10 急転
今回はきりがいいところで切ったため、短いです。
フーコは、ベットにうつ伏せになり倒れていた。
(何にも)
(なんにも考えたくない……)
「状況を整理って、嫌だなあ……」
嫌なことは考えたくない。フーコの悪い癖である。こんなことをしていたらトーコちゃんに怒られてしまうだろうか。フーコは布団に頭を埋めながら、ぼそりと呟いた。
「それは、いやだな……。でもさ、意味わかんないんだもん……」
気持ち悪いし、吐き気がするし、頭が痛い。
一歩も動きたくない。
(ネロ……。なんであんなところで笑ったんだろう……。信用しそうになるからやめて欲しいなあ……)
「うがああああ!」
フーコはそう叫んで立ち上がると、テーブルに向かってずんずんと歩いて行く。そしてバン!と自らの手を思い切り叩きつける。
「~~~っ痛たぁ……。くそう……」
しゃがんで痛みが引くのを待つ。暗い思考から抜け出せなくなりそうだったので、喝入れのためにやってみたのだが、すぐに後悔するくらいには痛い。フーコは3分くらい唸っていたが、ふらつきながら立ち上がると、テーブルに座った。そして置いていってくれた紙とペンで、もう一度書き殴ったメモを見る。
【魔女】について。
魔女の割合は女性のほうが多くて、そして、彼女たちは、この国の実質的な支配者で、一部の力の強い、偉大なる魔女は神様なのだという。つまり、
この国の人たちは、目に見えない神様よりも、存在する魔女を崇めている。
そして手に届くからこそ、その力を我が物にせんと、欲す。ついに彼らは、魔女に対する首輪まで作ってしまった。
「……全然実感ないや……。……もし私が本当に魔女だとしたら、魔法の使い方教えて貰えばよかったのかな……」
フーコは改めて制服のポケットを探った。出てきたのは先ほどの防水携帯と、学生手帳、ハンカチ。
「……」
フーコは携帯を開いた。当たり前だが、圏外だった。ためしに母親に電話をかけて見るが、やはりつながらない。
「……異世界だ……。そりゃあそうか。あんな、ネロみたいな違和感のない、あんな髪の色と目の色した人なんていないもんね……」
ははは、と乾いた声で笑い、フーコはカシカシと携帯のカーソルを操作して、カメラの保存ボックスを開く。その内の一枚を選択して、じっと見つめる。
それはフーコ自身とと、トーコと、母の3人で映った写真だった。じっと見ていたら、携帯を持っていた手がぶるぶると震えた。こちらに来てからゆるみまくっている涙腺から涙が零れ落ちそうになって、フーコは歯を食いしばった。
「……忘れないからね」
どのくらい見ていたのか、フーコは携帯に保存されていた写真を閉じると、携帯の電源を落とした。そしてハンカチを制服の胸ポケットに、携帯と生徒手帳をプリーツスカートのポケットに閉う。
(ネロにもっと話聞かなきゃなあ。……あの人たぶん、線を引いてくれようとしてるんだよね? きっと。たぶん。……うん。まず外に出してもらえるかどうか聞こう。で、あと、髪を染める道具とかあるかな……)
ベル鳴らしたら来てくれるかな、と思ったところで、
コンコン、
というノックする音が部屋に響いた。
(……え?)
ただし、
窓から。
次の瞬間、がしゃん! と窓が割れて、フーコは顔色を変えた。状況が呑み込めないながらも、窓を割る時点で何かがおかしい。
「こーんにーちはーっ!」
一体いつの間に移動したのか。
フーコの目の前に、青年が立っていた。
彼は、フーコにとっては懐かしい浴衣のような服を着ていた。両目はまるでロンドのように左右の色が違う。というか、目の色が濃さは違うがそっくりだった。暗い赤と、獣のような金色。頭髪はネロとはまた違った白い、そう、まるで老人のように白い髪。何故か、顔の側面の髪は長く伸ばされていて、毛先がピンク色だった。
ビジュアル系バンドの人でこういう人がいるかもしれないが、それにしては、ネロやロンドと同じように彼も違和感がなく、そして、妙にちぐはぐだった。
窓を壊した瞬間、一瞬にして目の前にいる青年に呆然としているフーコに向かって、彼は満面の笑みで手を差し出した。
「はじめまして、黒の髪を持つ魔女さん。俺に君の名前を教えてくれるかな?」