第二話
目の前には自分の体の二倍以上ある巨大なスライムが捕食対象として見下ろしている。
「はっあっっはぁっ」
恐怖と焦りで動悸が起き、その場に尻もちをついた。
こんなことをしている場合じゃないのはわかっている。でも、体がいうことを効いてくれないんだ。
勝ち目なんてない、助けを呼ばなきゃいけないのに。どうして声が出ないんだ。
苦しい。怖い。
誰かぁ、助けて…。
どぷんっ。
スライムが巨大な体をゆっくりと動かし、捕食対象を丸呑みにする。
体毛、皮膚、筋肉、そして骨と次々溶かしていき、それはすっかりなくなってしまった。
「あっうっ」
しかし、スライムが丸呑みにしたのは兎型の魔物で、俺は助かった。
「…ふぅーはぁー」
大きく深呼吸をして整え、体を起こし、手を震わせながらも背中に背負っていた杖を取り出し、スライムに先を向ける。
お願いだから、いうこと聞いてくれ。
震えていた手を何とか落ち着かせ、酸素不足で固まっていた脳を強制的に起こさせ、照準を合わせる。
初めての魔物との対峙がまさか自分よりも圧倒的格上だなんて、運が悪いにも程がある。
でも、算段は立てた。
馬鹿な俺でもなんとか考えついたこの策で、一か八かやるしかない。
杖に魔力を込めるため、体内にある魔力を杖の先へと集中させ、血液の中を魔力がマグマのように流れていくのを感じながらその籠った熱を解放していく。
杖の先に溜まった魔力は炎に変化し、まるで太陽のようにギラギラと辺り一面を燃やすくらいの塊にまで成長した。
(フィアにとってここまでの完成度の高い魔術を出したことは初めてであり、魔力量が成長したということで本来喜ぶべき出来事なのだが、目の前の敵でそうしている場合じゃないため、そこでは気づくことはなかった。)
「隕石!!」
勢いよく射出された炎はまるで隕石のように飛んでいき、スライムに直撃した瞬間、炎は勢いよく爆発した。その爆発の勢いは辺りに轟音と膨大な煙を出すほどの威力をほこっていた。
凄まじい勢いで暴風が起こり、飛ばされないように必死でしゃがみこんで耐えている。
煙でよく見えないが、色んな場所からぴちゃぴちゃと、恐らくスライムが弾け飛んでいるであろう音がした。
だから、たぶん、倒せた気がする。
スライムは小さくなりすぎると生命維持ができなくなり水として還っていく。だからもしそこまで小さくできていれば大丈夫。
風魔術を使って煙を退かしていく。
少しずつ見え始め、目の前にいた巨大スライムはそこには無かった。
「あ、あはは…」
倒したと確信した瞬間にまた尻もちをついてしまった。だが今度は恐怖からではなく、安堵と最後までやり遂げた達成感によるものだ。
汗はだくだくで魔力はあるのにもうこれ以上魔術を打つことなんてできないと錯覚してしまうくらいの疲れがあった。
ただやり遂げたことに今一度、俺に拍手を送りたい。なんだかんだやれるんじゃんか。
壁の近くでの高火力の魔術は危うい時以外の使用は街で禁止されているのだが、こんなことをしたんだ、どんな罪に問われちゃうんだろう。
いや、緊急時なんだし許してくれるでしょ。
興奮冷めやらないまま状態を起こす。
ちゃぷちゃぷ。
ゼリーを皿の上に落とした時のような音が聞こえた。
スライムがあと少しの気力を振り絞っているのか、所々で動いているのが確認できた。
ただ合体するまでの力は残っていないようで、少しずつ溶け始めていた。
「終わった…」
とりあえず一件落着。
ちゃぷちゃぷ。
変だ。さっき土の中に溶けて行ったはずのスライムがまた現れた。
そしてそれは色んな場所で、少しずつだが出始める。
倒したはずなんだ。あの1発で仕留めたはずなのに。
俺はスライムを倒す方法を知らなかった。
街に戻ってから知ったのだが、スライムは火魔術に弱い。ただ、火を当てるだけではなく、完全に蒸発させることが倒すための最低条件。
早く逃げなきゃ。
一目散に逃げようとするが何かが足に絡まって身動きが取れなくなってしまった。
「はぁ、はぁ…」
焦る気持ちを落ち着かせようとするが、足元にはスライムが続々と集まり始め、食べるために巨大になっていたスライムと違い明らかに敵意を持って俺のことを殺そうとしている。
足に絡みついたスライムはみるみるうちに膝下までの大きさになっていた。
焦りからか少し強めの風魔術を使えば何とかなるはずなのに、うまく魔術を練ることができず、歯をガチガチさせながら大きくなるスライムを見ていることしか出来なかった。
「なんで、なんで出来ないんだよ!!」
何度も何度も繰り返しやろうとするが何も出てくれない。
「お願いしますお願いします」
ジューという音が鳴り、靴と靴下が少しずつ溶け始め、次第に蝕み始めていた。
「いいいいういいいいあああああ!!!いだいいだい!!!」
皮膚が溶け味わったことない焼けるような痛みに耐えられず地面に倒れてしまい、そのまま全身を覆うのにそこまで時間はかからなかった。
「うぷっ、ぐぼぁ」
穴という穴に入り込み、獲物を完全に封じ込める。
「ばぶべっ!!ぼっ」
何度もスライムを掴もうとするが液体の為何も出来ず、息の苦しさと痛みに怯え、ひたすらにもがき続けるが、無意味でしか無かった。
「……ん……」
時間の経過と共に身体はいうことを効かなくなり、感覚は失われ、だんだん眠気で気持ちよくなって、そのまま…。
パシュン。
この世界は魔術発動に詠唱が不要ですが、フィアはかっこよくを追求してるため、技名を適当にその場の思いつきでつけますが、センスないのがネックです。
魔術を使うとその使った属性の感覚が体に流れ込んできます。例えば炎魔術を使うと体が暑くなって、いつの間にか汗をかいています。ですがこれは感覚なだけであって実際に熱を出している訳ではなく、脳の錯覚みたいなものです。他にも風、水、土、
それと今回の『隕石』ですが、風魔術を無意識で纏わせています。




