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父性遺伝子萌えゆ

作者: 風池陽一

 ゴールデンウィークを利用して大阪の実家に帰省していた田村は、両親と三人で焼肉を食べに来た。

 田村は、五年前から、福岡勤務で一人暮らしをしている。五月以来の三人揃っての外食だった。

 おのおのが上ロース、カルビ、ミノなどを次々と注文し、生ビールも二杯、三杯と飲んでいた。

 父はこの焼肉レストランが大好きで、外食になるとほとんどこの店に来た。注文したものが早くくるので、それが気にいっていたのだ。

 父はとにかく待たされるのが、大嫌いだった。

 スーパーのレジで長い列に並ばされたり、踏切で長時間、車が停車させられたりするのが我慢できない性格だった。しかし、『タイムイズマネー』といった信条を持ち合わせているという訳もなく、ただ短気なだけなのだ。

 店に来て、一時間ほど経っていたろうか。テーブルは来年三月に定年退職となる父の『フランス十二日間の旅』の計画御披露目の場となっていた。田村は、一緒に行く母の古城の見どころの情報をおりまぜた楽しげなプレゼンテーションにもつき合わされていたのだ。ガイドブックを見ながら、みやげは何がいいかなどと話をしている頃には、鉄板の上に、真っ黒にこげたミノや玉ねぎのスライスだけがあり、それを母がはしで皿にのけていた。

 二十分位前に、父が注文した石焼ビビンバ三人前がまだ来ていなかった。それが来るだろうと思い、焼肉を注文するのを控えていた。

 しかし遅いなと、田村がそう思ったときには父は席にいなかった。五分ほどして紅潮した顔の父が戻って席に座るやいなや、「厨房に入って、調理の責任者の男に早くせんかいと怒鳴ってやった」とまたいつもの直情即行動ぶりを語った。

 本来、母は争いごとが大嫌いだ。大きな声を出すだけでも不快になるタイプで、いつもの母なら、父にそんなみっともないことはやめてと言うはずだった。しかし、今晩は久しぶりの三人での外食でもあり、旅行計画の御披露目の日ということもあってか、母は無表情、無言をきめこんでいた。

 すぐに、アルバイトの女店員が「遅くなりましてすみません」と石焼ビビンバを慣れていないのか、一人前ずつ持って来た。

 そのことに今度は田村がいらついた。

 「本当は注文を忘れていたのやろ!」と珍しく声を荒げた。

 すかさず母が、「あなた、福岡に行っている間にお父さんに似てきたのね。」とぽつんと言った。

 田村は、自分の体内に父の血と母の血とが混ざらず分離したまま流れているようで、いごこちが悪かった。

 


 

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