00.夜と夜明けの狭間で
眠れない。
西山心は夢と現実の狭間にいた。
眠れない?
違う。
正しくは眠りたくないだ。
眠ってしまったら悪夢と言う名のありきたりな恐怖に捕まってしまう。
西山心が悪夢に災なまれるようになったのは17の時からだ。
以来四年間それはまるで呼吸をすることのように当たり前に彼の生活に住み着いた。
時間はAM2:00
世界が最も孤独な時間だ。
まるで世界中に誰もいないかのような静けさ。
これが都会なら幾分状況は違うだろう。
ここは静かだ。
心の家は学生達が住んでいる街から少し離れた所にある。
各公共機関へのアクセスの不便さと、周りの何もなさが2DKのマンションを奇跡的な値段で使わせてくれている。
心は灯りのない部屋で虚空を見つめた。
必要以上に広い部屋が彼の心を小さく小さく押し込める。
孤独だと知らせる。
夜の心は音楽だけを救いにしていた。
Radiohead、The White Stripes、Oasis、BECK…偉大なる21世紀のミュージシャンよ。
いずれ過去の偉大なるミュージシャンとして語り継がれるであろう彼等に嫉妬と尊敬を抱きながら心は囁く。
心の歌声はもの悲しく響く。
I will see you in the next life
心は気付いていなかった。
それが誰かに歌った歌であることを。
AM4:00空がわずかに白み始める。
心は眠りの世界に落ちていく。
空が明るくなって初めて心は心を許す。
悪夢と言う名の運命に抗うことを止める。
これは彼の物語であると共に、彼に携わる全ての人の物語である。
そこに素敵な結末などないかもしれない。
幸せな世界があるのかもしれない。
世界は可能性で出来ている。
歌声は静かに夜に馴染んでいく。ただ、どうか見守ってほしい。
これは知らずにはいられなかった者達の物語なのだから。