で御礼を言いつつ取り出す。コップを出すのも面倒なので、そのまま口に付けた。

「・・・・・・っはぁ~」

息を吐きつつ、私は頭を冷やした。次第に身体から立ち上っていた湯気が消え、頭から熱気が薄れてきた。それと共に、思考の回転も速くなってくる。

思い浮かべるのは、今日知らされた事実。大学への入学に必要不可欠らしい高校卒業資格。二年遅れの高校入学。千流高校。今日渡されたパンフレットからわかったことは、次の通りだ。

・高校大学一貫の女子高である。

・創立二十年である。

・私立である。

・特別特待生制度という制度がある。

両親と弟の保険金しか当ての無い私には、使えるお金が限られている。授業料等を支払うのは、大学のことも考えると正直きつい。

今日見た書類の中にも、特待に関するものがあった。多分、私も特待となるのでしょう。

「ふぅー・・・・・・」

私はこの三年間伸ばしっぱなしにしてきた髪を、一房手に取った。

あっちでのぎりぎりの生活のせいで、白く色落ちしてしまった長髪。昨日の夜買った安い白髪染めは、先程のシャワーで落ちてしまったようだ。明日また染めなければ。

さて、頭も整理出来たことだし、そろそろ寝ようかな。


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